生成AIで模擬裁判
「Chat-GPT」などの生成AI(人工知能)の活用が急速に
広がる中、司法分野へのAI導入に向けて議論が活発化
している。
昨年には、学生が「AI裁判官」による近未来の法廷を
仮想した模擬裁判を開催。
海外では、弁護士や裁判官の業務支援にAIを活用しよう
という動きもあるが、日本の司法界はデジタル面の環境
整備が遅れており、専門家は「実現のハードルは高い」
と指摘する。
<主文、被告人は殺人罪の共犯は認められないため、
無罪とする>
交際相手と共謀し、ストーカー行為を受けていた
元交際相手を殺害したとして殺人罪に問われた女性
被告の「裁判」。
判決を読み上げたのは、モニターに映し出された
「AI裁判官」だった。
昨年、行われた模擬裁判のイベントで「AIを使う
こと以外はリアリティーのある設定にし、見た人に
身近な問題として考えてもらいたかった」と
発案者は企画の意図を説明した。
裁判官役には、最新版のChat-GPTを起用。
演出上の理由から、事前に証言などを入力し、
生成させた判決をAI裁判官の「セリフ」として、
合成音声で読み上げる形とし、AIの入力内容や
脚本をイベント後にウェブ上で公開した。
模擬裁判は交流サイト(SNS)などで話題となり、
法曹関係者も含め、さまざまな議論を巻き起こ
した。
「問題提起が広く、深く届いた」
発案者は手応えを口にした。
海外ではトラブル
被告の身体拘束の判断も伴う刑事裁判への「AI裁判官」
の導入は「裁かれる側は納得できるのか」との声も
上がるなど、倫理面での課題が大きいとされる。
これに対し、弁護士や裁判官を補助する手段としての
AI導入は、主に民事訴訟で現実になりつつある。
米国では、大手弁護士事務所が法律業務に特化させた
「Chat-GPT」を文献検索や文書作成などに導入。
中国では、一部の裁判所でAIを活用した審理が始まって
いる。
一方でトラブルも散見される。
米ニューヨーク州では、昨年、弁護士が「Chat-GPT」
で作成した民事訴訟の準備書面に、実在しない判例が
含まれていた事が判明した。
判例データ化必須
<「Chat-GPT」は「もっともらしい答え」を出す
ことはできるが「なぜ正しいのか」は説明できない。
正確性は担保されておらず、重要な場面では使え
ないのが現状だ>と、
AIの法学への応用について研究する国立情報学
研究所のB教授は指摘した。
生成AIを裁判で利用する際に問題となる、こうした
「思考」過程のブラックボックス」をどう解決する
のか。
一助となりそうなのが、法的推論支援システム
「PROLEG(プロレグ)」だ。
プロレグは、訴訟の事実関係を入力すると、法律の
条文や、最高裁判例を読み込ませて構築した「ルール」
を当てはめ、判決などを導き出す仕組み。
日本語や英語のような「自然言語」で書かれた事実
関係の記述を、コンピューターのプログラミング言語
に置き換えて入力しなければならないが、置き換える
ための処理に生成AIが活用できるという。
プロレグと生成AIを組み合わせれば「なぜその判決(結論)
が導き出されたのか」が説明できるようになり、近い将来、
単純な少額訴訟の訴状作成などにAIを活用することは技術
的に可能になる。
ただ、実用的なシステム構築には、判例などの膨大なデータ
のデジタル化が不可欠だ。
日本では、1昨年に、民事訴訟手続きをIT化する改正法が
成立。
法務省は凡例のデータベースに向けた有識者検討会を
設置したが、実現は先になりそうだ。
AI裁判「受けたい」23.4%。
裁判へのAI導入について、人々は「高い期待」の一方、
「強い不安」も持っている。
国内のある社会調査では、こんな結果も明らかになって
いる。
明治大法学部のC教授らは、令和2年2月、インターネット上
で1600人に「AIによる裁判を受けたいか」などを尋ねた。
「受けたい」と回答したのは23.4%、
「受けたくない」は42.8%、
「どちらともいえない」は33.8%、
となった。
AI裁判の具体的なメリットとリスクを提示し、期待と
不安を尋ねたところ、
「ブレがなくなる」
「費用が安くなる」などの
メリットに高い期待が寄せられた半面、
「誤判の発生」などの
リスクに強い不安が寄せられた。
C教授は「AI裁判に対し、消極的な結果に見えるが、
裁判そのものを<避けたい>という人々の意識も
ベースにあると見られる」と推測。
判断のばらつきの解消やコスト削減などの面では、
AI裁判への期待度が高いと受け取れる。
不安を取り除くようなセーフガードを設けることで、
AIの導入により裁判がより身近なものになる可能性も
ある」と話した。