忘憂之物

男はいかに丸くとも、角を持たねばならぬ
             渋沢栄一

対馬日記②

2010年01月25日 | 過去記事



朝はゆっくりと過ごすに限る。シャワーを浴びて、コーヒーを飲んでテレビをみる。飛行機は15:25出発だし、とくに、やることもない。3時間ほど本を読んで過ごす。昨日の酒がちょっと残っている感じ。この感じは嫌いじゃない。昼過ぎ、ようやく博多駅から地下鉄に乗って福岡空港へ。まだ、3時間近くあるし。


早々とチェックインを済ませ、荷物を預けてレストラン街へ。なんとも美味くないレストランでハンバーグランチを喰う。次の日、このレストランでハンバーグランチを喰ったことで、対馬島民から笑われるほど「不味くて有名」だったそうだ。知らんがな。店に入る前、空港の売店で、東野圭吾の「悪意」を購入。倅にお返して貸してやることにする。2時間はちょうど良い時間だ。なんか酸っぱい感じのアイスコーヒーを飲みながら読みふける。ったく、コーヒーまで不味い。


ようやく飛んだ飛行機は窓側の席だったのだが、ちょっと後悔した。やはり、飛行機は何度乗っても怖い。「悪意」に出てくる真犯人の動機に迫ることで現実逃避する。これを知らずしては死ねない。それに、結構、人が多い。明らかにシーズンオフだろうと思っていたが、やはり、釣り客が多いらしい。あと、対馬島民が博多で遊んで帰る場合もある。家族連れが目立つ。ハウステンボスの帰りだろうか。


書いておかねばならないことは、対馬の空港(滑走路がね)は怖いということだ。数年前、ヘリコプターが激突する事故もあったという。すなわち、急に滑走路がある(出てくる)。基本、山の上にあるから、まだ海だと思っていたら、いきなり切り立った岩が視界に入るわけだ。隣の席の女の子も「はぁぅあ!」と声を出して友達に笑われていたが、あんた、見えないからそんな余裕なんだ。急に岩が、すぐそこに見えてみろ。どれほど「はぅぁ!」となるか。


事実、ほんのちょっと高度が下がるだけで、崖に激突する可能性がある。私は博多に戻る際は、なにがあってもフェリーにしようと心に決めた。いくら30分で対馬と福岡をつなぐと言われても、やはり空は嫌いである。地べたが好きで、その次は海の方がマシだ。最悪でも、なんとかなるような気がする。



平成22年1月10日16時10分。ともかく、無事に着いたようだ。





ホテルは「ホテル対馬」を3日間予約した。フリープランと言えば聞こえはいいが、要するに無計画なわけだから、途中でキャンセルする可能性もある。フロントで問うと「キャンセル料金はいりません。別に」とのこと。事実、ここには2泊しかしていないのだが、ま、韓国人好みのホテルだった。次は違うところを予約するだろう。場所も中途半端だったし。


ただ、ホテルの前が「在特会の対馬デモ」でみた動画の場所そのままだったからわろた。






思わず、タクシーの運ちゃんに「ここ、ここですわ!ww」と、ハイテンションで言ってしまった。運ちゃん、大阪のタクシーは目的地に着かないとでも思ったのではなかろうか。いくら対馬でも、タクシーに乗って「ホテル対馬」と言えば「ホテル対馬」に着くのは当たり前だという表情をしていた。




対馬には電車が無いから、空港からホテルまではタクシーを使ったのだ。料金は厳原町のホテルまで2850円。安いか高いかは知らんが、車が無くてはどうにもならん場所であることには違いない。だから、おそらく安くはない。直線を走れば、距離はそうでもないのだが、なにしろ山が多い。道は急カーブとトンネルだらけだ。対馬は北から南までの距離は84キロほどだが、実際に車で走ると130キロを越えるらしい。


車は軽自動車が多かった。言うまでもなく、道が狭いのである。車一台がギリギリ通れる、というか、ここ通って良いのか?という道が何本もあって、しかも、対向車が来る(笑)。もう、どちらかは崖から落ちるか、中空に浮かぶしか通れないのだが、対馬市の交通事故死亡者は、もう、2年近く「ゼロ」である。理由はあとで書こう。


「対馬市」とは厳原町・美津島町・豊玉町・峰町・上県町・上対馬町が合併して、今では島全体が「対馬市」ということになったそうだ(2004年)。とはいえ、日本で佐渡島、奄美大島に次いで3番目に大きな島である。まとめて「ひとつの市」にするには、ちょっと大きいんじゃないのと思ったが、そこは90%が山であった。人口は減少に減少して、今はもう3万5千人ほど、対馬市議会は26名で運営されている。過疎化に拍車がかかるだろう。




部屋に入って荷物を下ろして着替える。んで、例の如く、「悪意」の続きを読む。ほぇ~そうきたか、なるほどなぁと感心していたら腹が減っていることに気づく。時間は18時30分。今日は観光する予定もないし、ここから「対馬の夜」を体験せねばなるまい(何しに来とるのか?)。れっつだごー♪



私はこういう場合、パンフレットとか対馬観光案内組合などあてにしない。フロントに「この辺でどっか飲める店、あります?うふふ♪」などとも聞かない。研ぎ澄まされた我が勘、我が嗅覚を信じ、歩きまわって店を選ぶ。もちろん、失敗すること山の如し。

京都に戻る最後の日の博多では「ひや酒」をお替わりすると、私の席まで運んでくるおばあちゃんが、2メートルの距離を2分かけて運んでくる店に入ってしまったほどだ。目を離すと止まっている可能性も否定できない。また、ようやくたどり着いて、酒をグラスに注いでくれるのはありがたいのだが、なんかもう、ぷるぷるしてるから、酒がほら、めっさこぼれてるじゃんと、もう、途中から、自分で取りに行ったら、ばあさんが「ありがと♪」と言い残して、あとはもう、ずっと「テレビをみる」という職務放棄をされた。


しかし、あまりに動かないので、実のところ「死んでるんじゃ・・?」と不安になり、なんかしらオーダーしてしまうという「死んだふり商法」でもあった。しかし、それこそ自己責任。不味くとも、やばくとも、最低限、その店で一杯だけでも飲んで出るのである。それが男一匹・千代太郎の「自分ルール」であった。ゴボウのてんぷらは美味かった。




ということで、今日のスタートダッシュはここにしよう。そんな選べるほど店もないしね(泣)!!そして、なんと「赤ちょうちん」という屋号の赤提灯である。まるで「パン屋」というパン屋、「クリーニング屋」という名のクリーニング屋の如し、なんというあっさり。もはや、もう、店の名前を考えるのが邪魔臭くなったかの如き、もう、なんか、「とんぬら」とかでドラクエを進めているような大人の雰囲気であろう。その安易に過ぎるネーミングは私の興味をそそるのであった。こんばんはぁ~~♪



「赤提灯」の名に恥じぬほど、店内は赤ちょうちんがあった。ちょっと邪魔なほどあった。カウンター席に常連さんらしき客が2人。その隣に夫婦(?)と思われる中年カップル。座敷は三つあったが、まだ、誰もいなかった。私はカウンターの端席に座って「ひや酒」と頼む。威勢の良い返事を聞いてちょっと安心する。カウンター席の常連さんは、ちょっとジロジロ見てくる。「見たことない顔」だから、それは仕方がない。お構いなく。



また、よく見ると、私以外の全員に共通点があった。先ず、銘柄は違えど、全員が一升瓶を横に置いている。その横にはポット。すなわち、全員が焼酎のお湯割りを飲んでいるのだとわかる。そして、全員が「豚足」をかじっていた。▲などは決めつけているが、私はあまり「豚足」は好きではない。手が汚れるし、あまり食べるとこもないし、毛が生えてたりするし、私は結構、こうみえてもデリケートなのだと台湾旅行の際、ようやく気付いたのである。あまりグロいのはNGなのである。正直、お嬢様のように扱ってほしい。

「何か焼きますか?」

なんと、標準語でオーダーをとられた。周りはハングル文字だらけである。ええっと、とメニューをみようとするも、日本語表記は少ないのである。それに、この「ホタテ焼き」は、こっちの「焼き物」にもあるし、裏面の「おつまみ」にもあるじゃないか。かぶってるんだよ、だから、よ。というか「おススメ!豚足!」ってポップ、貼り過ぎなんだよ、あんだよ、どんだけ豚足にチカラ入れてるんだよ、

「ええと、じゃあ、ホタテ焼きと・・・」

と言いかけたら、ガラスがぐらつくドアを開けて、客が入ってきた。スーツのお兄さんだ。その後ろから漁師っぽい人と、おばさんが来た。みな、メニューも見ず、座りながら、

「ビール。豚足と」
「豚足ね、ふたつ」

「あいよ!豚足2ちょう!・・で、えっと、はい、にいちゃん、ごめんね、ホタテ焼きと・・?」



「・・・・・豚足で・・」





店主の顔は「でしょう!?」と言っているような気がした。でも、炭火で焼く豚足が、これほど美味いものだとは知らなかった。600円。次の日も喰った。なんて美味いんだ。













ところで、その1月11日には「中山競馬場」で落馬事故があった。対馬市厳原町にある赤提灯の話題は、その事故から始まった。先ず、豚足の喰い過ぎで顔の濃い店主が言う。はっきり言って、最初は「JR」しか聞き取れなかったのだが、だんだんと耳が慣れてきた。

店主は、事故が発生した第4コーナーで何が起こったのかを、カウンターの常連客に説明している。左手の指二本と右手人差し指一本を使い、こうやってよ、先頭の馬っこがよ、ケツ振ったらでよ、と説明している。カウンターの常連客は真面目な顔をして聞いているが、今ひとつ要領を得ないようだった。それもそのはず、店主が言う「先頭の馬」とは、右手人差し指で表しているらしかった。が、しかし、店主の右手人差し指は、なんというか、ちょっと切れていたのである。豚足を切るときに、一緒に切り落としてしまったのかもしれないが、ともかく、つまり、ちょっと「指が足りない」のだ。だから、常連客は「これが先頭だ」と言われる指が、ぜんぜん「先頭じゃないから」困っているのである。言うまでもなく、私はもう、ツボに入りかけている。

そして、カウンター客の一人がついに突っ込んだ。

「それ、指が足らんが、先頭かどうか、わからんたいwwwwww」

店主も含めて大爆笑が起こる。私はまだ耐えている。しかし、私が噴き出したのは、その直後であった。爆笑が収まりつつあるタイミングで、

「ww・・・・・んで、おい、さいきんよ、天体に凝りよるンョ」

競馬の話はすっとどこかに行ったのである。その話題の切り替えの脈略の無さ、つながりの無さに、私は往年の「西川のりお」をみた。しかも、隣の飲み友達らしき漁師が、

「天体つったってよー」

と茶化すと、

「おま、引力ちゅうのはすごいばってんが!」

と、すごい引力で話題を引っ張るのであった。また、なぜに「引力擁護」なのか。相手は「天体」について文句を言おうとしているのに、なぜ、いきなり「引力」なのかがわからない。いや、しかし、マジで脳内処理が速いのかもしれん。漁師さんだし。


というのも、言葉を交わすことが出来ない可能性がある「荒れる海の上」では、インスピレーションとコミュニケーションが同時に行われる可能性はないか。のんびり説明している間に手遅れになったりする場合もあろう。話し始めたら、相手の答えを予測し、会話の内容が次、またその次、どこに着地するのかを予測して話す。だから、対馬の酒場で流れる会話はこのようになる。


漁師A:「それでも大橋巨泉はすごい」
島民B:「成人式が荒れ放題はいかん。佐世保は情けない」
主婦C:「大仁田が来ているらしい。松方も来ている」
島民D:「ともかく、アテ馬は辛い」
漁師E:「はらたいらは、いま、なにをしているのか?(死んでいる)」
島民B:「味噌は美味い」
店主:「朝鮮風は寒い」
漁師A:「クイズバービーはすごかった(クイズダービー)」
主婦C:「大仁田はパチンコのイベントに来ている(逆。松方がイベント。大仁田は長崎県知事選の選挙活動)」
島民D:「だってヤラせてもらえんのだから」
漁師E:「たけしたきょうこ、ちゅうのも、おったばってん(竹下景子)」
漁師A:「はらたいらさんがぜんぶ!!ww(に)」



もはや拷問である。はらたいらの、その「ぜんぶ」とは何を指すのか。私はメモを取りながら(取るなよ)、込み上げてくる笑いを噛み殺すのが精いっぱいだった。コレ、どこから突っ込んでいいかわからんのである。私は必死で「落馬事故は、やっぱり引力が原因ですかね?」とウケを狙って聞いてみたが、即座に「ん?それはなかろ。ちゃうばってん」と、なんか悪いことしたのか?というほど冷たくスル―された。さっき、笑っていた時は、全然、関係のない私にまで「な?wwな?ww」と笑えと強要していたのにである。一軒目で、何とも無残な敗北感を味わった。京都の爆笑王である私がである。芸人に説教する私がである。どころか、私はその「ちゃうばってん」でまたやられる。



こうして、初日の夜からカルチャーショックを受けた私は、まだまだ「お笑いの修行が足らない」と反省した。世の中は広い。上には上がいるのである。

それでもめげずにフラフラ歩いていると、スナック「アケミ」という看板が目に入った。目に入ったら入るしかあるまい。だって、他に店が無いんだから(泣)。

気の良いママさんだった。明日も来るし、ボトルを入れたら喜んでくれた。なんかつまむ?と聞かれたから、はい、喜んでと言うと「サメ」と「イモ」が出てきた。








サメはなんか「水の味」がした。ひと切れでもう勘弁してくださいだった。イモは、まあ、イモだった。芋焼酎飲みながら芋を喰う。究極の芋体験である。

「観光で来ている」と言うと、なにやら怪しげな顔をされたが、それもまあ、無理もあるまい。私のような無愛想な男が一人で対馬に来て「観光です」と言えば、なんか、犯人を追ってきたみたいな展開もあろう。部長、ホシは必ず、実家の母親のところ、つまり、対馬の厳原にいます、行かせてください!とか言って探しているのだ。そして、ようやく浅茅海岸で犯人を追いつめ、もう諦めろ、おふくろさんだって、そんなお前を心配して・・




「うるさいばってん!あんなオナゴは母ちゃんなんかじゃなか!」



じゃあ、なんで、お前は、凶器に“かすまき”を使ったんだ!それも対馬銘菓の「山八」のかすまきじゃないか!お前はどうしても、お母さんの恨みを晴らしたかった!お前のお母さんを貶めた被害者を許すことが出来なかったんだ!だから、この「対馬名物かすまき」で襲ったんだ!お前はお母さんの仇を討ったつもりだったんだ!!

「そ、そんなことなか!あ、あの、かすまきは、たまたま、そこにあったばってんが・・・」

嘘をつけ!あんなマイナーな菓子がそこらにあるわけないだろ!それに、お前は重大な勘違いをしているんだ!私はお前を逮捕するためだけに来たんじゃない!

「な、なんがか!わしゃ、なんも違うとりゃせんばってんが!!」

被害者はお前のお父さんなんだ!父親なんだよ!!

「な、なんとか??ば、ばってん・・・父ちゃんやったと・・?」

それに、お前が凶器に使った「かすまき」は賞味期限が切れていた。何で離島のお土産なのに、賞味期限が3日ほどなんだ。ふたつ買って帰ったが、日付を見て驚いた。帰った日にもう、既に切れている。どうしろというんだ、あんな甘いもの。だから、安心しろ、お前は誰も殺しちゃいない。お前の父さんは生きてるんだ。少し、頭部に「かすまき」が残っているから福岡の病院で入院されている。お母さんと会いに行ったらどうだ?

「と、父ちゃん、バカイカはマイカのことたい。水イカはアオリイカのことたいね・・」

そうだ。対馬海流に乗って北上したイカは、北海道では「朝イカ」と呼ばれるんだ。ソデイカ、タルイカ、コシキイカ、イカにもいろいろあるんだ。私はイカはあまり好きじゃないんだよ。でも、サメよりは喰えると確信したんだ。さあ、行こう。イカ野郎。





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