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生ごみ堆肥化ー成否を分けた理由

2024-03-24 03:37:54 | 日記

生ごみ堆肥化の先進事例として伊万里はちがめプラン長井市レインボープラン大木町おおき循環センターくるるんの取り組みを宮代町と比較しておきたい。このような検証は本来は一市民でなく業務現場で責任を持って行われるべきのもであったと思われる(残念ながら、宮代町、久喜宮代衛生組合にその形跡がない)。

1.伊万里はちがめプラン
伊万里市(2024年2月末現在、人口:52,163、世帯数:23,846)で生ごみの堆肥化に取り組んでいるのが、特定非営利活動法人 伊万里はちがめプランである。ここでは毎日大量に発生する生ごみを税金を使って焼却処分するのは「もったいない」との思いから、1992年に飲食店のメンバーとともに「生ごみ資源化研究会」を発足させ、調査・研究を始めた。
1997年には、市民の参加や商工会議所の協力を得て「生ごみ堆肥化実行委員会」を結成し、市民を巻き込んだ活動に発展した。活動の愛称を「伊万里はちがめプラン」と名付け、2000年に待望の生ごみ堆肥化実験プラントが完成し、生ごみの堆肥化がスタートした。
同NPO法人では、各種団体や事業者(農家)、行政、市民、大学等と協働して「ごみ減量」という課題に取組み、食資源循環による地球温暖化防止の推進を目指している。

伊万里はちがめプランは、飲食店やスーパーなど71業者と30ヶ所の一般家庭生ごみステーション(300世帯)から、年間約500トンの生ごみを回収している。伊万里はちがめプランの具体的な活動や事業収支などは毎年報告されており、最新の(2022年度)活動報告では生ごみ分別回収と資源化による社会への貢献として以下の数字が示されている。
・一般廃棄物(事業系 338+家庭系 37)375 トン
・産業廃棄物 73 トン・廃食油 11457ℓ
・生ごみ 375 トンの資源化は伊万里市のごみ焼却費:約 1,197 万円相当の節約
(事業系 338 トン+家庭系 37 トン+廃食油 11 トン)×市の負担金 31,000 円/トン
(令和元年度トン当たりごみ焼却費31,000 円で試算)
・ CO2の発生抑制:約 942 トン (448 トン+廃食油 11 トン )×2.0513=941.55 トン
(標準的な生ごみ 1 トンを収集運搬・焼却の従来通りの処理方法で処理するとCO2が 2.0513 トン排出されるという(財)省エネルギーセンターの数値より算出)

伊万里市からの補助金(年150万円)を含め業者の負担金や協力金を得て年間千数百万円の事業が継続的にバランスしている。堆肥(約250t生産)の販売収入が年に約100万円(トン当たり4000円)の収入になっているところが注目される。生ごみ収集・堆肥化スタッフ2名、事務員1名、直売所販売員1名で運営している。

事業を立ち上げたのは飲食店(ステーキハウス)オーナーシェフで一人の市民であった。NPO法人化した2003年には、施設の建設費約4000万円のうち、1000万円は今で言う市民ファンドにより集め、残りは銀行融資であった。「生ごみを宝に!」をキャッチフレーズに、地域の公民館で住民説明会を重ね、地域ごとに市民会員を募った。市民会費は月額500円(年6000円)の会費を支払うのですが、この会費製自体が市民側からの発案で、月々の集金・納金は地域ごとの市民グループの担当者が自主的に行っている。
市民会員は、5~10軒の家庭ごとにグループを作り、地域内の民家の門の脇や公民館の敷地内などに生ごみステーションと呼ばれるサイトを設置し、家庭から24時間いつでも好きなときに生ごみを持参できる。はちがめプランのトラックが週2、3回巡回して、バケツごと生ごみを回収し、代わりに洗ったバケツを置くので、真夏でも生ごみバケツの周辺が臭うようなことはないという。

2.長井市レインボープラン
山形県の南部に位置する市が長井市(2024年2月末現在、人口:24,775人、世帯数:10,079世帯)である。こちらでは25年以上前の1996年から「レインボープラン」という取り組みが行われている。レインボープランは正式には「台所と農業をつなぐながい計画」と呼ばれている。
このシステム誕生は、97名の市民が参加した昭和63年(1988年)の「まちづくりデザイン会議」の議論に遡る。農民から出された「土が弱っている」という意見がきっかけとなり、有機堆肥を田畑に投入する環境保全型農業をすすめることが必要であることを再認識し、その堆肥の原料となる有機質資源の供給源を市民の台所から排出される「生ゴミ」に求めたのがはじまりで、これが最も先行した事例と見受けられる。
市民から提案されたこの考え方は、行政側のサポートを得て民官あげての8年余りの協議・モデル事業の実施・検証を経て、1997年から本格稼動となった。レインボープランのシステムが稼動して中心市街地の約5,000世帯の生ゴミほぼ全量が堆肥に変わり、これまで可燃ゴミとして焼却処分されていた生ゴミが、有機質資源として生まれ変わった。
レインボープランは生ゴミ処理事業を目的としたものではなかったが、結果として、システム稼動後の可燃ごみが30%削減した。収集された生ゴミに畜糞と籾殻が加えられ、80日間の醗酵・熟成を経て年間400tほどの堆肥が生産された。

市民からの提案が結果を導いた大きな要因は、レインボープランが目指したゴールがごみの削減事業ではなく地域循環システムであったこと、その達成に民官の両方が努力を惜しまなかったことと考える。

世界的な注目を集めた長井市レインボープランも、施設の老朽化や資源となる生ごみの回収量の減少などに直面し、現在の形で事業を継続していけるかどうかの岐路に立たされている長井市レインボープランに関する提言書~次世代の協働のまちづくりを目指して~と題する協議会提言に沿って、現在次の展開に向けた議論の途上にある。

3.大木町おおき循環センターくるるん
福岡県大木町(2024年2月末現在、人口:13,718、世帯数:5,253)では一般家庭の生ごみを分別し、資源化することに成功している。生ごみ循環事業は、次の3点を中心に、地域の活性化に貢献したとされている。
①燃やすごみが半減(重量ベース)することによる環境負荷の低減やごみ処理費の削減効果など
②地域ぐるみの協働事業による住民の街づくりに対する参画意識の向上
③生ごみからできた液体肥料散布による地域農業への貢献

焼却ごみは有料袋を購入する必要があるのに対し、生ごみを分別してバケツに入れて回収する場合は回収費用を無料とするインセンティブが設けられた。事業系は10キロあたり30円の処理費用を徴収した。実際にモデル運用の翌年(2007年)には焼却ごみが40%以上も減るという結果も出た(モデル地区での運用当初、なんと平均70%、最高90%も焼却ごみが削減できたという)。結果として従来のごみ処理より町としての処理費用が軽減されるという成果(①)に繋がった。

大木町でも他の地域の事例でも共通して、ごみの減量(①の効果)が注目されるが、本事例は多面的な側面から有用性が明らかになっており、特に地域農家の経営への貢献(③の効果)が注目される。
具体的な数字としては、生ごみ・し尿・浄化槽汚泥をメタン発酵させ、その消化液を肥料として約100ha の農地で利用することで、農家は化学肥料の代金を950 万円ほど節約できたと報告されている。その農産物を隣接する直売所などで販売、レストランで活用することで、売り上げが2 億円を越え、地元雇用も26 人増えた。この循環事業は町民の評価も高かった。
大木町は合併を選ばず住民協働の町づくりを推進してきた。この点について、大木町環境課長(2018/09/11時点で副町長)を務めた境公雄氏は、「国の政策に全面的に従うのではなく、自治体自らの権限と責任において、是々非々で考える」ことの重要性を強調している。宮代町が生ごみ堆肥化を始める当初も同じ思想があったと記憶している。
「限られた財源をどう使うのか。過大なものはつくらない。」という考えから、下水道はつくらず合併処理浄化槽を整備する方法を選び、2001年からモデル地区での生ごみ分別回収を始め、2006年に生ごみ、し尿、浄化槽汚泥、食品廃棄物を資源化する施設、「おおき循環センターくるるん」が稼働を始め、町内全域で生ごみ分別回収が行われている。2010年に隣接する(直売所・レストラン)がオープンし、多くの来場者で賑わっている。

(宮代町が特に検証すべきは)自治体自らの権限と責任において、是々非々で考えることであった。おおき循環センターくるるんの成功の秘訣の一つは、住民の熱心な参加であった(②の取組みとその影響である)という。
住民は、家庭で生ごみを分別し、収集バケツに週2回出す。新しい習慣が定着するまでには時間がかかったが、異物が入っていたら張り紙をして注意を喚起するなどして、普及を図った。稼働から6年後に行ったアンケート調査では、生ごみをほとんど分別する人が86%、ある程度は分別する人が12%、分別しないと答えた人は2%(回収率65%)と、広く定着した。
大木町では、準備段階から住民と十分なコミュニケーションを行った。まちづくりに関心のある女性たちとも何度も話し合いをもち、「始める前はちょっと不安でしたが、始めたらずっとこちらの方がいい」という声が多勢を占めるようになった。分別の手間はあるけれど、環境にもいいし経済的だということ、全国からも注目される事業ということで住民の誇りが芽生え、参加意識が高まっていった。おおき循環センターくるるんには環境学習施設も併設され、子どもたちや海外からも施設に多くの人が訪れ、この事業を地域活性化や環境面で高く評価しているという。