Entrance for Studies in Finance

行き詰まる米住宅ローン証券化 

差し押さえ手続きの停止foreclosure suspension そして 元本削減論の登場
Hiroshi Fukumitsu

アメリカで住宅ローンの差し押さえ手続きが停止されて大きな問題になっている。差し押さえ件数の増加 もあり 手続きの不備が浮かび上がっている。

まず差し押さえforeclosureの概論
mortgage foreclosure overview from lawyers.com
住宅ローンを払えないとき、条件を変更する交渉がまとまらないとき、破産の宣告を受けてのち、差し押さえの手続きが始まる(州によっては借り手から手続きを開始できる)

差し押さえの手続きで、貸し手側は膨大な書類の処理に追われて必要な確認手続きを踏まず、きわめて機械的に書類の山をかたずけていた。

Ally says GMAC mortgage mishandled affidavits on foreclosures, Bloomberg, Sept.21, 2010
Bank of America halts foreclosures in all states, Oct.8, 2010  
a man thinks foreclosure suspension helps his case
Faulty paperworks prompts deepening foreclosure problems, Oct.14, 2010
What are mortgage foreclosure robo signers, UK Guardian, Oct.14, 2010
Law firm says it has proof of illegal foreclosure system, Dec.10, 2010

投資家によるMBS買い戻し要求
証券化の基礎というべき部分が、住宅ローンにおける人間の判断という泥臭い作業に依存していて、その処理で手順が踏まれていなかったことが問題にされている。これは証券化の基礎になっている書類の正確さに誤りがあったということにもなる。差し押さえ手続きの停止に追い込まれたバンクオブアメリカは、他方で投資家から、書類の真正さに問題があったとしてMBS(住宅貸付担保債券)の買い戻し請求を受けている。
Bank of America eyes mortgage buybacks, Oct.19, 2010

Fannie, Freddieによるローン買い戻し要求
手続きに問題があった住宅ローンについて、政府系住宅金融公社がローン債権の買い戻し要求を始めている。
Banks face fight over mortgage loan buybacks, Wall Street Journal, Aug.18, 2010
Bank of America buys back bad loans from Fannie, Freddie, The Hill, January 3, 2011

米国の住宅ローン証券化は、金融の証券化のモデルそのものだが、その基礎の脆弱さが表面化していると言ってよい。少なくともアメリカでは住宅ローン証券化は、その仕組みの安定性に大きな疑問が生じている。(ここまで2011年1月17日)
underwater loan:recourse or non-recourse

元本削減論
 景気の悪化により借り手の返済能力が低下しているとして、金融機関に自発的な元本削減を求める議論が起きているとのこと。これに対する反論は、借り手のモラルハザードをあおることであるが、経済回復の促進と、金融機関の損失の実質的な軽減とにつながると主張されているようだ。この議論は、ヨーロッパでギリシャ政府に対して、秩序あるデフォルトorderly defaults、つまり民間金融機関が債権の削減を飲んだことと対応している。これに対して、金融機関は債権の回収は可能と主張しているとのこと。支払い能力がありながら、意図的に支払いを停止する戦略的デフォルトstrategic defaultsの増加が知られていることも、金融機関のこうした強気の姿勢の一因だろう。
資料 米国で高まる住宅ローン削減論 『エコノミスト』2011年12月20日号, p.95
EU首脳会議 秩序あるデフォルトで合意(2011年10月27日)
戦略的デフォルトについて 金融学会2011年度秋季全国大会報告要旨
    戦略的デフォルトについて 成城大学経済研究193号 2011年7月

参照 学費ローン返済での借金棒引きの拡大
こうした中、学費ローン(学生ローン)改革の前倒しが決まったとのこと。2010年に施行されたヘルスケア改革法の付加条項により、2014年より学費ローン返済額の上限を可処分所得の10%にまで下げ(現在は15%)、返済開始から20年経過した時点で棒引きにする(現在は25年)というもの。この制度改革を2011年10月末の行政命令により2012年に繰り上げ実施したもの。米国では学生自身が学費を負担することが多く、奨学金をもらったりローンを組む。そのため米国の学生は卒業時に平均して2万ドルあまりのローンを抱えている。背景には米国の平均家計収入が約5万ドルに対し一流私立大学の学費は年4万ドルを超えるなど、大学学費の高騰がある。一般の米国人にとって、大学教育が手の届かない世界になりつつある。そうした中で若年失業率の高さがあるなか、オバマはコロラド大学で演説を行い、行政命令のお披露目をおこなったとのこと。
参照 「若者受けを狙った学費ローンの前倒し」『エコノミスト』2011年11月29日, 74.

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
(2011年1月17日初稿 2011年12月20日追記)

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