Entrance for Studies in Finance

株主資本 自社株買い 自己資本 評価換算差額 純資産

株式を使った資金調達(equity finance)には希薄化dilutionという基本的問題がある。株式発行企業によるこの問題への対応手段に、手元資金を使った自社株買いstock buybacksがある。旧稿「自社株買いによる資本構成見直し戦略」

 もともと株式発行は企業が資本充実のために行ったはずであるから、自社株買い=株式を買い取り回収する行為は「資本充実」に反するので禁止されていた。しかし1990年代に株価対策として容認されるようになった(そこで持ち出された議論が以下の総配分性向に見られる株主への利益還元政策という議論。なお自社株買いは手元金を使うから株価に対する効果は、中立的だという議論は当時もあった。)。株価対策として1994年に消却を目的に解禁。2001年10月には目的を限定せず原則自由化され、買い取った自社株を消却せずにさまざまに活用する金庫株treasury stock制度が解禁された。金庫株は2001年解禁。株主総会で自社株取得枠設定。金額 株数の上限 取得時期を定める。2003年規制緩和(定款を変更すれば一定の範囲内で、取締役会で機動的に枠設定可能になった)。
 B/S 貸借対照表上、自社株はどう扱われるのか。資産項目からたとえば現金が減り、市場で自社株が購入されると、資産項目で現金が減り、右側の資本項目に自社株が現れるが、控除項目で(マイナスで)記入される。すなわち株主資本=資本金+準備金+内部留保ー自己株式 である。そしてこの株主資本に資産の含み損益(評価換算差額)を加えたものが自己資本である。すなわち

自己資本=株主資本+資産の含み損益 

子会社について親会社の持ち分でないものを少数者株主持ち分というが、この大きさは親会社の純資産段階の資本勘定に少数株主持ち分として記載される。自己資本に新株予約権と、この少数株主持ち分をくわえたものを純資産である。

面倒だが、2006年以降、株主資本、自己資本、純資産は概念的に同一ではなくなっていて、後者になるほど大きな概念になっている。

自己株式の取得については、このように資産項目と資本項目の間の、おカネの動きとして考えると大変理解しやすい。資本項目にある自社株を売れば、同額が資産項目に現れることになる。つまり資金調達になる。新株予約権と少数株主持ち分は自己資本とすることはできない。がしかし純資産というくくりには入れる扱いである。

しかし2014年には2008年の水準に迫るペースになった。自社株買いの資金をどうするか(手元資金を使うか 借り入れるか)。購入した自社株を消却するか、手元に金庫株として置くかなどの点で選択がある。そうした意味で財務戦略における、考察対象として適切なテーマでもある。

手元資金で自社株買いをするのは ①手元資金を減らし小さな資本にして資本効率を重視する ②自社株買いで株価を上げる形で株主に利益還元する といった受け止め方であろう。2014年の自社株買いは39000億円ベース。この水準は2008年の48300億円に次ぐもので6年ぶりの高水準。多いのは完全償却するもの(全体の7-8割)。転換社債で資金調達して購入資金にあてうるリキャップCBも多かった。自社株買いの増加を反映して筆頭株主は自社であるものが、2014年9月末で314社。過去最多になった。

購入された自社株は消却が一つの方法。手元に残しても議決権はなく 配当も払う必要がない。1株当たり利益EPS 自己資本利益率の改善につながる。などの効果がある。多いのは完全償却するもの。これは消却しないと再放出懸念から株式価値希薄化懸念が残るため。また企業買収の通貨に使える(海外ではこの手法が日本より多いとされるがやはり多いのは償却である)。もう一度発行して資金調達に使う。ストックオプションに使うものもある

他方で借金をして自社株買いをするのは(バランスシートを拡大するから)ゆがんだ現象と考えられている。とくに借金をして自社株買いをして、それを役員の報酬に使うと、借金が報酬に置き換わることになる。研究開発投資(R&D)にではなく、自社株買い(repurchese and dividend)に借金が使われることには批判が強い

パナソニックがパノソニック電工と三洋電機を株式交換で完全子会社するとき金庫株を交付した事例がある。ユニチャームは2013年にCBを償還するとき株式の転換請求があったときは金庫株を当てて発行済株式数を抑えない措置を取った。2013年7月に大和ハウス工業は、公募増資と金庫株2000万を売り出している。

総配分性向、総還元性向という言い方があります。

配当に自社株買いと合わせて総配分性向という考え方が、株主に対する利益還元を示す数値として導入された。これを受け総配分性向(配当+自社株買い)/純利益を目標とする企業も増えている。総分配性向、総還元性向、ともいう。ホンダは3割、資生堂や東京ガス(07/03期)は6割を目標(2006年)。
総配分性向を2割ー3割とする(日新製鋼)

自社株買いが目標から脱落
 しかし2007年以降 もとの配分性向の目標を重視する企業が現れた。これは企業が手元資金を維持する戦略に転換した時期と一致している。キャノン 株主還元性向30%の目標を廃止 配当性向だけで30% 配当政策重視の趣旨(2007/02)。日清製粉 自社株買いは白紙 配当性向3割維持(2008/11)。クラレ 今後配当性向を3割目標 自社株買いを目標に加えない方針(2009/07)

景気の悪化が一時自社株買い減少させた
利益還元政策(株主配分策)としての比較では配当の方が個人株主に理解されやすい。景気低迷 成長資金確保のためにも自社株買い減る? 景気低迷期は個人投資家に理解されやすい配当を維持して内部留保を確保する傾向(銀行、医薬品など自社株買いの常連が内部留保を優先) 
日本では2007年⇒2008年⇒2009年減少
2006411月で54300億円(上場企業)
2007年度 株数で11億株を超え株数では過去最高 金額は25000億円強(株価急落)
2008年 42748億円
2008年度3兆7000億円(上場会社自社株買い)
2008/10/14 政府 1日あたりの自社株取得上限 過去4週間の平均売買高の25%から100%に引き上げ
2009年 9923億円 1兆円を割り込む
比較 配当金額と自社株買い額(規模、機動性で配当に比べ使いやすい 財務内容の健全性が減るときなど減少) アメリカでは2005年から2006年ブーム 2007年⇒2008年で減少
今後景気回復とともに自社株買い減少に歯止め(2009年秋~2010年春)とも。
手元資金の使い方:内部留保(手元資金積み増し)するか自社株買いかの選択
最近はM&Aに備え十分な手元資金が必要(医薬品など)。大型投資に備えるため
自社株買い抑制。現金流出を伴う自社株買いは財務内容を悪化させるとの考えもある
利益低迷下での手元資金確保、設備投資資金、投資資金。

自社株買い再考
  機動性のよさ(取締役会の判断で実施するしない、規模をどうするかなど柔軟に変更できる。中断・再開など。柔軟性に企業側に支持。配当については変更しにくい。配当(一度決めると減らしにくい)に比べ時期や金額の面で柔軟性がある。反面この柔軟性は投資家側には不安材料となる)。その意味は株主資本を減らし最適な資本構成を実現する。

資本コスト: 最適資本構成比率が存在してそれを実現することは財務戦略の目標の一つになるまた自社株買いには投資家に対して自社の株価は割安との情報を伝えるアナウンスメント効果
需給関係を安定させる。⇒理論上は株価に中立
⇒インサイダー取引規制にかかりやすい(株価に影響する重要事実を公表前に実施したとされて課徴金を課せられるリスクあり 買いつけ信託銀行、投資顧問会社に委託する方法もある)事例 2007年2月 2005年7月実施の自社株買いで子会社の解散という重要事実を開示する前に自社株買いを実施したことが分かったと公表(コマツ?)。

資本効率の改善(自己資本を減らす)。自社株買いの資金 負債をくみあわせることで資本効率の改善を大胆に行うことができる。
借入でやる  (借り入れ+自社株買い) 
社債発行でやる(社債発行+自社株買い)
{このような組み合わせは興味深い。debt-equity swapでは債務と資本の交換により自己資本を増やすことができた。項目の組み合わせにより効果は高まる。

leveraged recapitalization旧稿「自社株買いによる資本構成見直し戦略」}
この財務戦略が最初に話題にされたのは、借入をテコにした企業買収leveraged buyoutにおいてであった。そこでは借入により買収資金を調達すると、買収のあとに残される企業の債務比率が急上昇することが問題になったが、これは見かたを変えれば自己資本の効率を追求した買収方法だともいえる。このお話を、自己株式取得の場合にあてはめたのがここでの議論である。leveraged recpitalizationは最近では、自己株式取得や配当支払を借入で賄う財務戦略として紹介されている。
leveraged recapitalization

株価対策(資本効率の改善)以外の自社株買いの解釈:資本コストの引き下げ
債務比率を上げることの合理性として、債務を増やして株式を減らすことで資本コストが下がるからという説明がある。もちろん自己資本を減らす過ぎれば負債コストは上がり始める。

        CB発行+自社株買い=これをリキャップCBといいます。近年注目される財務手法です。
        まずブリッジローン、社債発行で短期を長期に切り替え
        リキャップCBの狙い  ゼロコストに近い転換社債CBの発行で株式を消却すれば 資本コストが当面下がると思われます。議論が分かれるのは株価引き上げ効果です。当面は流通する株数が減少しますが、そもそも転換社債は株式に置き換わるので、株価に与える影響は中立的ではないかと指摘されるわけです。しかしもう一つの狙いがあります。市場で流通している株を吸収して、株を関係先に当てはめる効果です。CBを私募形式で発行することで第三者割当発行で株式を発行しなおしたのと同等の効果が得られるのです(下記)。すると、その分は安定保有になりますので、株価引き上げ効果が生まれるという解釈が成立することになります

転換社債発行で自社株買いをするケースについては、株主を入れ替えているとの解釈もある。株主構成の入れ替え(よりリスクの取れる株主へ)、市場で一般の個人株主から株式を購入。他方CBはリスクをとれる特定の相手に割り当て発行しているという。 
         ヤマダ電機 アサヒビール:リキャップCB
 2008年2月28日発表 JFE 3000億円のCB発行(3メガが割り当て対象)+1200億円の自社株買い (個人株主を減らし安定株主を増やす)。自社株買いでは金庫株の消却問題(潜在的株式として株価押し下げ要因。転換社債の問題と類似)がある。自社株買いは消却に進めば希薄化懸念払しょくすることになる。資本準備金⇒その他資本剰余金に振り替え⇒取締役会決議で消却
自社株取得。自己資本利益率 ROEの改善(買い付け額:株主資本の控除) 資本効率の改善
EPS(1株あたり利益)改善効果
バリュー投資家に注目され株価回復につながる。
株価対策
期限(いつまでに) 取得上限額
実施率
枠が残る 買収対抗余地 株価上昇余地
自社株買いで金庫株を増やす(自己資本から差し引かれ自己資本が減る)
貸借対照表上の金庫株の扱い(自社株取得)
株価が下がると含み損
金庫株の活用策⇒株主の利益とぶつかる場合もある
金庫株が多い⇒市場には再放出懸念
<自社株買い後1年間、目的なく金庫株を塩漬けにしている企業は投資対象から外す>
売り出し(成長資金の確保 市場に再放出懸念)
     財務体質の強化? しかし市場にとっては?
消却の意味付け
 「消却することで自社株買いが利益配分であることを明確にする」(住生活G)
 「当面エクイテイファイナンスはしない意思表示」(旭化成)
 「金庫株の消却まで踏み込むことで株主配分の重視を鮮明にする」(大正製薬)
 「金庫株の保有 新株を発行に比べM&Aに即応しやすい」=資本政策の柔軟性の確保
保有する金庫株に限度を設ける
 「発行済み株式数の10%を超える金庫株をすべて消却する」(オムロン) 
 「発行済み株式の5%を超えた金庫株は消却する」(NTTドコモ)
 「自社株保有比率は発行済み株式の5%程度とする」(住生活G)
 「金庫株は発行済み株式数の1-2%でいい」(アステラス製薬) 
金庫株の理由付け
持ち合いに活用(取引先との関係強化)
株式交換によるM&A
     資金流出がない
ストックオプションに活用
 「役員や従業員に対して付与したストックオプションの権利行使に備える」(住生活G)
新株予約権付社債の株式転換に使う
2010-06-06
2017-03-16更新

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