【碁を打つ女の話 ~ ある霊的体験から の巻】
四、五日すると、碁盤職人の平七は、
碁盤をすっかり仕上げ、本因坊家に持参した。
「檀那。またしても余計なことを言うようですが
どうも怪しうございますぜ」
と、その後の話を始めた。
しばらくは、盤にカンナを当てても何事もなかった。
勢いを得て、すぐに漆(うるし)で線を引き始め、
夢中でいたが、
ふと、気が付くと……。
傍には、いつの間にか、女が坐っていて
職人仕事にじっと見入っている。
やはり この前の通り、帯を前に結んでいる。
あやうく声を立てようとした時、
姿は掻き消えて、そこには何もなかった。
平七は恐ろしくはあったものの
気を取り直し、弟子も呼んで手伝わせ、
ひと息に線を引き終えた。
そうして急ぎ持って上がった、と言う。
じっと聴いていた本因坊は
「そうかい」
と穏やかにうなずいて
「その女というのには、
心当たりがないでもないが、
なお よく尋ね合わせたうえ、
お前にも話をしよう」
と言い、手間賃に色を付けて与えた。
(つづく)
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