「松田を見てて『一つのことに本気で取り組めば、夢って本当にかなうもんなんだな』って思いました」
2019プロ野球ドラフト会議で中日ドラゴンズから育成1位指名を受けた名古屋大・松田亘哲選手。
ドラフト指名後の記者会見場所は、5年前に天野浩博士がノーベル賞受賞の喜びを語った場所。名古屋大は「夢に向かって奮闘する松田君を応援したい」という思いから、その場所でドラフト会議のパブリックビューイングを開きました。
松田選手の名前が呼ばれたのは、ドラフト会議開始から約2時間半後。ドラフト会議の途中まで、「どこか“視聴者目線”だった」とのことでした。服部監督の携帯電話が鳴り、「(中日からの電話が)来たぞ」と伝えられ、心の準備は出来ていたつもりでしたが、TVで見ていたドラフト会議の会場で自分の名が呼ばれたことには、実感がまったく湧かなかったそうです。
ちなみに、このパブリックビューイングの参加者は野球部員と、松田選手と同じゼミの人に限られていたそうです。しかし、特別に参加してたのが黒柳寛喜さんでした。
だった。黒柳は1年生の夏にけがを理由に野球部を退部し、いま、ガンと闘っている。闘病生活の中で「一日一日が勝負」と思うようになり、頭に浮かんだのは好きだった野球、そして夢に向かって突き進んでいる松田のことだった。
2016年の春、名古屋大に入ってのオリエンテーションで松田選手と黒柳さんは出会いました。黒柳さんは中学時代、愛知県内の強豪クラブで活躍し、県立半田高硬式野球部では主将を務めていました。黒柳さんの活躍を耳にしていた名古屋大の服部匠監督は「一緒にやろう」と声をかけていたほどでした。そして、黒柳さんは1年の浪人後に合格。「もっと野球を本気でやりたい」という思いから野球部に入部し、すぐに意気投合しました。
黒柳さんの松田選手に対する第一印象は「野球が大好き」。ランニング中も出てくるのは野球の話ばかりであり、いろいろとアドバイスを求めてきました。また、野球を再開してから、「プロになりたい」という松田選手の思いも聞いてきました。ただ、黒柳さん自身、ずっと野球をやってきて、そんなに甘いものではないと身に染みていました。しかも、松田選手が高校時代に野球をやっていないこともあり「本当に目指せるのか?」と思いながらもキャッチャーとして松田選手のボールを初めて受けたとき、これまで受けてきたボールとぜんぜん感覚が違う、恐さがあったそうです。
ドラフト指名直後の10月20日、愛知大学リーグ3部優勝決定戦の愛知淑徳大戦(名商大グラウンド)に先発し、愛知淑徳大相手に10回5安打2失点で完投。チームに勝利を呼び込み、3部優勝に導きました。
しかし、この試合では松田選手はコントロールが定まらず、3回裏には3つのフォアボールがもとで1-2と逆転されます。しかし、7回表にホームランで同点に追いつくと、試合中なのに松田選手は思わず泣いたそうです。そして、タイブレークから始まった延長10回。味方が1点勝ち越しての10回裏1アウト二・三塁のピンチ。申告敬遠で満塁。この試合はコントロールが定まらずに7四死球。本来の投球とは程遠いないようでしたが、「(真っすぐは走ってなかった。)カットボールは自信を持って使える。(次のバッターが)右だったら、ゴロを打たせてゲッツーが取れる」と、決め球にしたカットボールで、ピッチャーゴロでダブルプレーで打ち取り、2部昇格を目指して、今日(11月2日)から名古屋経済大戦(パロマ瑞穂ほか)との入れ替え戦に駒を進めました。
この試合に黒柳さんも応援に駆けつけ、試合後に改めて松田選手に、「プロ入りおめでとう」「松田がナゴヤドームで投げる姿を必ず見に行くよ」と伝えました。
松田選手は最近まで、黒柳さんの病気のことを詳しくは知りませんでした。それでも、一年生の最初から自分を気にかけてくれた黒柳さんに、「自分が野球をここまで頑張ってこられたのは、クロの力がとても大きい。活躍できるように、少しでもクロの力になれるように頑張るよ」と返しました。
黒柳さんには夢があります。一つは経営に携わることです。「時間を有効活用し、人生を豊かにする」というテーマを掲げ、名古屋大で学びながら新事業を構想しています。もう一つは病気で自分と同じような経験をしている人、これから経験するかも知れない人に向けて、自分の経験を伝えることです。その一歩として、「Life応援サロン」というサイトを立ち上げて、自分の経験や感じたことを発信しています。
「松田を見てて『一つのことに本気で取り組めば、夢って本当にかなうもんなんだな』って思いました」とは、ドラフト会議で松田選手が指名された後の黒柳さんのコメントです。
松田選手にとって、まだ夢の途中。いいえ、夢が終わり、ここからが現実を実現するスタート。
支配下選手、そしてプロ1勝に向けて、不退転の決意で進んできた松田選手がプロ野球の世界へ飛び込んでいきます。