Hiroshi Fukumitsu
2007年11月に京都大学の山中伸弥教授らが、マウスと人の皮膚細胞からつくることに成功したと伝えられ注目されている。また2008年2月にはマウスの胃や肝臓の細胞にレトロウイルスを使って遺伝子を入れiPS細胞(induced pluripotent stem cells 人工多能性幹細胞あるいは誘導多能性幹細胞 俗称は新型万能細胞)を完成させたとされる。ただレトロウイルスはがんを引き起こすとの指摘もあり、より安全な方法が課題になっている。心臓や骨、神経など体のあらゆる組織に成長できる細胞で、ケガや病気で失った機能を取り戻す再生治療に応用できるという。また新薬の試験や安全性評価にも応用できると考えられる。
体細胞に遺伝子を導入すると細胞が初期化されて、さまざまな組織に成長できるようになるとされている。米科学雑誌サイエンスは2007年の10大科学成果の2番目にiPS細胞を選んでいる。
アメリカでもウイスコンシン大学のジェームス・トムソン教授がつくることに成功したとされており、米政府は研究支援を表明。押されるように2007年後半に入って日本政府も研究支援を表明している。
従来の万能細胞の代表格だった胚性幹細胞(ES細胞)は受精卵を壊して作るため、生命倫理上の問題が指摘されている。またES細胞は第三者の受精卵から作るため移植後の拒絶反応を免れない(生命の萌芽である受精卵を使うので倫理的問題がある)のに、iPS細胞は患者自身の細胞(たとえば皮膚細胞)から作るため、移植時の拒絶反応もなくなると期待されている(反面では腫瘍ができる危険性が指摘されている)。
しかしiPS細胞には、狙ったものに分化・誘導しなければならないという必要がある。その誘導技術(ウイルスで遺伝子を導入)の開発は今後の課題になっている。埼玉医科大学と京都大学で、ES細胞の遺伝子を自在に操作できる基本技術を開発したと伝えられたのは画期的なことなのだろう(2008年8月26日)。
これに対して体の特定部位からとられた体性幹細胞は、限られた細胞や組織にしか成長しないが、この誘導の必要がない。
このような成長のメカニズムはなお研究途上でマウスなどを使っ実験の段階であるが、体性幹細胞を使った研究は先行しており臓器の再生の成功に近ついているようだ。増殖だけでは、細胞内に血管網を作るのがむつかしいことが、臓器再生のネックになっている。そこで動物の体内に幹細胞を移植して臓器を再生する研究が進んでいる。iPS細胞より先に体性幹細胞を使った再生治療が始まる可能性も指摘されている。
以上のように再生治療については、幹細胞の再生メカニズムの解明と、安全性の検証が急がれる。2008年9月11日に京都大学は、iPS細胞の製法特許が日本国内で成立したと発表しており、応用や利用に向けての動きが今後加速するとみられる。
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