教室を小さな博物館へ(1)
1はじめに
小中学校における問題の一つに、余裕教室(空き教室)の拡大をどのように対処していくかという課題がある。これは基本的に児童数の総体的な減少に起因しているものである。全国で推定8万教室、東京では1万教室を超えるというデータもある。このことは児童の人口の減少ばかりではなく、都市生活空間における人口の老齢化、空洞化を示しているものといえよう。一般にいわれる少子化傾向と余裕教室の増大という現実に対して、文部省を始め各教育委員会は、既に教室を他の目的に転用し活用する具体的に例示しており、実際各学校で様々なプログラムが実践に移されている。しかし学校運営上、施設上の空洞化を埋めるという動機から出発することも多く、転用に於ける問題点も指摘され始めている。
学校における問題は、このような量的な問題ばかりか質的な課題においてもさまざまな問題点が指摘され顕在化している。新聞紙上でも報じられているように、年間10万人に及ぶ不登校児を生み出している事はその一例である。文部省ですらこうした傾向は普通のこととし、不登校児を特別視することができない、とコメントせざるを得なくなってきている。実際その要因は様々であろうし、教育をめぐる質と社会性について議論すれば際限なく広がるに違いない。しかし少なくとも学校における教育の中身が子供たちには積極的な関心が払われなくなってきており、その教育手法も含めて魅力のあるものとなっていないことが指摘できるであろう。無論現場教師が教育制度の制約の中で、個々に不断の努力をして教育手法の改善に向けて努力していることは自明である。ここではそのような問題はいったん棚上げとして、結果的に生み出された余裕教室を転用する際に、展示空間としての1例を示しレポート課題としたい。これは与えられた展示空間の広さが面積的(59.5㎡)には4間5間の標準教室に近い面積を示していることからも課題から逸脱しないと考えるものである。
2展示空間としての学校
学校を展示空間として捉えると、小学校では教室壁や廊下壁が既に図画や書写の展示壁となっている。また社会科や生活科のグループ発表の場ともなっている。こうした事は学校が既に美術館的な要素を持っていることを示している。また文化祭などでは体育館や教室が可変され企画展などの会場となることがある。その他理科や社会の特別室は、標本や資料の陳列室という側面から捉えることもできよう。しかし管理上の問題もあり常に生徒に開放されているとは言いがたい。校庭では動物の飼育や菜園なども行われ、動物園や植物園の要素も持っている。この様に見ると学校は、現在博物館や美術館として捉えられる要素を基本的に保持していることが指摘できる。また人材としての教員は各分野にわたっていて学際性を内在させている。
3地域性を持つ学校
学校は通学区という範囲で特別の地域性を持っている。都市における学区は非常にわかりづらいものもあるが、本来学校は地域の共同性の上に作られてきた経緯がある。また現在においても都市化されていない地域では従来の共同性に立脚した学校は数多くある。さらに今日、学校の位置づけが生涯学習教育路線もあってか、地域に根ざす教育及び学校の地域への開放ということが各地で叫ばれている。学校の地域化は今日的課題であるといえよう。
4教育手法としての展示
展示における最大の効果性は直感的認知である。実際に目視して、手にとって触ったり、匂いを嗅いだり、味わったりすることによって、物の現象的な認知にいたるわけである。博物館においてはこのような展示手法について、資料としての物の認知と物の持っている情報の伝達に向けて様々な方法を開発し応用してきた。ここではこうした展示論としての教育効果という側面からではなく、子供達が実際に自ら展示計画を行う過程で得られる教育効果という問題を追求する場として展示を理解してみたい。実際の博物館で学芸員が展示計画を行っていくプロセスを子供達が作業していくプログラムを設定し、その過程で得られる効果については十分な議論が行われていないと思われる。よく言われる博物館と学校教育の連動は、博物館資料を子供達に伝達する手法開発と運営計画に力点が行われている。そのような議論とは別に、展示するという行為に子供達を積極的に関わらせ、学問行為の基本である収集・分類・思考・伝達のプロセスを体験することに本室の意義を置くものである。そのため展示資料対象は、子供たちの日常的な関心のある世界からテーマを抽出して展示が行われることになる。教師はこれらの課題をサポートし、子供たちの展示に客観性をもたせる働きをする。
5展示の運営
展示に係る以上の考えから、展示室の運営は極力生徒がこれに当たる。展示運営委員を設け企画から展示のサポートを行うものとする。費用は当初設定の内装工事及び什器類の製作のほかはすべて消耗品で対処できる範囲とする。教師による自主的な展示も可能とする。基本的に常時開館とし、当面、一般公開は行わない。展示準備室及び倉庫としてほぼ同じ面積のもう一室を用意する。
6展示空間の考え方
与えられた展示空間は8m50cm×7m高さ3m50cmの小規模な空間である。ここでは基本的に展示室を区切ることはやめ、オープンスペースとして構成する。教室を転用するには窓の処理や既存の棚などの転用など配慮すべき点はいくつかある。ここでは子供たちの自主的な展示を促し機能的にも汎用性を持たせるために、ユニット什器による展開とする。また中央に展示準備及び討論スペースとして大型のテーブルを配置する。素材は木の質感を持つものとする。色彩はパステルカラーを取り入れた安らぎのある配色とする。壁面はマジックテープで脱着可能な素材をクロス材として採用する。パネルグラフィックはすべて子供による手作りとし、書き起こすものとする。また市販の画用紙又は模造紙などをスチレンボード張りとする。
展示シナリオ
子供たちによる展示シナリオ例
1スナック菓子の評価
日頃親しんでいるスナック菓子のパッケージを集め、パッケージの形状や菓子の中身によって分類し構成する。
主な展示資料 コアラのマーチ・チョコレートのパッケージ・ポテトチップスの袋など
2缶ジュースのいろいろ展
市販されている缶ジュースの空缶を集め分類して展示する。
主な展示資料 缶ジュースの空缶など
ex.スポーツドリンク系・お茶系・ジュース系・炭酸系・コーヒー系・その他
ex.アルミ缶系・スチール缶系
ex.缶ジュースの缶に記されている情報の展開
(学習のねらい:食品のパッケージには様々な情報が記されている。そのデザインやロゴをはじめ成分や素材・バーコードなどを読み解き、比較することにより食品に対する知識と関心が深まるであろう)
3ファミコンの中身
使えなくなったファミコンの本体を分解し、すべての部品を分類して構成する。
4ビデオデッキの中身
使えなくなったビデオデッキを分解し、すべての部品を分類して構成する。
(学習のねらい:常日頃慣れ親しんでいる電気機器を改めてみ直し工業製品について学習するものとする。また独自の視点で構成することにより機能的な美しさとは何かについても関心が払われるであろう。)
5おじいちゃんやおばあちゃんのおもちゃ箱
身近なお年寄りを取材し、おじいちゃんやおばあちゃんが子供の頃やっていた遊びについてまとめ解説する。
ex.草木を使った遊び テテッポ・苗人形・ズングリ・たこ・竹馬・水ぐるま・風ぐるま・笹舟・ショーブトバシ・ミズデッポ・お面・首飾り・弓矢遊び・パチンコ・手まり・おはじき・こま・ホホヅキなど
(学習のねらい:取材と共同の作業を通して異世代のコミュニケーションをはかり、自然を見詰め直す契機とする。)
6通学路の植物展
学校及び自宅近くの植物を採集し分類展示する。
主な展示資料 タンポポ・カゼグサ・カンゾウ・セイタカアワダチョソウ・ツユクサなど
(学習のねらい:身近な環境を読み解く契機とする。)
7イメージマップと未来の都市作り
各家庭に眠っているレゴブロックや牛乳パック・スチロール材などを持ちより、グループで理想的な都市作りを目指す。
(学習のねらい:児童の空間把握と場の認知を促し、理想的な空間とは何か考えるものとする。)