Entrance for Studies in Finance

国際間緊急融資の拡充と市場監視

 2007年から2008年にかけて国際金融情勢の混乱のなかで、国際的流動性を不足させた国に対する緊急融資の仕組みの拡充整備が課題となっている。そこであわせて焦点になりつつあるのは、国際的な市場監視の仕組み作りである。行き過ぎた市場主義の是正に各国政府はようやく腰を上げつつある。この間、市場主義的な誤った政策がもたらした混乱と弊害はあまりに大きかったからである。
ここで市場主義と呼ぶのは、政府による介入をできるだけ少なくして市場に任せることが、様々な問題の解決につながるという考え方を指している。しかし市場主義が結果としてもたらしたのは、国民間の格差の拡大であり、繰り返される市場の暴走がもたらす混乱に過ぎなかった。
 
 おおまかな合意があるのは既存の国際金融機関の機能の拡充である。しかしその方向性をめぐっては対立がある。
 各国政府に対するこれまでの国際金融機関からの融資は、その国際金融機関への出資の範囲を上限度とし、また審査も厳しいものだった。しかし今回の情勢のもとで、融資上限や融資条件などで発想をあらためた緊急融資制度の創設することが必要になった。日本政府も、新興国に向けた柔軟な緊急融資制度の創設をIMFなどに働きかけ、それがIMFの行動を改めさせる一因になったとされている。
 IMFは今回の危機では、必要に応じて理事会決議で融資を行うなど、積極的な対応を行った。市場主義的な対応を行い、却って危機を進化させたこれまでのIMFとは様変わりである(規模、支援決定のスピード、コンディショナリティの簡素化などIMFは従来の硬直的な姿勢を大きく変化させた。参照 小寺清「果敢な資金支援・新貸付制度で市場安定化に貢献するIMF」『金融財政事情』08/12/08, 21-25)。
 IMFに対して欧州諸国は市場監視機能の強化を求めている。また新興国からは、現在のIMFが欧米先進国よりであることを批判してIMFでの新興国の発言権を高めるべきとの指摘がある。しかし現在IMFでの発言権の大きい米国は、IMFがその金融監視機能を強化することや、新興国の発言権を拡大する方向などには、消極的である。09年1月以降、オバマ政権の登場により米政府の対応に変化が期待される。

 2008年11月14日―15日にワシントンに20日ケ国の首脳(G20)があつまって開催された金融サミットにおいて、麻生首相は、IMFの出資額の倍増(6400億ドルへ 日本としては9800億ドルの外貨準備から1000億ドル融資する用意がある)、IMFの金融危機対応の融資機能拡大を求めた。また市場監視機能、早期警戒機能の強化も求め、さらにADBについても資本金を現在の500億ドルから倍増して、アジア諸国への緊急融資機能を高めることを求めるなど、積極的な提言を行った。この麻生提案については、評価してよいとの指摘がある。

 08年11月14日 日本政府の中川財務金融担当相はゼーリック世銀総裁と会見して、世銀との間で30億ドル基金の創設で一致した。日本側(国際協力銀行JBIC)は20億ドル、世銀(国際金融公社IFC)が10億ドル出資。この基金により新興途上国の有力地場銀行への緊急融資を行うとしている(参照 判浩史「国際協力銀、国際金融公社とともに途上国資本増強ファンドを設立」『金融財政事情』08/12/08, 26-27)。

 このほか地域での取り組みにも注目されるものがある。アジアではチェンマイイニシアチブの拡充問題がある。
 08年10月24日 ASEAN10ケ国と日中韓の13ケ国(ASEAN+3)は、北京で非公式の首脳会議を開いて、すでに合意しているチェンマイイニシアチブ(CMI)の拡大を確認するとともに、調査・監視などサーベイランスをになう常設機関の創設などについても議論した。
 1997年の国際金融危機のあと、2000年にチェンマイイニシアチブと呼ばれる通貨交換協定の合意が成立した。これは緊急時の国際融資の合意で500億ドルという規模で2国間というもの。2008年5月の財務相会議で、この合意の拡充(500億ドルを800億ドル以上 2国間から多国間へ)が合意された。2008年10月の首脳会談では拡充についての実務の加速で再び合意した。2008年11月の今回の会議では、調査・監視すなわちサーベイランスを担う常設機関の創設が話題になっている。

 ASEAN:1967年8月 タイ、フィリッピン、マレーシア、インドネシア、シンガポールの5ヶ国が作った地域協力の仕組み。当初は反共的諸国連合の意味があった。現在はブルネイ、カンボジア、ラオス、ミヤンマー、ベトナムを加えた10ヶ国。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.

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