日本のサナトリウム恋愛小説の頂点。
読んでいて切なくなる
繊細な心の動きを捉えた文章。
甘ったるくて、ムズムズするとも言えるが、
そういうのもいいと思う。
気に入ったところをいくつか抜き出す。
「私、なんだか急に生きたくなったのね・・・」
それから彼女は聞こえるか聞こえない位の
小声で言い足した。「あなたのお蔭で・・・」
私の身近にあるこの微温い、好い匂いのする存在。
その少し早い呼吸、私の手をとっているそのしなやかな手、
その微笑、それからまたときどき取り交わす平凡な会話、
(中略)
こんなささやかなものだけで私達がこれほどまで
満足していられるのは、ただ私がそれをこの女と
共にしているからなのだ、と云うことを私は確信して居られた。
私達のいくぶん死の味のする生の幸福はその時は
いっそう完全に保たれた程だった。
そのうちに私は不意になんだか、こうやってうっとり見入って
いるのが自分であるような自分でないような、変に茫漠とした、
取りとめのない、そしてそれが何んとなく苦しいような感じ
さえして来た。
或いはひょっとしたら、それも矢っ張お前のためにしているのだが、
それがそのままでもって自分一人のためにしているように自分に
思われる程、おれはおれには勿体ないほどのお前の愛に慣れ切って
しまっているのだろうか?それ程、お前はおれには
何にも求めずに、おれを愛していて呉れたのだろうか?・・・・
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