Entrance for Studies in Finance

高速度取引HFT、ダークプール、アルゴリズム取引

flash orders, dark pools and algorithmic trading

Hiroshi Fukumitsu


 flash trading or high frequency trading(FT or HFT)は、情報が一般化する前にnot yet public取引するもの(注文を受けた取引所が1秒に満たない間に契約料を払っている投資家だけに情報を提示して応答注文に応じているというもの)。コンピュータプログラムを使ってこの取引手法を駆使するのは一部の機関投資家。一般投資家を犠牲にするこのような取引への批判が高まっている。もともと機関投資家と一般投資家の間には、ベースにしている情報に大きな格差がある。つまりもともと不平等な条件で売買していたともいえるが、改めてそのほかにどこに不平等があるのかが問題にされ始めているといえる。他方で、このような取引は今日の取引所の売買の相当な比率を占めている。したがって、こうした取引を規制することは、証券業界の利益ともぶつかる。

 「HFTの特徴は、大量の発注・売買を高い頻度で行うことにある。ミリセカンド(1000分の1秒)から数時間程度の日計り取引を行い、翌日Ⅱ取引を持ちこさない。ファンダメンタルな要因に基づくポートフォリオ銘柄選択とは無縁である。ミリセカンドまたはマイクロセカンド(100万分の1秒)の頻度で、1社で1日当たり100万件規模の売買を繰り返す。」「HFTは売買を高速で繰り返す必要があることからデータレイテンシー(遅延度)の最小化を強く意識する。データ送信の物理的な距離を少しでも縮めようと、取引所等執行市場が提供するコロケーション(執行市場と同一施設内に取引サーバーを設置するもの)やプロクシミティ(データセンターに近接した場所に取引サーバーを設置するもの)といったサービスを利用する場合が多い」松原弘「HFTの台頭と日本市場」『金融財政事情』2011年1月3日, pp.67-70, esp.67-68
Wall Street: The speed traders, June 5, 2011, The CBS news.com
Tokyo exchange will launch co-location service, Aug.26, 2008
LSE introduces proximity service, Sept.1, 2008
 「HFTを駆使する投資家の実体は、自己資金運用専門のプロップファームやヘッジファンド、証券会社の自己運用部門だ。取引形態はマーケット・メイキングとスタティスティカル・アービトラージだ。」同前p.68
prop firm:proprietary trading firmのこと。 プロップファーム:HFTを駆使して自己資金を運用する会社のこと
 StatArb(statistical arbitrage) 銘柄間の相関・反転などの統計的分析の上に基づき売買して収益の実現を目指すもの。
 「米調査会社のTABBグループは、今年(2010年)の現物株式取引高のうちHFTが占める割合をアメリカでは56%、欧州では38%と推測している。」「HFTを活用する投資家は約400社程度といわれるが、アメリカでは上位15社の大手プロップ・ファームが出来高の約半数を占めるようだ。」同前p.68
 「スタットアーブ戦略を採用するヘッジファンドの流動性はアローヘッド稼動前から日本株に相当流入していた。東証の日本株現物平均売買高の15-20%程度はスタットアーブによるHFTが占めていたとの見方ある。」同前p.69「2010年は東証アローヘッド稼動でHFTが本格参入し」「HFTは日本株総売買高の25%程度を占めている。」同前p.69「東証の注文件数が2割以上増加する一方、約定率の低下が続いている」同前p.69「HFTとは投資時間軸が全く異なるバイサイドトレーダーは、いまのところHFTによる影響を強く意識していない」同前p.70「日本株売買高に占めるHFTの占有率は」「2012年には欧州から肩を並べる40-50%程度に高まるとみられる」同前p.70「アローヘッド稼働後、個別銘柄の値動きの短時間での急変動(価格のスパイク)が頻繁に観察されている」同前p.70
  spike (investopedia)
アメリカでは「流動性提供者としてのメリットと、ゲーミング(アルゴリズム取引による搾取)をもたらすデメリットとのトレードオフ」との指摘が続いた 同前p.70

 輪島英樹「東証新売買システムの波紋」『エコノミスト』2009.10.20, pp.74-77.伊藤嘉昭「東証だけが市場ではない」『エコノミスト』2009.10.20, pp.78-79.
 黒崎亜弓「米国のフラッシュオーダー騒動」『エコノミスト』2009.10.20, pp.79.
 launch arrow head, TSE Jan.2, 2010
 arrow head, Fujitsu Jan.4, 2010

 事態を加速したのは2010年7月29日の野村證券孫会社(チャイエックス・ジャパン)によるPTSへの参入である。このシステムはアローヘッドより高速だとされる(注文応答速度が0.5ミリ秒(1000分の5秒)でアローヘッドの4倍早いとのこと なおアローヘッドは注文応答速度5ミリ秒 情報配信速度3ミリ秒と喧伝された)。チャイエックスは野村が2007年に買収した米インスティネットの子会社で、欧州で実績があるとのこと。チャイエックスは市場の支持を集め2010年12月にはPTS市場の3分の1を占めた(sankeibiz110108)。

 さらに2011年2月14日に大証がスタートさせたデリバテブ売買システム「J-GATE」もアローヘッドより高速とのこと(従来比で注文処理量15倍 注文処理速度20倍)。2011年3月11日の大震災後、3月14日(633円安)から15日(1015円安)。株価は全面安となったが、注目は15日の乱高下。9000円を割り込むと一気に下落、前日比1800円安の7800円まで下落。その後急反転して800円戻し前日比1015円安で引けた。この乱高下の原因としてJ-GATEを使った大証での日経平均先物取引(アルゴリズム取引)があるとされる。
 そして2011年11月21日には東証が先物取引を新システムTdex+に移行させた(従来比で注文処理量 注文処理速度とも20倍)。また日本国債先物のイブニングセッションの終了時間を午後6時から午後11時半へ延長した。長期国債先物市場でもアルゴリズム取引の容易化は、市場の乱高下を激しくする可能性がある。(「高速取引に直撃される日本国債」『エコノミスト』2011年12月20日, 25)

 2011年5月時点の報道では東証は2012年5月をめどにアローヘッドの能力を増強するとのこと。1日に処理できる能力を現在の7割増しの8000万件程度に引き上げるとのこと(注文件数の2倍程度の処理能力を確保することが目標 3月16日に2200万件47%にまで達したことが契機 つまり現在は4600万件)。処理速度も現在の2ミリ秒を1ミリ秒に縮めるとのこと。サーバーの増設で対応し投資額は数億円程度とのこと。
 このような一連の取引所側のシステム高速化の勢いは急速で、これまで日計り商いでかろうじて存続してきた中小証券の存続は極めて危ういものになろうとしている。株式投資のうち、短期的投資の世界では、アルゴリズム取引が圧倒的になり、もう片方の中長期投資は、ファンダメンタル重視あるいは戦略性重視の投資になり、はっきり区別されることになろう。つまり伝統的なディーラーの世界(人間による頭脳を使った売買の世界)が一挙に消えようとしているのではないか。『エコノミスト』2011年11月15日p.114の解説は、HFTの比重について米国株市場の7割、欧州の4割という新しい数値を引用。為替や債券市場でも導入が進んでいるとする。2010年5月にダウ工業株が数分のうちに1000ドル下落 次の数分で回復する「フラッシュクラッシュ」に言及している。高橋誠さんによるとHFTの比率は、「米国株式の取引の60%から70%、欧州では約35%、日本でも約30%を占める」(高橋誠「パーフォマンス低迷に直面するヘッジファンド」『金融財政事情』2011年12月5日, 35-38.)。
 この間(2011年1月から9月)、絶対収益を目指していたはずのヘッジファンドの運用成績が低迷している。これは個別株のロング・ショートといった戦略が、ファンドが手仕舞う影響を受けてしまったことを意味しており、HFT取引あるいはテクニカル取引の隆盛も、その状況を助長した。なおHFT取引の担い手としては、スタッツアーブやクオンツを行うヘッジファンドのほか、価格モーメンタムをフォローする、順張り的な手法がその取引の基本形であるETFの存在が無視できず、その存在は市場の変動性を増す働き(引けにかけてのリバランス、市場終了後のヘッジ売りなど)をしているとのこと(高橋誠, 前掲論文, 2011年12月5日, 35-38.)。
 positive feedback phenomina

 高速売買の比率として使われるのはコロケーション経由のもの(ミリ秒単位のロスを減らすため東証内に賃料を払い設置した自社のコンピュターから注文を出すことを指す)。2010年1月に10%程度(11.7%)。2011年1月には30%程度。2011年4月には34.1%。3月は36.5%.
 反面。注文件数は増えたが1日あたり売買金額は横ばい。注文取り消しも多く注文件数のうち取引が成立する割合は4割から3割に低下。なお取引所は取引の量で手数料を受け取るので高速取引は収益を押し上げるとのこと。
 高速取引は、注文を小口にわけることで思い通りの価格で売買を執行しようとするところから出発。しかしアルゴリズム取引の発展とともに株価乱高下の原因になるなどのマイナス面が指摘されるようになっている。

象徴的な中小証券の廃業増加
 ファンダメンタル分析をベースにした長期投資というお話は現実とはかい離。アルゴリスム取引が市場の主体。取引所も証券会社もHFTへの対応を加速。個人投資家の長期資産運用と株式市場とは縁遠い存在になりつつある。機関投資家ですら運用の主体を国内債券にして、国内株式の比重を減らしている。個人投資家もまた株価指数先物や外為証拠金取引などを売買の場所とする傾向。PBRが1倍を割っても買いが入らず1日あたりの東証1部の売買代金1兆円割れが増えている。
 アローヘッドの導入によって、日本では中小証券のディーラー業務が岐路にたっている。先端のプログラム売買に対応するシステムや人員を確保できない中小証券、そしてそこで働くディーラーたちが仕事を奪われた(2010年8月16日)。もはや人間の目で株価や気配値を追う時代ではないのかも。中小証券のディーリングからの撤退は、株式の流動性を損なうという懸念がある(参考 「高速売買システム稼動で中小/地場証券会社に整理と淘汰の大波」『金融財政事情』2011年2月7日号, pp.6-7)。
 象徴的なのは中小証券の廃業だ。個人投資家の売買がネットに移り、大手証券・ネット証券による寡占化が進行。中小証券は自己売買で生き残りをはかってきたが、2010年1月に東証が新システムに移行し高速売買が広がると、収益が悪化し廃業が相次ぐようになった。2011年3月末に日本証券業協会の加盟証券会社数(外資系含む)が5年ぶりに300社を割り293社となったのは象徴的出来事といえる(ピークは2009年3月末の321社)。さらにユーロ不安による相場の低迷、円高による投資心理の低下による株式売買の低迷、投信の販売不振が残る証券会社に重圧となっている(2011年7月時点)。

ダークプール
 今一つ批判が高まりつつあるのはdark pools。これは機関投資家などが、証券会社のcrossing network(私設取引システム)に接続して、取引が終わるまでは注文価格を明らかにせず匿名で取引するもの(証券会社内で顧客の注文の付け合せをするもの)。取引にあたっての匿名性(名前を隠すこと)のニーズ、大口注文をマーケットインパクトコストを抑制しつつ執行するニーズに対応したものとされる。しかし反面では、こうした取引が市場の透明性を阻害していることに批判が高まっている。
crossing networks and dark pools

 大崎さんはdark poolを証券会社が注文を最良気配で執行して取引所に回送しないものと定義してこれを内部化(internalization)と呼んでいる。
株式市場間競争と日本市場の課題(大崎貞和)

 日本でも1998年12月に取引所集中義務が撤廃されたことで、取引所以外で株式の売買注文を成立させることが解禁された。UBS証券(iXT)、クレディスイス証券(Cross Finder)、ゴールドマンサックス証券(Sigma X)、インスティネット証券(CBX)、リクイドネット証券などの名前があがる。東京証券取引所は1990年代後半に立会外取引制度を整備して、大口注文執行ニーズに対応しようとしてきた。また2010年1月4日からは欧米並みの高速処理を可能にする新売買システムArrowheadに移行した。

アルゴリズム取引algorithmic trading
このような取引の前提は、コンピュータにより自動執行されるアルゴリズム取引であるが、それらはある目的に沿って組み立てられたアルゴリズムによる自動化された取引を指しており、特徴的な名称がつけられている。まだ日本語による解説が見当たらないので、アルゴリズム取引 selectorweb.comより英文の解説をそのまま引用する。アルゴリズム:問題を解くための手順のこと
 HFTとも共通するのはファンダメンタルな投資とは、別物だということである。

 CFSB Guerrilla algorithms: slicing a big order to small orders to hide from market participants or to minimize its market impacts
CFSB Sniper algorithms: to detect dark pools
gamer: sniff out large orders and then try out that knowledge to trade against the block at a profit
sniffers algorithms: to detect the presence of algorithmic trading and the algorithms they are using  
artificial intelligence algorithms: for a example, a program can read news and web blogs researching certain factors and make decisions based on that


Written by Hiroshi Fukumitsu.You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Aug.17, 2009.
Corrected and reposted in Sept.10, 2010, Dec.30, 2010 and Dec.20, 2011.

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