Entrance for Studies in Finance

新興株市場の低迷について

1.低迷続く新興株市場 
 2006年1月のライブドアショックのあと新興株市場は低迷・下落が続いていた。2006年の株式公開IPOそのものは年間で188社と高水準でこれは2000年の203社に次ぐ水準。しかし売買高は低迷。背景には投資家の不信感や、市場の中心銘柄の業績不振がある。
 株価指数の動きをみると日経ジャスダック指数は2006年の頭から2006年の末にかけて3割程度下落しその後は反騰を伺い2007年前半には一時2割下落のところまで戻すがやがて軟化。2007年8月頭には2006年年頭比で再び3割下落の水準にまで下げた。東証マザーズ指数は2006年の頭から2006年の7月までわずか半年ほどでまず6割程度下落。その後戻りもあったが軟調は変わらず2007年8月頭で2006年年頭比で7割下落の水準にあった。こうした状況で2007年8月のサブプライムローン危機に始まる全般的な株価下落を迎えたのである。
 2008年6月末現在。新興株市場はかなり低い相場水準にある。上場基準を工夫して緩和して新興企業を上場企業と同様に扱うという政策そのものがそもそも誤りなのではないかという指摘もある。
 
DateREIT IndexNIKKEI 225N-JasdaqMothers
07/05/252566.8217481.212028.40853.35
07/06/292298.53(100)18138.63(100)2124.19(100)909.78(100)
07/07/271992.1117283.812036.91839.27
07/08/312005.7016569.091907.96729.66
07/09/282061.45(90)16785.69(93)1861.32(88)732.72(81)
07/10/311973.2216737.631864.71944.06
07/11/301864.1215513.741751.92893.39
07/12/281868.57(81)15307.78(84)1730.66(81)783.66(86)
08/01/311579.8013592.471555.08653.18
08/02/291564.7413603.021553.27695.33
08/03/311460.85(64)12525.54(69)1454.46(68)620.90(68)
08/04/301492.0013849.991472.80610.94
08/05/301538.6214338.541527.70652.35
08/06/301395.10(61)13481.38(74)1495.48(70)540.35(59)


2.信用取引の動向
 個人投資家の動向については信用買いした銘柄についての信用評価損益率の大きさが参照される。経験的にこの数値は含み損の形で推移する。含み損が5%より小さくなると相場は天井を打ったとされる。利益が出ている銘柄が大きく利益確定売りがでやすい。逆に含み損が10%を超えると損失確定売りが増えるとされる。
 この数字はまず東証全体についてみると、2006年頭にはほとんどゼロの水準から次第にマイナスに転じ2006年半ばに20%近くになり売りの一巡が感じられた。事実その後2007年初春にかけてゼロ近くまで改善。しかし再び6月にかけて10%に近付き売りが出やすい状況になった。
 数字を取りやすい3市場の様子を以下に掲げる。信用評価損益率はサブプライム危機のところで再び20%に接近した。また値上がりを期待する注文である買い残が急速に減少しているのは信用取引の買いを手じまう動きが多かったことを示すものだろう。買い残は売りによって清算されるので買い残の減少は売り圧力の減少となる。またこの買いが再び増えること(また売り残に対する買い残の比率である信用倍率の上昇は)は、投資家が相場の回復を確信したサインになる。
日付け売り残買い残信用評価損益率信用倍率日経平均 225
07/07/27**14339億円43312億円-9.81%3.02倍17283.81
07/08/311275537648-13.772.9716569.09
07/09/071259337761-16.333.0016122.16
07/09/141317936026-17.992.7316127.42
07/09/211283934629-16.912.7016312.61


3.ジャスダック銘柄の事例分析
 ジャスダックについて同じ数値をみると2006年2月頃までに一気に20%近くまで下がり反転するどころか2006年年央にかけ30%近くまで損失が拡大しそのまま年末に推移している。個人投資家がいかに大きな損失を被ったかが伺える。
では新興株市場にはそもそもどのような会社が上場しているのだろうか。ジャスダック(旧店頭市場)の代表はおそらくスターツ(1989年9月店頭公開)、レーザーテック(1990店頭公開 半導体部品及び液晶の検査装置)、ハーモニックドライブシステムズ(1998年3月店頭公開 産業機械用精密減速機)、楽天株式会社(2000年4月店頭公開)、レックス(2000年12月店頭公開 外食チェーン 07年4月29日上場廃止)、タスコシステム(2001年 居酒屋チェーン)、日本マクドナルド(2001年7月 外食)、幻冬舎(2003年1月 出版)、テレウェイヴ(2003年2月 中小企業向けIT支援)、エキサイト(2004年11月 ポータルサイト)、ジュピターテレコム(J:COM)(2005年3月)、平田機工(2006年12月 産業用生産設備など)そしてヤフー(2007年2月)など(公開あるいは上場順)。このうちヤフーは2003年10月に東証1部に上場しているにもかかわらず、少数特定者持ち株比率規制(上場維持は75%以下が条件)で上場廃止懸念があるため、ジャスダックに重複上場してきた変り種。
 以上のうちいくつかの銘柄について、本年の相場動向をみると、明らかな違いがある。表は回復力の高い順に整理したもの。サブプライムローン問題では不動産関連(スターツ)が嫌われる一方、ネット情報関連(楽天 ヤフーほか)が復活している。日本マクドナルドは回復力は小さいが振幅の幅が小さく安定感がある。
銘柄名07/08/28終値年初来高値との比較年初来安値との比較
楽天40050-27500 -40.7%+6750 +20.3%
ヤフー41550-8450 -17.0%+6350 +18.0%
レーザーテック2675-525 -16.4%+365 +15.8%
WOWWOW236000-212000 -47.3%+11000 +4.9%
エキサイト153000-265000 -63.4%+13000 +9.8%
日本マクドナルド1967-138 -6.6%+78 +4.1%
ハーモニック491000-209000 -29.9%+5000 +1.0%
スターツ571-249 -30.2%+1 +0.2%
タスコシステム5390-13010 -70.7%-410 -7.1%


4.マザーズ上場銘柄の事例分析
 マザーズ上場は、サイバーエージェント(2000年3月 インターネット広告代理店)、スカイマーク(2000年5月)、WOWWOW(2001年4月)、サイバーコミュニケーションズ(CCi)(2003年3月 ヘラクレスと重複上場 2005年6月 ヘラクレスでの上場廃止 インターネット広告代理店)、ディー・エヌ・エイ(DeNA)(2005年2月 携帯電話向けSNSモマゲータウンを運営)、京樽(2005年9月)、ドリコム(2006年2月 ブログシステム開発)、アドウェイズ(2006年6月 成果報酬型広告アフィリエイト)、ミクシィ(2006年9月 SNS)、ペッパーフードサービス(2006年9月)など。ヘラクレス上場は、USEN(2001年4月)、アイレップ(iREP 検索連動型ネット広告)(2006年11月)など。
 以下にはマザーズ上場銘柄の事例分析を掲げる。情報関連銘柄は値段の上げ下げの振幅が大きい傾向があるようだ。サブプライム危機のあと、ここでもネット情報関連が健闘している。外食は今一つ元気がない。
銘柄名07/08/28終値年初来高値との比較年初来安値との比較
スカイマーク329-134 -28.9%+153 +86.9%
アドウェイズ64500-152500 -70.3%+18400 +39.9%
ミクシィ839000-1841000 -68.7%+128000 +18.0%
サイバーエージェント50800-102200 -66.8%+6200 +14.9%
サイバーコミュニケーションズ50800-81200 -83.2%+5650 +12.5%
ドリコム325000-1615000 -83.2%+30000 +10.2%
WOWWOW236000-212000 -47.3%+11000 +4.9%
京樽101000-41000 -28.9%+1000 +1.0%
ペッパーフード90800-119200 -56.8%0 0.0%


5.新興株市場創設の経緯と現状の評価
 新興株市場は経済活性化の重点政策として、新興企業の育成が問題となるなかで、企業設立から上場公開に時間がかかりすぎて、証券市場が新興企業の資金調達の場として機能していないとの反省から設けられた。
 1999年には東京証券取引所がマザーズを創設。赤字企業にも株式企業上場の道を開いた。公開基準を緩める代わり企業業績の4半期開示を義務付けた。2000年には大阪証券取引所にナスダックジャパン(現在のヘラクレス)も設けられた。このほかジャスダック、アンビシャス(札幌)、セントレックス(名古屋)、福岡Qボード。
このように上場基準の緩い新興市場が開設され、退出ルールが十分機能しないなかで、投資家が安心して資金を託せない企業が新興市場に増えてしまったことが投資家の不信感の原因との指摘がある。
 この間2005年2月までに全上場企業に「情報開示」に誠実に取り組むとの宣誓書が義務付けられた。しかしこの義務付けは新興株についての投資家の信頼の回復には役立たなかった。業績見通しの大幅な下方修正などが多く、開示情報そのものが株価操作になりかねないケースが見られた。
また新興企業は、上場企業の立場を利用して、株式の絡んだ新しい資金調達方法を使うことが多かった。これらの資金調達は、株主権の希薄化(株価の下落)につながる可能性があり、慎重に行われるべきものであった。また別の視点でみると、これは現在の株主から資金を供給した側に株式の比重が急速に移ること、つまり現在の株主の支配権が失われるという問題を含んでいる。しかし一見すると資金調達であるように見えるため、株主の側はこのリスクに気がつくのが遅くなるこのような資金調達を、英語では株主支配権を死に至らしめる行為としてdeath spiralと呼んでいる。
 このようなファイナンスの受け手、つまり資金の出し手として、証券会社、そしてやがて買収ファンドが登場するようになった。問題はファイナンスの目的にある。新興企業の成長にあるのならよいが、ファイナンスを利用した金儲けに過ぎないのでは問題があろう。
 ① MSワラント(新株予約権)。行使価格修正条項付きワラント。株価下落により行使価格が下方修正されるため、ホルダーから株を安く手に入れようと株価下落圧力がかかるとされる。結果として大量の株式発行となることもある。
 ② MSCB。転換価格修正条項付き転換社債。株価下落により転換価格が下方修正されるため、ホルダーから株価下落圧力がかかるとされる。結果として大量の株式発行となることもある。
このような資金調達は、借り入れや社債発行が困難な企業によって行われることがある。引き受け先の企業やファンドにとっては、行使価格(転換価格)が時価より低ければ、引受のメリットは充分あることになるが、株主にすれば業績低迷で株価が下落しているもとで、さらに株価を下げる要因となる。こうした引き受けを証券発行を手伝う証券会社が自己資金で行うケースでは、証券会社は証券発行で手数料に加え低い行使価格と時価との差でも利益を上げるのだが、結果として株数を増やして株価を下げてしまうこともある。
 またこのように調達した資金によって、設備投資や研究開発が行われるのではなく、企業買収によって急速な企業規模の拡大を図ることも見られる。ただし消長の激しい分野では新分野関連分野に投資して事業展開の立ち遅れを防ぐことは、経営戦略として否定できない。もちろん企業買収は株式交換方式によることもある。
 そもそも投資は成功するとは限らないが、このような企業買収で同一の分野に投資を重ねると、投資が重層的構造になる。これは株価が上昇局面では含み益になり投資する側の株価を押し上げるが、株価の下落局面では反対に株価下落圧力として働く怖さがある。
 巨額損失の事例としてフォーサイドドットコム(ジャスダック 携帯情報向け情報配信)の場合は2006年12月期決算で買収した英国子会社アイタッチの売却処理に関わるのれん代など特別損失713億円を計上。743億円の売上がありながら最終損益は606億円の赤字となった。

07年末ヘラクレスジャスダック
上場会社数173979
時価総額17,259億円134,852億円
売買代金12/26171億円336億円


参照
エクイティファイナンスについて
新興株市場 ジャスダック市場統合問題 

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
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