「信州を紹介します」のコーナー第4回は、国宝・松本城の続き・伝説編です。
1725年7月28日のことです。松本藩(現;長野県)6代藩主の水野忠恒(みずのただつね)さんは、江戸城にて8代将軍の暴れん坊将軍・徳川吉宗(とくがわよしむね)さんに自分の婚儀の報告をしました。
退出というところで、松の廊下に差し掛かったときのこと。突然、次に将軍に拝謁する長府藩(現;山口県)藩主の5男・毛利師就(もうりもろなり)さんとすれ違いざまに、いきなり相手を斬り付けたのです。
大石内蔵助(おおいしくらのすけ)さんたちの敵討ちで有名な、「忠臣蔵」の事件の基となった「赤穂事件(赤穂藩主の浅野内匠頭長矩(あさのたくみのかみながのり)さんが、江戸城の松の廊下で、吉良上野介義央(きらこうずけのすけよしひさ)さんに斬りかかった事件)」の発生が1701年4月21日です。
またもや、事件が発生してしまったのです。現在でしたら、ワイドショーで連日放送されるようなトップ・ニュースです。
忠恒さんは、その場で取り押さえられ、その日のうちに川越藩主に預けられます。その後、水野家に下った処分は「改易(武士の身分が剥奪され、家禄、屋敷、領地を没収)」という重い処分でした。
なお、そんな大それた事件を起こしたにも関わらず、動機は不明。そもそも、2人は面識がなかったというのです。
さてさて、そんな事件について地元では、「多田加助(ただかすけ)の無念の思いではないか」とのうわさが流れたとのことです。
話は40年ほど前にさかのぼる1686年。この年も大雨と水害で、稲が育たない不作でした。また、毎年続く凶作で農民は年貢の取り立てに疲弊していました。
松本藩の年貢は籾(もみ)を納める年貢で、1俵につき玄米2斗5升挽き(玄米が2斗5升になるように籾を納めること)でしたが、玄米3斗挽きに引き上げられました。
周囲の藩は年貢の減免を行うなど救民政策を実施していたりしましたが、松本藩の年貢は周囲の藩よりも高く、さらに年貢の引き上げるという政策にでました。
そこで、立ち上がったのが安曇郡中萱村(あづみぐんなかがやむら)の元庄屋で、江戸時代前期に起こった多田加助さんです。
同年10月に同胞と相談し、年貢の減免を求める「5ヵ条の訴状」を直訴することにします。さらに、領内の約70%となる224の村が参加して、竹槍や鋤(すき)、鍬(くわ)を持った農民ら約2000人(一説には1万人ともいわれています)が松本城下に集結し、状況は農民一揆の様相になってきます。
この時の藩主・忠直さんは参勤交代のために江戸にいたこともあり、留守を預かる家老たちは幕府に知られずに一揆を収めようとし、年貢の引き上げを撤回。周囲の藩と同じ「2斗5升挽き」まで年貢の引き下げることを書いた紙を農民たちに示しました。
が、いつの時代も、お上のやることは変わりません。騒動が収束した約1か月後。松本藩は約束を撤回してしまいます。
さらに、加助さんとその一族、同士合わせて総勢28名は、一揆の首謀者として次々に捕まり、加助さんら8名は「はりつけ」、残り20名は「打ち首」となってしまいます。
同年11月22日。加助さんが、はりつけされたのは、松本城を見下ろす丘の上(長野県松本市宮渕)でした。その場所には多くの人が集まり、念仏をとなえたり、罪を許してくれと叫んだり、最後にはみなが大声で泣き出しました。
加助さんは、「みなのしゅう、わしはみなの年貢が減らされるのだから、安心して死んでいく。さらば」というと、人びとの中から、「残念ながら、約束の書かれた紙は、おぬしが牢屋に入れられた日に役人に取り上げられた」と声があがりました。
すると加助さんは、「2斗5升、2斗5升、2斗5升・・・」と叫ぶと、松本城の天守をぐっとにらみつけました。その瞬間、恐ろしい地ひびきとともに天守が西に傾けさせたとの伝説が残っています。実際に、明治時代初期の松本城の写真には、その天守閣に西に傾いています。
この一揆は、「貞享(じょうきょう)騒動」といわれています。
こんなことがあり、江戸城の忠恒さんの事件については、松の廊下で、加助さんの霊を見たからだともいわれています。
松本城にはほかにも3つの伝説があります。歴史に想いを馳せながら、満開の桜を見てきました。
(20201年4月上旬の写真です)
ちなみに、1890年代後半に松本城の天守の傾きを直す工事をしています。このときに、天守台の中の西側の柱が老朽化していることが判かり、重みを支えきれず、傾いてしまったということが原因でした。
なお、加助さんの名誉は明治時代に入り回復し、1960年に加助さんらを祀った神社は、「貞享義民社(じょうきょうぎみんしゃ)」として、神社本庁の承認を受けました。
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