Hiroshi Fukumitsu
EU, IMFが最大1100億ユーロの資金支援を用意(2010年5月2日)
2010-2012の3年間に総額1100億ユーロの協調融資枠設定で合意(2010年5月2日 2け国間融資が800億ユーロ、IMFが300億ユーロ 初年度はそれぞれ300億ユーロと150億ユーロ)。またその後ユーロ加盟国に向けて最大総額7500億ユーロの金融支援(相互支援制度 緊急融資制度)でも合意した(2010年5月10日)。またこれと合わせ欧州中央銀行は債券市場への介入を開始した。また日米欧の中央銀行が協調してドル資金を供給することも行われた。5月2日の合意は5月19日の85億ユーロに及ぶギリシア国債大量償還を控え時間的にギリギリだった。
5月18日に200億ユーロの緊急融資がギリシア政府に対し実行された。ギリシアは公務員の賃金削減、VAT率の引き上げ(19%⇒21%)、年金削減などで3年間で300億ユーロの財政赤字削減を国際公約実現目指す。公務員組合は激しく反発抵抗の構え。
危機の波及にはいたっていないもののポルトガル、スペイン、イタリアなどの財政の悪化した南欧諸国の支払い能力が回復すること(財政再建)にも疑問がでており、ユーロ売り(ユーロ圏への投資の縮小)、金など貴金属などへの資金流入が続く(財政赤字GDP比3%および政府債務GDP比60%という目標にむけての緊縮財政政策発表が景気悪化を招く悪循環に入っている 同様の動きは独仏でも財政再建の加速には国民の反発を招く矛盾もある)。
S&Pがギリシャの国債を格下げ(2010年4月27日)
4月9日のフィッチのよる格下げのあと(BBBプラスからBBBマイナス)、S&Pは2010年4月27日ギリシャの国債を投機的水準にまで格下げ(BBBプラスからBBプラスへ。ポルトガルについてはAプラスからAマイナスへ。28日にはスペインをAAプラスからAAへ格下げ)。ギリシャ国債の利回りは上昇。欧州株は軒並み下落した(日本市場は円安・株高に振れた)。この格下げは昨2009年12月の格下げに続き、ギリシャ政府を追いこむことになった。これはソブリンリスク(政府の信認問題)とされている。
ドイツ(5月の州議会選挙)とフランス(3月の地方選)の首脳は、それぞれ不人気なギリシャ支援を渋り、支援に消極的との印象を与えた。ドイツのメルケルは最後に追い詰められた(そもそもギリシアなどをユーロに入れたことが間違いとの説が強い。もともと競争力、財政規律のことなる国を一つの通貨圏にして、財政政策は統一しないというユーロ型統合の矛盾が出たといえる。)。ギリシャの国債は利回りが8%台から急上昇し4月28日に13%の流通利回りとなった。これに対し各国は対応について4月30日から閣僚級の電話協議を断続的に続け、5月2日には緊急会議を開いた。
ギリシャ救済で合意(2010年3月25日)
欧州連合諸国(ユーロ圏16ケ国の首脳)は2010年3月25日、ギリシャが市場から資金調達できなくなった場合、ユーロ導入国とIMFで協調融資の形で資金繰りを支援する(推定で最大200億ユーロ)合意を行った(ただし全会一致という高いハードルが慎重なドイツの意向をくんでつけられたので借入は実際には困難で、ギリシャの信用不安は続くことになる )。これは3月3日のギリシャによる財政赤字削減策公表を受けたもの。ギリシャの信用スプレッドは高止まりしており、財政圧迫の懸念が高まっている。
4月11日欧州ユーロ圏16ケ国が最大300億ユーロの緊急融資で合意。その後4月16日欧州ユーロ圏16ケ国が最大300億ユーロの緊急融資で改めて合意。4月22日ワシントンで開かれたG7先進国財務相中央銀行総裁会議はギリシャ問題について討議したものの、財政再建を見守る姿勢にとどまった。4月23日、ギリシャ政府は市場の不安に対処するため、欧州連合、国際通貨基金、欧州中央銀行に対して資金支援を要請した。ギリシャは5月19日に国債の大量償還を控えておりこれをギリシャ政府が賄えるか懸念が生じている(ギリシャ政府は4月13日には計15億6000万ユーロ。その後4月20日にも19憶5000万ユーロ国債を発行。資金調達を急いでいる)。この状況を受けてユーロ圏16カ国の緊急首脳会議が5月10日に開催予定。
ギリシャがEU財務相会議で注意される(2009年12月3日)
ドバイショックのあと、ギリシャの財政赤字が注目された。2009年でGDPの13%(12.7%)。債務残高は対GDP比110%。EUの財政協定では3%以内。政府債務残高の対GNP比率は60%以内。ギリシャ(2001年にユーロを導入)の数値はユーロ圏では最悪の数値。若年失業率が20%を超えるなど雇用は深刻。2010年2月10日には、政府による公務員給与凍結に抗議して公務員労組が45万人(ギリシャの人口は1100万ほど)が参加したストを実施。
2009年12月3日のEU財務相会議はギリシャに抜本的な財政再建策をうながした(主要国は金融危機での非常時対応について2012-2013年までに平時の財政運営に戻る方針)。
PIIGS=ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スぺインと呼ばれる南欧諸国。ユーロ圏の中で経済が弱く、信用力も劣る国の一角に位置する。5ケ国全体への与信はドイツが自国GDPの19%相当額、フランスが30%相当額。ギリシャの破たんはヨーロッパ全体に波及しかねない。
ギリシャにポルトガルの銀行がポルトガルのGDPの4%相当額を貸し、ポルトガルへはスペインの銀行がスペインのGDPの5%を貸すというようにこれらの国は依存しあっている。スペインに対してはドイツの銀行がドイツGDPの6%相当を貸している。危機の連鎖はドイツに波及しかねない。
欧州各国の2009年財政赤字GDP比%
ギリシャ | 12.7 |
アイルランド | 12.5 |
英国 | 12.1 |
スペイン | 11.2 |
EU全体 | 6.9 |
ドイツ | 3.4 |
ギリシャの国債格付けが引き下げられる(2009年12月8日)
10月に発足した新政権(パパンドレウ首相)が前政権の統計処理に不備があったとして財政赤字の規模を対GDP3.7%から12.5%に上方修正(その後2010年4月に13.6%に修正)。ドバイの信用不安が高まるなか、ギリシャの国債格付け引き下げで動揺が広がった(12月8日にフィッチがAマイナスからBBBプラスに引き下げた。欧州中央銀行が民間銀行に貸し付けるときの各国国債の格付け条件はシングルAマイナス以上。金融危機対応でトリプルBマイナスに緩和中だが2010年末までに戻す方針。その場合、ギリシャの民間銀行は窮地に立たされる)。
幸い観光業には金融市場の動揺の影響が少なく、地元金融機関も平静。
ギリシャ政府は財政赤字を2013年までに3%以内に削減するとしている。背景として予想を上回る景気減速。前政権による歳出拡大があるとしている。緊縮路線、徴税強化、賃金抑制、公共部門の民営化などについては、ギリシャでは、有権者の抵抗が大きく、構造改革が実行できるかが注目される。
ギリシャの問題は他の南欧諸国(ポルトガル、さらにスペイン)への懸念が広がり、さらにはユーロへの売りを誘っている。
ギリシャの財政赤字はアメリカ並み 累積残高では日本の方が悪い
ひるがえって日本の財政赤字はどうか。2009年9月末の国の借金は864兆5226億円。2009年6月末に過去最大額を更新。しかし9月末はそれより4兆2669億円多い。また2010年3月末までに約29兆円増える見込みである。
2009年度末の借金残高は国と地方を合わせて825兆円。GDPに対する比率は171%(08年度末の156%より悪化)。これはギリシャより悪い。
国際通貨基金IMF発表の数値では、日本の財政赤字の対GDP比率は、2007年2.5%、2009年10.5%(推定)。米国は、2.8%、12.5%。中国は、0.9%(黒字)、3.9%(赤字)。つまりギリシャの財政赤字のGDP比は、アメリカ並み。日本(推定)はそれよりは若干低いが、十分大きな数値である。
なお債務残高についての日本の数値は、ギリシャにくらべても悪い。
金融危機後、主要国の財政収支は一様に急速に悪化。長期金利の上昇懸念があるなか平時にいかに復帰するかが共通の課題になっている。なお国家に対する投融資か生じるリスクをソブリンリスクといい、今回はソブリンリスクというモンスターが姿を現したと評される。
日本では銀行による国債消化が今後も可能かが焦点
2009年12月10日には鳩山由紀夫首相が新年度予算における新規国債発行額を44兆円以下という自ら掲げた方針を撤回。歯止めが失われたとの批判がでている。
こうした中で国債の金利には上昇圧力がかかっている(10年物で09年平均で1.4%は物価の下落、潜在成長率の低下を考えると0.9%程度の上乗せがある 内閣府レポート日本経済2009-2010による 2009年はおおむね1.2%台から1.5%台の間で変動した。政府の追加経済対策に伴う約17兆円の国債増発を受けて6月11日に1.56%にまで上昇。その後7月上旬1.2%台まで下落。8月10日1.46%。その後10月6日1.24%まで下落。その後上昇)。
金融機関は財政規律の悪化による需給悪化以上に、鳩山政権の方向感のないあいまいな政権運営が不安を高めている(→金利の押し上げ圧力)。しかし景気の低迷であふれる余剰資金が行き場を求めて安全資産である国債に向かっている側面もある(→金利の押し下げ圧力)。
結果として中期債に銀行の資金が集中する一方、財政の健全性への懸念から超長期への買い手の反応は鈍いようだ。これは後者の買い手である生保への余剰資金が銀行のように積みあがっていないという理由もある。
なおこのように銀行の資金が貸出から国債・政府機関債に移動する状況は、米国でも見られる。これを米国債券市場の日本化現象という人(みずほ証券の高田創氏)もいる。日米間の長期金利差は経験的に2%程度とされ、これが縮小すると円高ドル安要因になるとされる。
銀行の国債保有については、長期金利上昇を抑えているとの評価がある。国際会計基準で国債についても時価評価の対象になると、国債から資金が流出して金利が上昇する可能性があるとされる。
1999年のユーロ創設から11年にして、欧州通貨統合は試練のときを迎えている。加盟27ケ国 人口5億人強 GDP18長3000億ドル(2008年)。米国を上回る。
池上彰氏は、ギリシャは観光業でGDPの7割を稼いでいる国なので、ユーロに入ってユーロ圏から観光客を誘致したいばかりに、財政赤字は少ないとウソをついてユーロに加入した。ところが2009年に政権交代した結果、巨額の財政赤字が表面化した。当初は怒ったヨーロッパ諸国もユーロ加盟国への問題の波及を恐れてギリシャ支援にまわることになった。財政は各国個別、金融政策はECBという欧州連合の在り方にそもそも無理があるのではないか、とまとめている。池上彰『世界の大問題37』角川SSC, 2010年, pp.60-61.
導入予定措置含む財政再建策(ギリシャは財政赤字を09年の15.4%を2014年末までに3%以下に引き下げる)
ギリシャ | アイルランド |
付加価値税引き上げ19%から23%へ 年金支給開始年齢を10年近く引き上げ 2014年まで公務員給与凍結 クリスマス及びイースター休暇時の公務員ボーナスの廃止 | 付加価値税21%から23%へ 一定額を超す公的年金支給額を平均4%引き下げ 水道料金有料化 大学授業料引き上げ 児童手当の削減 |
日経2010年12月21日より抜粋
S&P格付けによる各国の信用格付け
AAA | ドイツ フランス オランダ 米国 |
AA(弱含み) | ベルギー スペイン 日本 |
A+ | イタリア |
A-(格下げ検討) | ポルトガル |
A(格下げ検討) | アイルランド |
BB+ | ギリシャ(格下げ検討) |
日経2010年12月22日より抜粋
Key words
Keynesian policy | fiscal policy, monetary policy, mixed economy |
Supply-side policy | monetarists, free market ecnomics |
originally appeared in Dec.23, 2009.
corrected and reposted in April 30, 2010, November 21, 2010 and January 17, 2011
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