回転すしチェーンで「1人負け」していると言われているのが「かっぱ寿司」です。かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトの売上高は794億円(2017年3月期連結)、当期純利益は58億円の赤字でした。一方、売上高で業界トップのスシローを経営するスシローグローバルホールディングス(HD)の売上高にあたる売上収益は1564億円(17年9月期連結、国際会計基準)、当期純利益は69億円の黒字でした。
かっぱ寿司はかつて業界をリードする立場でした。売上高は業界トップクラスで、タッチパネル方式や高速ですしをテーブルまで運ぶ「特急レーン」を相次いで導入していた「業界の革命児」でしたが、いつの間にか競合他社に抜かれ、置いてかれてしまいました。
かっぱ寿司の創業は1973年。当時は流しそうめんのように桶に入れたすしを水に浮かべていました。水に浮かぶ桶がかっぱの皿に見えたことから店名を「かっぱ寿司」としたそうです(諸説あり)。
1979年から回転すしのチェーン展開を開始し、1996年に手打ちうどんの「得得」を子会社化し、1999年4月以降には大型店の出店も開始しました。2003年には総菜を中心に扱う新業態「かっぱ厨房」をスタートさせるなど、積極的に規模拡大を進めていきます。
事業は順調に成長を続け、2001年度には店舗数が173店に増加し、1999年度の売上高は211億円でしたが、わずか2年で394億円に達し、当期純利益も4億円から23億円に増加しました。その後、業績が低迷した時期もありましたが、着実な成長を続けてきました。
回転すし業界は低価格・高原価率のビジネスです。原価率とは売上高に占める原価(商品の仕入れや製造にかかる費用)の割合のことを言います。
カッパ・クリエイトの原価率は2000年代後半には40%弱でしたが、49.2%(2017年3月期)、スシローグローバルHDの原価率は48.3%(2017年9月期)となっています。他業界では、吉野家を運営する吉野家ホールディングスは35.1%(2018年2月期)、日高屋を運営するハイディ日高は27.2%(2018年2月期)となっており、外食産業のなかでは原価率が高いことがよくわかります。
基本原価率が高ければ、いいネタを仕入れることが出来、美味しいお寿司へとなります(単に高ければいいというものではありませんが)。カッパ・クリエイトの原価率が上がっている理由は、ライバルが質の高いすしを投入することに焦りを感じていたからだと思います。
さて、回転すしは「予測ビジネス」です。来店客数や顧客ニーズを精度高く把握し、廃棄率を下げ、そこで生まれた利益を還元する仕組みをいかに構築するかが重要となります。
スシローグローバルHDはITを活用して効率よく店舗を運営する仕組みづくりを進めており、ICチップを埋め込んで商品を単品管理するもので、レーンを一定以上移動したすしを自動廃棄仕組みもあります。くら寿司は食べ終わった皿をカウンターに備え付けてある皿ポケットで回収しています。
そうは言っても、回転すしはすしの味や来店する楽しみがなければなりません。
はま寿司の「肉寿司」にはすき家で培った肉の調理技術が生かされていたり、くら寿司は食べ終わった皿をカウンターの穴に入れると景品がもらえる「ビッくらポン!」や、ほこりなどからすしを守る「鮮度くん」を導入しています。
業界最大手のスシローは前述した通り「食材原価率約50%」を掲げ、「安くてうまいすし」の提供に努めています。さらに、2004年にセントラルキッチンを全面廃止し、鮮度の高い商品を提供直前に調理する方式にしました。
回転寿司というと、どうしても待ち時間が気になります。かっぱ寿司が店舗に並ぶ時間を短縮する「かっぱ寿司アプリ」を導入したのは2017年3月で、総ダウンロード数は100万件(2018年3月時点)。一方、スシローが同様の「スシローアプリ」を導入したのは2015年4月で、ダウンロード数は850万件(2018年2月時点)と大きな差があります。
リスク対策についてもスシローはかっぱ寿司の先を行き、将来のリスクになりうる原価高騰や人件費高騰への取り組みについて具体的な対策を挙げ、経営課題解決に向けたアクションプランを全社的なプロジェクトとして取り組んでいたりします。
かっぱ寿司は食べ放題キャンペーンを実施したり、丼ものを投入したりと必死の巻き返し策を展開しています。原価率を上げるのも「良いものを安く」という基本に立ち返っているからだと思います。
ただ、スシローの取り組みと比べるとかっぱ寿司の各種施策は見劣りしてしまう。こういった姿勢の差が、両社の明暗を分けたのではないでしょうか。
この構図を観ていますと、昔ながらのやり方が基本にある張本勲さんと、毎年のように打ち方を変えたりして進化してきたイチロー選手に当てはまるような気がしてなりません。