ずいぶん昔の話だが――――
あれは、むーちゃんが我が家に来てまだ日も浅い頃だった。
妻から電話があった。妻は取り乱しているようだった。
“でべその耳がちょっと切れてしもて、うわぁぁぎゃぁぁぁ”
ちなみに「でべそ」というのは「むーちゃん」のことだ。呼んでいる間に名前が変わっていくことはよくある話で、ようやく今の「むーちゃん」に落ち着いたのだった。
流れはこうだ。
「でべそ(でべそだから)」→「つきひこ(娘が勝手に名付けた)」→「むきひこ(むきむきしてるから)」→「むーちゃん」
ま、そんなことはどうでもいい。なんと「耳が切れた」ということである。しかし、このようなときこそお父さんはしっかりいなければならない。状況を確認する。
「耳毛」が気になるということで「切り揃えていた」らしい。んで、ちょっと切れちゃったということだった。念のため医者に連れて行ったが薬塗ってポイということだ。
しかし、妻は「かわいそう(泣)」だということで、自分を責めている。そんなとき、倅はともかく、私と娘は優しくフォローするのであった。
「あ!!耳切り鬼だ!!耳切り!!」
と言って耳を隠すのである。妻は号泣する(笑)。
現在は「耳切ったろかぁ!!おあぁ?」というまでになったが、しばらくの間は「耳切り鬼」は「物言わぬ相手への失敗」に自分を責めて泣いていたわけだ。元来、動物や子供に対する「想い」というものはそういうものであり、圧倒的優位な立場からの責任こそ負担になるわけで、その体格的優位、経済的優位、知性的優位などをして「虐める」という行為には及ばないのが普通である。慈しみ、大切に育成することは成体(大人)の本能的行為である。
しかし、だ。
「2」へ
■2009/04/29 (水) 耳切り鬼の泪 2
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090428-00000557-san-soci
<「泣き叫ぶ姿、おもしろかった」娘を熱湯風呂に 母と友人逮捕>
こういう「おかしな生物」が跋扈している。コレも今の世の中なのだ。
<同課の調べによると、2人は3月12日午後5時ごろ、自宅マンションで食べさせたシューマイを熱いとはき出した長女の様子を見て、熱湯に入るお笑い芸人の様子を思いだし、長女を熱湯に入れることを計画。熱湯を入れたベビーバスに1分ほど入れ、両足に重症のやけどを負わせた疑いがもたれている。>
「おもしろかった」らしい。「カッとなってやった」のではない。こいつらには私の妻が「耳切り鬼」と言われて泣きながら「むーちゃん」に謝る気持ちがわかるまい。
とっくに何かが壊れているのだ。
我が子の両足が火傷していく様が「おもしろかった」というわけだ。ならば、この友人と二人で「熱湯のかけあい」でもさせればいい。さぞかし「おもしろい」ことだろう。
「3」へ
■2009/04/29 (水) 耳切り鬼の泪 3
しかし、まあ、母親は19才だという。私の娘も若くして子を持ったが・・・
<少女にはほかに、8カ月の長男がいるが、今年2月、足首を持って子供を振り回した際にできやすいという頭部外傷で入院しており、同課は少女が長男にも虐待していた疑いがあるとして調べている。>
コレはもう「やっている」と判断したほうがいい。早急に対処すべきである。
また、コレも虐待が怪しい。
http://www.asahi.com/national/update/0429/OSK200904290040.html
<冷蔵庫内から男児遺体 母親を死体遺棄容疑で逮捕 兵庫>
<同署によると、大塚容疑者は同日午前、市内の交番を訪れて「死んだ子どもを冷蔵庫内に隠している」と説明。署員が自宅がある県営小野田園町住宅2号棟4階の室内を調べたところ、冷蔵庫内から男児の遺体が見つかったという。同署の調べに対し、大塚容疑者は「07年2月ごろに団地に引っ越し、その数カ月後に長男が死亡した」と供述しているという。>
病気や怪我ならば医者を呼ぶくらいのことは思いつくだろう。この場合「死んでしまった」という状況が考えられる。そして、思いつくまま「冷蔵庫に隠す」という行動だ。つまり、何らかの「やましいこと」があると考えるのが普通である。
ま、ともかく、信じられん話だがこれも現実なわけだ。
過日、大阪府西淀川区での虐待死も生々しい。
http://www.asahi.com/national/update/0425/OSK200904250040.html
<「ベランダで食事」証言、虐待常態化か 大阪・女児死亡>
この聖香ちゃんの死因は司法解剖の結果でも「不詳」とされているらしい。度重なる室外への放置などが原因ではないかとして「衰弱死」ではないかということだ。
「4」へ
■2009/04/29 (水) 耳切り鬼の泪 4
<府警によると、小林容疑者は逮捕時の取り調べに対し、「ベランダに(聖香さんを)放り出し、朝になって様子をみると動かなくなっていた」と死亡時の状況について供述し、「しつけのつもりだった」と話したことが明らかになっている。こうした点から、府警は長時間にわたって閉め出す虐待が常態化していた疑いがあるとみて、死亡との因果関係を調べている。>
“絶望とは死に到る病である”
キルケゴール。つまり、死因は「絶望」だ。
<捜査関係者によると、男児は「(事件前に聖香さんが)ベランダに出され、中から鍵をかけられたことがあった」と話し、「そのまま外でご飯を食べてることもあった」などと語っているという。こうした行為は、小林容疑者が主導していた疑いがある。>
聖香ちゃんは「スダレの隙間」から見える夜空に絶望したのだろう。ガラスで遮られた空間に絶望したのである。この内縁の夫とやらが発する怒鳴り声や、それを文句も言わずに座視する、いや、せせら笑うかの如き実の母親の冷淡な視線に絶望したのである。
「私の子供に何をするか!」と非力ながらも喰ってかかるわけでもなく、我が身を奈良の山奥に埋めた後にさえ焼肉をほうばり、酒を酌み交わして談笑する母親に絶望したのである。母親の愛に、ケダモノの粗野に、世の中の冷たさに、絶望したのである。
ライオンなどの野生動物は「前の雄」との間に出来た子を殺すと言われる。自分の遺伝子を引き継ぐ子に全ての労力を注ぎ込むためだとも言われる。これは何となく理解できる。
「5」へ
■2009/04/29 (水) 耳切り鬼の泪 5
野生で生き抜くことは想像を絶する困難が待ち受ける。本能で生きる動物は「自らの子孫」を残そうとするだろう。そこに「一緒に養う」という感覚はない。自分の子を育てるため、もしくは自分の子を安心して宿すためには「前の雄」の子は殺すという本能的行為に及ぶのだろう。しかし、論じるまでもなく「人間」は同じではない。
-
ここを読んでくれている人は知っていると思うが、私の子供らと私の間に「血の繋がり」はない。だから、私が溺愛する孫の「そーちゃん」とも血の繋がりはない。
以前、社長マンが言った。子供の話をしていたのだ。躾とかではなく、ほんの単純な世間話の延長であったのだが、
「でも、連れ子やろ?」
と言い放った。一瞬、呆気に取られたが私はクスッと笑った。
社長マンは「連れ子だったら本当の子供のことはわからないだろう」という意味で言った。実の子を育てるのとはわけが違うと峻別したかったのだろう。だから、私は笑った。
“父親のフリができないのに父親になれるはずがない”
嗚呼、この人はまだ「こんなところ」にいるのかと笑ったのである。なるほど、それでは、私には逆立ちしたって勝てないはずだ。なぜなら、私は、
“父親じゃないのに父親になった”
んだから。一所懸命に「フリ」をして、ようやく認められた父親なのだ。何の努力もせず、ただセックスの結果として「ちちおや」になったオスどもとはわけが違うのである。
仕事でも同じだ。今、政治家でも話題になっているが世襲制で社長になったり、営業本部のエライさんになったりしたのではなく、私は一所懸命に仕事をして、店長じゃないのに店長になり、営業本部長じゃないのに営業本部長になったのである。
「6」へ
■2009/04/29 (水) 耳切り鬼の泪 6
そして、それらはすべからく「認められる」という相手への依存によって成り立つ。家庭なら子や妻に、会社なら部下や同僚に、である。要するに「立場」ではなく「資格」を問われるということだ。あくまでも本質的な問題として、現実的な問題としてだ。
私はよく、このような話を「自動車の免許」で例える。
往々にして「立場」は与えられることがある。しかし、それは「資格ありき」が前提条件である。自動車教習所において「特例」として「教習課程を終えずに免許証を差し上げる」と言われたとしよう。車も差し上げる。さあ、これで公道に出ようじゃないか。
結果は言うまでもなく事故だ。死ぬ可能性、殺す可能性すらある。
「親」という立場。「上司」という立場。
共に大いなる責任が伴うわけだ。能力や倫理観を問われることも当然なのだ。
ましてや、年端もいかぬ子供を虐待死させるなど、無免許運転の暴走行為に等しい愚行であることは言うまでもない。頭の不自由な中学生にハンドルを握らせる阿呆はいまい。
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昔、よく問われることがあった。ま、親しい友人などに限定される質問ではあるが―――
「前の男の子供を育てるというのはどんな気持ちなのか?」
そのときも私はクスッと笑う。
そして、私にそんな愚問を成す友人を、小馬鹿にした表情で見下しながらこう答えるのだ。
『惚れた女が腹を痛めて産んだ子を愛せないなら、所詮、その女を愛していないということだ。そんなセコイ男は、どんな状況であれ言い訳をして女を不幸にするだろうから、誰とも結婚せずに遊んで暮らしたほうが世のため人のためだ。だから、おまえは結婚するなww』
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久代千代太郎
たらchan.
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