拝復、メージャー様
3月9日付のお手紙ありがとう存じます。わたしを無神論者と呼ぶべきか不可知論者(agnositic)と呼ぶべきかについて、あなたとルイス氏が迷っているということは何の不思議もありません。と申しますのは、この点については、わたし自身が迷っているのであって、自分自身、ときには無神論者と言い、ときには不可知論者と言ったりしているからです。
物質的な対象の実在を疑ったり、世界は5分前に出現したのかもしれないと考えたりするレベルでの哲学的厳密さから言えば、わたしは自分を不可知論者と呼ばなければなりません。しかし、実際上から言えば、わたしは無神論者です。わたしは、オリンポス山(ギリシアの神々が住んでいたという山)の神々や、ヴァルハーラ(オディン神の殿堂-ヴァルキリーたちによって戦死者の霊がここに招かれてもてなしを受けるという北欧神話)の神々が実在するなどとはとてもありそうもないと思っているのですが、それと同じようにキリスト教の神も実在しているとは考えていません。いま一つ例をあげて申しますと、地球と火星の間に楕円形の軌道にのって回転している中国製の陶器の茶瓶がないとは誰も証明することができませんが、だからといって、そういうものがあるということが、実際に十分に計算に入れらべきだなどとは誰も考えません。わたしは、キリスト教の神も、ちょうどこれと同じように実在しそうもないと考えます。
敬具 バートランド・ラッセル
Dear Mr Major.
Thank you for your letter of March 9. I do not wonder that you and Mr. Lewis are in doubt as to whether to call me an atheist or an agnostic as I am myself in doubt upon this point and call myself sometimes the one and sometimes the other. I think that in philosophical strictness at the level where one doubts the existence of material objects and holds that the world may have existed for only five minutes, I ought to call myself an agnostic; but, for all practical purposes, I am an atheist. I do not think the existence of the Christian God any more probable that the existence of the Gods of Olympus or Valhalla. To take another illustration : nobody can prove that there is not between the Earth and Mars a china teapot revolving in an elliptic orbit, but nobody thinks this sufficiently likely to be taken into account in practice. I think the Christian God just as unlikely.
Yours sincerely
Bertrand Russell
(From: Dear Bertrand Russell; a selection of his correspondence with the general public, 1950 - 1968. Allen & Unwin, 1969.)
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