スピーチ全文とその和訳を出した。
さすがだ。
制度=システムが組織的に人を殺すことがある。
しかし我々の多くはシステム無しでは生きられない。
人は一人では生きられない(物理的にすら)
しかし、人は蜜蜂や蟻とは異なり、
「個」という概念を持ち、
個の崩壊、個としての死を恐れ、
その裏返しとして、個の尊厳を求める。
この、人間存在に内在する矛盾が、
人の世の多くの苦しみや悲惨さの
根源の一つであると思う。
つまり、人とは、一人で生きたいものであり、
そうできない自分に苛ついているものである。
そこから、まず「他者」が生まれる。
「理解」「共感」「同情」「愛」「信頼」が生まれる。
「仲間」が生まれ、「制度」や「組織」が生まれる。
そして、同化できないもの、自分の中の見たくないもの、
はみ出すものを反映するものとして「敵」が生まれ、
「暴力」「イジメ」が生まれる。
村上春樹はそうしたことの全てに極めて意識的だ。
それゆえ、どの人の側にも立たず、中立を維持しようとする。
そうすることを通じて、すべての人の側に立ち、
人としての困難の根源に立ち向かおうとする。
それはあらかじめ敗れることが決まっている闘いだが、
しかし、ある種の人々にとっては
闘わずにはいられない闘いでもある。
大江健三郎の師である
渡辺一夫のことを思い出した。
> I have only one reason to write novels,
> and that is to bring the dignity of the individual soul
> to the surface and shine a light upon it.
大江健三郎が師である渡辺一夫の教えを、
やや奇怪な形にねじまげているように感じられるのに対して、
村上春樹は渡辺一夫を継ぐものの一人であると感じられる。
夏目漱石を継ぐものであり、
渡辺一夫を継ぐものであり、
福永武彦を継ぐものである。
それが、私にとっての村上春樹の意味であり、
このスピーチは、そのことを
改めて思い出させるものだった。
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