Entrance for Studies in Finance

小幡績『すべての経済はバブルに通じる』光文社, 2008

小幡績『すべての経済はバブルに通じる』光文社, 2008

証券化によるリスク変質論
小幡績氏は証券化によって、キャッシュフローの将来における不確実性というリスクから「この投資対象が将来、望む価格で売れるかどうかというリスクに変質した。すなわち、リスクの対象が原資産という実体から、他の投資家の動向という目に見えないものに変化したのである。」『すべての経済はバブルに通じる』2008,p.55と説く。この指摘にはリスクの社会化を説く正しい面があるが、キャッシュフローの支払の不確実さというリスクは、依然としてリスクが社会化されても残っているのではないか。リスクを重層的にとらえるこれまでの仕方ではなぜいけないのかなどは疑問として残る。以下は鮮やかな切り口ではある。
「リスクは、原資産という実体のリスクから、将来の投資家たちという群衆の動きのリスクとなり、リスクがいわば「社会化」したのである」p.55

ファンダメンタルズ論の否定
小幡績氏は確かに株価はファンダメンタルズと呼ばれる企業の収益や経済全体のニュースに反応するが、その反応のあとは、ニュースとは関係なく株価が乱高下するとして、ファンダメンタルズは株価の動きの一部を説明するにすぎないとする。p.146

株価暴落について
株価の激しい変動をもたらしているのは、センチメント、市場ムードであって、多数派の投資家がどう考えるかだとする。p.148そして「このような状況では、市場の流れを作れるほど影響力のある投資家は、仕掛けをしたくなる。すなわち、自分が大量に売買することによって、株価を大きく動かして流れを作れば、他の投資家たちがついてきて流れを加速するため、それを狙った売買を行うのである」これにより「乱高下の振幅はさらに拡大する」p.149

崩れた値段があがりその後に本当の崩壊が生ずる理由
 この相場パターンは三尊天井(M字型天井 head and shoulder)と呼ばれる。なおこれを裏返した相場を三尊底あるいはW字型底という。
 この解明を行った以下の部分は見事なロジックだが、投資家層をファンダメンタル派とテクニカル派あるいは強気派に色分けして、最初の高騰で不安を感じたファンダメンタル派が脱落と解釈できなくはない。入れ替わった投資家が小幡氏のいうように強気派なら、なぜ売り時を探して身構えているのかは形容矛盾で、小幡氏の記述も矛盾はある。このような矛盾が出るのは、三尊天井だけいえばいいのに小幡氏が2番目の山を急峻でそのあと急激に下げると想定しているからだ。単純に2番目の山があるという想定で十分ではないだろうか。
「このような動きとなる理由は、投資家の入れ替えが行われるからである。バブルが一度崩れかければ、その時、バブルの継続、すなわち、これ以上、上がり続けるかどうか自信の持てない投資家は売却してしまう。一方、崩れかけたところで買った投資家は、皆、異常に強気で、上昇が継続することを固く信じている。・・・したがって売り手不在で急騰することになる。しかし・・・次に崩壊のサインがでれば、直ちに売却しなければと身構えている。なぜなら、自分の投資行動が、バブルに乗って儲けようとしていることにほかならないことを認識しているからだ。」pp.122-123.


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