Entrance for Studies in Finance

公正取引委員会による刑事告発

建材向け亜鉛めっき鋼板をめぐる価格カルテル疑惑で公正取引委員会は、2006年7月の値上げを事前合意していたとして、日新製鋼など3社を独占禁止法違反で検事総長に刑事告発した(2008年11月11日)。東京地検は同日強制捜査に乗り出した。

価格カルテルが刑事告発されるのは1991年の業務用ラップカルテル以来17年ぶり。国内市場で8割のシェアをもつ企業が行った悪質な価格カルテルと判断されたもよう。通常は再発防止などを義務つける排除措置命令どまりである。2007年度の排除措置命令を受けた価格カルテルは6件であり、過去10年では最多である。

これを受けて東京地検特捜部で家宅捜索という。悠長に見えるがすでに2008年1月に公正取引委員会は関係4社を強制捜査。関係者の事情聴取、資料の分析を終えており、2002-2006年の間、5回の協調値上げを行ったことが明らかになっている。

公正取引委員会の今回の告発は、カルテル行為を取り締まる行為でそれ自体は市場の透明性のために歓迎すべきことだが、小口顧客向けで800-900億円程度、大口顧客向けで3000億円程度の市場規模と伝えられると、拍子抜けを感じないではない。もっと大きな金額のカルテルが放置されているのではないかと感じるからである。

そもそも公正取引委員会は、国際競争や輸入の可能性の議論によって、大型合併をゆるやかに認める方向にある。しかし企業の規模が大きくなるほど、新規参入は現実にはむつかしくなり、カルテル行為を誘発しやすくなる。形式的に参入の自由があるからといって、市場集中度をあげてよいとするのは消費者利益を損ねるものである。

競争が国際化しているというなら、摘発の体制も国際化するべきだが、そちらの体制はできていない。そこで注目されるのは、海外ではもっと大きなカルテルの摘発が進んでいる。これに対して日本の摘発は比較的小さな案件であるように見えることである。

たとえば板ガラスについては旭硝子など日米欧4社に対して、欧州委員会は価格カルテルを結んだとして、2007年11月28日には建築用板ガラスについて総額4億8700万ユーロ(790億円)の制裁金支払い命令が、そして2008年11月12日には自動車用ガラスについて総額13億8400万ユーロ(1700億円)の制裁金支払い命令が出された。日本板硝子は英子会社ピルキントンの、そして旭硝子もベルギー子会社の火の粉をかぶった形。国際的M&Aの注意点とされた。しかし日本の公正取引委員会は、硝子に関心はないのか硝子について反応しない。

米国司法省では、液晶パネルの国際カルテルを問題にした。シャープ、韓国LGディスプレー、中華映管の日韓台3社は総額5億8500万ドル(550億円)の罰金支払いで司法省と合意した(2008年11月12日)。司法省によればシャープは2001年から2006年に、液晶パネル価格の下落を防ぐため、他のメーカーと共謀し価格や供給量などを調整するカルテル行為を繰り返した。・・・日本の公正取引委員会はしかし液晶パネルについて、反応しない(ように見える)。

欧州委員会と米国司法省の連携が伺える問題としては、航空貨物の価格カルテル問題がある。2007年12月21日に欧州委員会は、カルテル行為の疑いについて異議告知書を日本航空・全日空を含む航空各社に送付した。この問題では2008年4月16日、米司法省が、日本航空がカルテル行為を認め、1億1000万ドルの罰金支払いで合意したと発表している。・・・ここでも日本の公正取引委員会は反応していない(ように見える)。

海外で大型の摘発が進む背景には、告発のほか課徴金を引き上げで厳罰化が進め、協力者の制裁をゆるやかにするリーニエンシー制度(課徴金減免制度)が導入活用され、摘発の効率化が進んでいることがあるとされる。しかしそれだけではなく、国際的な企業間のカルテルを積極的に摘発していることがうかがえる。そして日本の公正取引委員会は何もしていない(ように見える)。日本の公正取引委員会がしていることは、国際競争があるからとして、国内での大型合併を容認することだけに見える。

日本でも、厳罰化とリーニエンシー制度(最初に申告した企業は全額免除で告発もされない、2社目は半分、3社目は3割減額など)は導入されている。私は公正取引委員会が、合併審査基準を、国際間競争や輸入可能性によって「緩和」しているのに、カルテル行為などの摘発については国際間カルテルに触れていないところに独占禁止法制度のほころびを感じる。国際的な市場分割協定や、カルテル行為などにメスを入れる必要があるのではないか。そこにメスを入れないで、合併審査基準にだけ、国際的視点(国際的競争の視点や輸入圧力)を持ち出すのはダブルスタンダード(二重基準)ではないか(公正取引委員会では2007年4月から、これまでの原則、国内シェア重視の合併審査基準を改めた。市場占有率と寡占度指数HHIとの併用制から国際的に使われるHHIに基準を一本化、国際競争が激しい業界について海外を含めて審査するとしている)。

そこで注目されるのは、豪英系資源大手BHPビリトンによるリオ・ティント買収提案に対して、すなわち海外の企業同士の合併に対して、公正取引委員会が審査にのりだしたことである(2008年9月4日)。日本は距離の問題で豪州に鉱山をもつこの2社に鉄鉱石の6割を依存している。この買収計画に対して、ブッシュ政権下の規制緩和派が牛耳る米国の規制当局は認めたが豪州・欧州の規制当局は審査を継続している。これに対しBHPはまず任意での資料提出依頼を無視した。そこで公正取引委員会は強制力のある報告命令下したところ(報告期限11月17日)、11月14日になってBHPは資料を提出した。公正取引委員会の審査結果が注目される。

国際的な競争を理由にして、国内市場の寡占度の上昇を容認するのであれば、国際的な合併やカルテル行為に対して、十分な目配り・監視をすることが並行しなければならない。そのための一歩としてこの審査は注目される。今後、公正取引委員会は国内企業が絡んだ国際的な合併やカルテル行為に対しても、目配りや監視をする必要がある。市場の番人として公正取引委員会は、内外の企業を差別なく、市場を監視する役割を担うべきである。もしこの点で法制に不備があるならそこを補い、国際的な連携・協力の必要があるならそれを進めるべきだ。

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