「どこにでもいる阪神ファン、どこにでも行くロッテファン」
これはプロ野球のファンを表した言葉で、「阪神ファンは全国どこにでもその土地のファンがいて、地方球場での開催があると地元の阪神ファンが詰めかける。ロッテファンは首都圏の球場に出没するファンが、首都圏から遠く離れた球場にも出没する」と言われるものです。
確かに、不思議なものでプロ野球は日本国中どこで開催されても応援団の応援があります。そんな応援団の知られざる世界、TV的に言いますと「マツコの知らない世界」の話です。この応援団の活動を研究テーマとしたのが、奈良教育大学の高橋豪仁教授です。高橋教授はスポーツ社会学者であり、応援団の活動が集団形成上極めてユニークであることに着目し、フィールドワークのために、トランペットの練習までして応援団に加入した経験を持つ方です。
さて、プロ野球のシーズン中の年間試合は2016年の場合143試合。半分の約67試合がホームゲームとなります。そんな応援団の方々はすべてがボランティアです。手当は一切ありません。交通費はもちろん球場への入場料も自腹なのです。確かに好きでなければ、チームを愛していなければ、一年間の1/3近く、場合によっては半分近く、球場で応援することなんかできません。
高橋教授は奈良教育大赴任の1998年に阪神甲子園球場で活動する広島東洋カープの応援団「神戸中央会」に入会したそうです。当時、応援団に参加している人は性別も年齢層さまざまで、学生や主婦、大企業の営業マン、中小企業の経営者、職人など、職業もいろいろだったそうです。
大所帯の応援団の場合、会社のように会長、副会長、団長、監査、書記などの役職が設けられていて組織形成されている場合もあるそうです。しかもそれは自発的に形成したものであって、カープファンだということ以外何も共通点がない、赤の他人が寄り集まった集団でありながら、極めて濃厚な人間関係が自発的に形成されているそうです。
さらに応援団が全国的に存在し、それぞれの地元で応援活動している場合もあるそうで、その場合は連絡会的な組織があり、応援団同士で遠征し合って共同応援することもあるそうです。ただ、応援団の数が少ない場合は、当然のことながら遠征回数は多くなります。
どうして応援団がフラットな人間関係ではなく、上下関係のある組織を形成するのかは判かりませんが、無報酬で参加強制もされないのに、濃厚な人間関係の中で献身的な応援活動に没頭することは、会社組織とは大きく違いますよね。会社も4上下関係のある組織であり、報酬があり参加強制もさせられるのですが、希薄な人間関係です。これは利害関係とも大きく相関があるように思えてなりません。
一方、応援団に対し、参加する外野の常連たちは仲間で動くそうです。見ず知らずの人と一緒になっても、ヒットが出たり、得点が入ったりすると、応援グッズでたたき合い、ハイタッチし、自然と同じ喜びを共有することで、仲間となって行きます。何度か通ううちに、顔見知りが出来、気軽に声をかけてくれるので、回を重ねるごとに友人が増えていきます。普通に暮らしている中では知り合うことはないであろうと思える人と知り合いになれます。一人で行ってもそこに誰かしら仲間が来ているので、エキサイト出来ます。
昔はチケットが取りにくく、プロ野球観戦なんて一大行事でしたが、現在は地方に居てもチケット入手は可能です。私の場合、名古屋と首都圏は日帰り可能な範囲で、それ以外は宿泊がが伴います。どちらにしても、チケット代よりも交通費の方が高くつきますが、野球以外のものをセットにすればそれほど苦になることはありません。昨年の場合は2ヵ月に一回ペースですから。
個人的にもっともいいのは、デーゲームで二軍戦、ナイターで一軍戦をナゴヤドームで観戦すること。この親子ゲームは言うことありません。
そうは言っても、やっぱり懐具合は気になります。安く野球観戦する極意があるそうです。
以前は普通の会社員で、現在は自営業者を営んでいるマリーンズファンの方は年間70~80試合程度観戦しているそうです。会社員だったころは有休休暇をすべて消化していたそうですが、業務に支障を来したことはなかったそうです。ホームゲームとビジターゲームの半々ずつ。北は札幌から南は福岡まで、パ・リーグの球場のみならず、交流戦が開催されるセ・リーグの球場も含め、全国どこへでも都合が付く限り出かけて行くそうです。
野球観戦費用は年間50万円程度であり、「ゴルフをやる人よりは、かかっていないと思う」と話しています。基本的に外野席観戦で、値段の高い内野指定席には滅多に座らないため、チケット代は1シーズン約10万円、そして交通費と宿泊費が約40万円。交通費や宿泊費を安く上げるコツは「格安ツアーを使いこなし、極力新幹線を使わず飛行機の早割を利用すること」だそうです。
開催日程はシーズン始めに公表されるため、スケジュールは判っているので、交通機関と宿泊は3ヶ月前に予約するそうです。チケットの発売時期は試合開催の前月になり、雨天中止などの場合は丸損になりますが、「元の値段が安いので損失はいくらでもない」と言っています。新幹線は早割の割引率が低いので、新幹線でも飛行機でも行けるところは極力割引率が高い飛行機を使ったり、仲間数人でレンタカーを借りて遠征に行くこともあるそうで、あの手この手の工夫で節約をしているそうです。それでも、年間数十試合にもなるため家族の理解があってこそ出来ることだそうです。
また、ファンの中には応援団員よりも観戦試合数が多かったり、ファン歴が長かったり、選手、チーム、そして野球そのものをよく知っていたりすることがある方もいるため、応援団員にプロ並みの水準を要求しがちになる場合があるそうです。つまり、ファンの方が応援のバリエーションに通じていたりすると、ファンが望むタイミングで、望む応援歌を使う誘導を出来ないとファンからブーイングが出たりするそうです。
2006年シーズン以降、応援団はチームを通じてNPB(日本野球機構)に登録を申請し、許可を受けないと活動出来ません。また、活動できる場所も外野スタンド内の指定エリア内のみとなっています。
応援団の活動は完全なボランティア。チケット代も交通費も自腹です。それでいて献身的な応援し、チームを鼓舞してファンを盛り上げてくれています。今や日本のプロ野球には欠かせない存在になっているのです。
いつ行っても、何点差で勝っていても、敗けていても元気な応援団。球場に行くと、そんな応援団に元気を分けてもらえます。