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日本銀行がCP買取を決定(2009年1月22日)

日本銀行がCP買取を決定(2009年1月22日)
 日本銀行は1月22日にCP買取を決めたほか、2009年中において以下のように金融緩和政策を維持した。しかしながらデフレ基調が変わらなかったことから、日本銀行には、さらに強力な政策実行を求める圧力が高まっている。
 背景にはこの間、日本銀行の政策が常に後追い的で、先導的ではないことへの不満がある。CP買取にしても、米国のFRBさらに国内では日本政策投資銀行に先を越された末のようやくの決定であった。
 他方で特別オペ解除の決定(2009年10月末)を異様に急いだ日本銀行は、1ケ月あまりで新型オペという類似の政策実施表明という失態を演じた。

2009年の金融政策
1月8日社債、CP、企業振り出し手形などを担保にした新型オペ開始。毎月2回。担保の範囲で無制限。年0.1%の低金利で。
1月22日CP、ABCPを合計3兆円を上限に買取。償還まで1年以内の社債の買い取りを検討。REITを担保に追加
2月3日銀行保有株買取を決定

2月19日
社債買取を決定。CP買取や企業金融支援特別オペ(08年12月導入 社債などを担保に0.1%の金利で3ケ月貸し出すもの)を9月まで延長 別名モンスターオペ。ドル資金供給を10月まで延長
3月17日銀行などの劣後ローン引き受け 貸付総額1兆円

3月18日
長期国債買い取りを月4000億円増額 月1兆4000億円→1兆8000億円(白川総裁が、保有国債残高を市中出回り日銀券発行残高以下に抑えるというルール堅持を明言して批判を浴びる こうした日銀の慎重な対応は財政規律のゆるみが通貨の信認低下につながるとの懸念があるためだが、買取増額は事実上、政府の財政出動を日銀が支えることを意味する)
5月22日資金供給担保に欧米国債を追加
7月15日ドル資金供給を2010年2月まで再延長。特別オペなど企業金融支援策(異例の措置)を12月まで延長
9月24日ドル供給3ケ月物停止。1ケ月物のみに。
10月30日特別オペを2010年3月(年度内)まで延長(10年3月で打ち切る意味合い)。社債やCPの買い取りは年内打ち切りを決定
12月1日臨時の金融政策決定会合で新型オペ導入決定。国債、社債、CPなどを担保に期間3ケ月物の資金10兆円を0.1%の金利で供給する。毎週1回上限8000億円、3ケ月で総額10兆円。追加的緩和策?投資家の国債保有を促す?
12月18日物価のマイナス許容せずとの見解を公表。無担保コールレートを0.1%前後で推移するように促す。委員会としては[物価について]ゼロ%以下のマイナスの値は許容しない。
 

FRBによる企業からのCP直接購入開始(2008年10月) 
 アメリカでは2008年10月に連邦準備制度理事会FRBがCPを企業から直接購入を始め成果を上げているとの指摘があった。これにはFRBのバランスシートの肥大化、質の悪化を招いているとの批判もある。
 そうした批判はあるが、日本でも米国同様にCP発行による大企業の資金調達がむつかしくなっている。08年11月の新規発行額が前年同期比で3割減。大企業が間接金融の比重を高め、そのことで中小企業金融が締め出されるとの指摘もある。そこで日本銀行に民間企業の発行するCPの直接買い取りを求める声が高まっていた。
 しかし日本銀行は10月8日の米欧の協調利下げに加わらなかったことにみられるように、独自性・独立性の外見にこだわっていた。また民間企業からCPを買い取ることにそもそも消極的だった。

日本政策投資銀行による買い取り案の浮上
 そこで財投資金を用いたCP買取が浮上した。
 財務省は日本経済の現状が国際的な金融秩序の混乱に伴う「危機」にあると認定(08年12月11日)。これにより日本政策金融公庫が政策投資銀行など指定金融機関を通じて低利融資を提供する「危機対応円滑化業務制度」を発動できる条件を整えた。政府は政令を改正してCPの直接購入を加えることで日本政策投資銀行がCPの買い取りを行うことで中堅・大企業向けの資金調達策を考えた。
 日本政策投資銀行は日本政策金融公庫の資金を使って中堅・大企業向けの低利融資に1兆円。同じ日本政策投資銀行からの融資を使って2兆円のCP買取枠を設定する。CPの債務不履行リスクを政策投資銀行が負うことでCP市場の機能を回復させる(政府与党決定08/12/18。政府決定 生活防衛対策08/12/19。)。低利融資はすでに実施。CP買取を年内開始。このほか住宅金融支援機構による中小の不動産会社の資金繰り支援2000億円。
 並行して政府は日本銀行に対してCP買取の圧力を高めた。

又してもFRBに先行された日本銀行に批判高まる 
 折も折、2008年12月16日米連邦準備制度理事会FRBは米連邦公開市場委員会FOMCで政策金利(FF金利誘導目標)を年1%から年0-0.25%に引き下げる(政策金利の引き下げ 事実上のゼロ金利Zero Interest Rate Policy ZIRPに踏み込む)ことを決定するとともに量的緩和策(FRBのバランスシートを高水準で維持する)の採用を決めた。なお2001年3月からの日銀の量的緩和政策の場合とは異なり資金供給量の数値目標(日銀の場合は民間銀行の日銀当座預金残高)には踏み込んでいない。
 しかしこれで日米の政策金利は16年ぶりに逆転。円高が急速に進展し、為替は13年ぶりに1ドル90円を突破した。日本銀行の政策決定は後手後手に回り市場や政府の期待に答えていないとの批判が強まった。

日本銀行の決断(2008年12月19日)
 かくして猛烈な日銀批判の中、日本銀行は08年12月19日の金融政策決定会合で、政策金利(無担保コール翌日物)を年0.3%から0.1%に引き下げること(政策金利引き下げ)やCPの買い取りや長期国債の買い入れ増額(月1兆2000億円から1兆4000億円に増額)など追加金融緩和策(企業金融支援特別オペなど異例の措置)をようやく決定した。
 振り返ると日本銀行は、2008年10月8日の米欧の協調利下げに加わらず、円高の進展により経済界・政界からの批判に押されてようやく08年10月31日に7年7か月振りに利下げを単独で実施。日本銀行は政策金利を0.5%から0.3%前後に引き下げたが、08年12月16日のFRBの利下げによって、またも急激な円高に見舞われた。日銀は円高に肩を押されるようにようやく利下げとCP買取を決断した。
 日銀はこのような悠長な意思決定によって何を守っているのだろうか。
 これまでの銀行経由のCP買い取りは、売り戻し条件がついていた(つまりCPを担保に資金を貸し出す供給オペ CPが債務不履行の場合、金融機関には買い戻し義務があった)。今回は買い切りであることが特徴。CPの債務不履行リスクは日銀が負う形。
 また企業からのCP購入を始める日本政策投資銀行を公開市場操作の対象に加え、必要な資金を供給することにした。
 このような日本銀行の方針転換が成果を上げることが期待されるが、米国のように企業から直接購入ではなく金融機関保有分の購入になることに問題が残る。果たしてそれで企業のCP発行が進むのかが今後の焦点になるだろう。

 なお日銀の白川総裁は金利据え置きを決めた2008年11月21日の金融政策決定会合後の記者会見で、CP市場への資金供給を通して企業の資金繰り支援を強化する考えを表明していた。CP現先オペを強化して銀行にCPを購入する余力を与え、間接に企業のCPを発行しやすくするなど。銀行への資金供給の際に受け入れる担保の範囲を広げるなど。そして12月2日には白川総裁の記者会見で資金繰り対策の内容を明らかにしたが、米国のようにCPの直接買取が含まれなかったことから、CP発行に与える効果は不明で消極的との印象をあたえていた。


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