見出し画像

Entrance for Studies in Finance

プロフォーマ利益とビッグバス

プロフォーマ利益とビッグバスpro forma earnings and big bath

Hiroshi Fukumitsu


試算利益 実質利益pro forma earnings
会計上の利益である粗利益gross profit(売上げrevenueから原価COGS or COS ;cost of goods or cost of salesを引いたもの) 営業利益operating profit(gross profit から営業経費operating costを引いたもの EBITとほぼ同じ) 純利益net profitに対して、参考数値として企業やアナリストが独自に試算して算出する利益を指す。
 これに入るものはEBIT(ebit: earnings before interest and tax) EBITDA(ebitda: earnings before interest tax and depreciation and amortization)など。pro formaは日本語になりにくい英語の一つ。「試算」のほか「仮の」「暫定の」「会計原則によらない」などの訳が考えられる。「予想上のprojection」「非日常的あるいは一時的経費をすべて除外した」という訳も考えられる。
 pro forma earnings算出の目的は企業の本来の収益力を求めるところにあるが、行き過ぎると仮想利益を都合よく算出しているだけの結果となる。正規の利益概念でないところからstreet earningsと揶揄されることもある。
 プロフォーマは現金支出を伴わないさまざまな費用(アモチや減価償却費など)や大規模費用(事業リストラ費用など)を除外して計算されている。1990年代に企業は脆弱な財務状態をごまかすためにプロフォーマを利用し始めた。会計基準による利益がわずかだったとすると、恣意的に費用を取捨選択して先にプロフォーマベースの利益を発表してしまう。(アーサーレビット 小川敏子訳『ウオール街の大罪』日本経済新聞出版社, 2003年, p.201, p.209)
 参考 街角の利益 プロフォーマ利益とIR 岡部考好

 在庫の減損処理をしない、あるいは売掛金の減損処理をしない、ことでプロフォーマ利益を高めることができる。(同前書, pp.216-220)

big bath
 アメリカの企業は大きな赤字が出そうになると、とたんに人員削減などリストラをする(事例→シティの拡大路線修正)。そして翌年なぜか急に回復する。これは不思議にみえる。だが実はそうではない。
赤字になりそうになると、不採算部門の売却、余剰人員のカットなど経費の支出をできるだけ前倒しに行う。つまりどうせなら大きな赤字をまず出してしまうのである。big bath charges from wikicfo
 もう一つのテクニックは収入をできるだけ次年度にまわすことである。こうしてお風呂にザブンと入るように、収益が大きく振れる。日本ではこれをV字回復という。
 このように、費用の前倒しと収入の先送り。両者を組み合わせることで企業はまず大赤字を出し、翌年は<不思議なことに>一転して一挙に黒字増益に転換する。アナリストはリストラ効果だと解説するが、これは後年の赤字要因を一挙に出し、あるいは固定費を圧縮して収入が後送りされるからで、翌年黒字回復するのは実は当然なのだが一見リストラ効果に見える。もちろんリストラ効果だともいえる。しかし本質は会計操作だとみるべきだ。
 CEO(chief executive officer最高経営責任者)の交代が絡むとさすがに新しいCEOはすばらしいといったりする。しかしそれほど不思議ではない。
そして前任のCEOは赤字化の汚名を着て辞めるだけでなく、次年度の黒字化の功績を後任にゆずるご褒美にたくさんの報酬を受けて辞めることになる。
 このような会計操作をbig bathという。
このようなbig bathを含めて、英米で、利益の数値を作り出したりする会計の在り方には批判も根強くある。
 これらをcreative accounting from Wisegreekとかaggressive accounting from Jamescoxと呼ぶとき明らかに批判的響きがある。

売上高の前倒し計上
 事務機器のサービス契約、ソフトウエアの提供など、売上計上時期を操作できる余地があるようだ。(アーサーレビット『ウオール街の大罪』日本経済新聞出版社, 2003年, p.162以下、p.199, pp.223-226)当然、前倒し計上することで業績はよく見える。
 他方、押し込み販売による売上高引き上げの場合は、支払い遅延などの反動が生じうる(同上, p.197, p.215) 

リストラ費用の前倒し計上
 2009年4月20日付け日本経済新聞は企業がリストラ費用を前倒しに計上して固定費を減らして今期以降のV字回復(急速な回復)を目指しているとしている。
 「減産が続く電機や素材業種を中心に、人員削減に伴う特別退職金や生産設備などの減損損失を積み増す企業が目立つ。費用は一時的に膨らむが、将来の人件費や減価償却費の軽減につながる。」

リストラ費用に営業費用を投げ込むことで業績を良く見せる
(アーサーレビット『ウオール街の大罪』日本経済新聞出版社, 2003年, p.209)
経常費用を特別、一時あるいは臨時といった勘定項目に押し込む方法(p.156)
あるいは諸費用を差し引かないプロフォーマ利益を示すこと(同上)

クッキージャーリザーブ
 将来の債務、貸し倒れ引当金、保証費用、売上返品等を意図的に多く見積もり、景気が悪くなったときに必要に応じて手をつける(アーサーレビット『ウオール街の大罪』日本経済新聞出版社, 2003年, p.156, p.214)。
cookie jar accounting

固定費膨張で不況抵抗力弱る
2008年12月27日付け日本経済新聞は前期までの増益局面で製造業を中心に海外市場を開拓し、生産・営業拠点を増やしてきたことが固定費の増加につながり損益分岐点が上昇、売上げ減少時の抵抗力が弱まっている。2008年10月以降の急激な需要縮小で膨らんだコストが重荷になっているとして、生産拠点の統廃合など事業再構築が必要になっているとしている。⇒営業店の統廃合。余剰人員の削減(正社員の削減)。投資(工場の建設)の延期・凍結・中止。

 big bathにおける数字の動きからも会計上の利益というのは「操作された数値」であることがよく分かる。しかしそうした操作された数値を私たちは、財務分析の基礎にせざるを得ないのである。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author. 
Originally appeared in April 20, 2009
Corrected and reposted March 6, 2012

証券市場論 前期 証券市場論 後期 現代の証券市場 証券市場論教材
財務管理論 前期 財務管理論 後期 現代の金融システム 財務管理教材

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「Financial Management」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2024年
2023年
人気記事