5月の半ば、憧れの湯布院に降り立った。
二泊三日の予定は、恙なく終了。
何もしない、何も考えない、、を目的にした旅。
そして三日目、
天候に恵まれた二日間が、ウソのような暴風雨に。
博多行きの<ゆふいんの森号>までは、二時間チョットの待ち時間。
駅前をあてもなくウロウロしていた時だった。
人力車えびすやの青年に声をかけられた。
「そっちはお土産屋さん通りで
本来の湯布院はこちらの道ですよ🎵
電線一本もなく
大きな田んぼ地帯は 保護地区で
映画でよく使われる場所ですよ
その地域が湯布院の温泉の水源なんです」
押しつけがましくなく、なぜかソソラレル言葉に、
博多行きの電車に間に合う最短30分コースで、青年の人力車に乗ることに。
その短い時間で、
湯布院の脈々と続く<細腕繁盛記>を知ることになるとは、思いもしなかった。
◇湯布院の細腕繫盛記!◇
湯布院は、今やアジアの超人気温泉スポット。
博多~湯布院のJR九州の車内は、ほぼ韓国語と中国語。
しかも、
少人数の女性グループか、一家総出という、何気にコンパクトな旅。
まさか
このコンパクトな人数が、<湯布院のおもてなし>と関係あるとは結びつかなかった。
そして
人力車の青年の話は、何気に見ていた風景を全部裏付けるモノだった。
湯布院の最初の危機は、全国の温泉地と同じ事態に直面していた。
あの金満バブル絶頂期、湯布院の広大な田んぼにレジャーランド化を持ちかけられる。
田んぼ一反(300坪)が一億円・・・という、誰もがよろめくゴージャスな商談。
当然ながら、売る農家もいた。
が、
レジャーランド化は実現することはなかった。
この広大な田んぼこそ、湯布院温泉の水源で命綱。
田んぼの地中から浸み込み、50年費やし温泉として湧き出てくる。
この田んぼは、建物も電線も立つことがない保護地域。
湯布院の湯量は日本二位。
豊かな湯量は、一年の雨量が多いことに関係する。
で、
雨の日も多いが、意外なのは雪が積もること。
多くの山々に囲まれた湯布院は、
5月中旬なのに、厚手のパーカーは手放せないほど涼しい。
連なる山々が齎す寒暖差は、九州は暖かいというイメージを覆すほど。
この豊かな自然と湯量を守るため立ち上がった人たちの想いが通じ、
最終的に地元農家と温泉宿はレジャーランド化に動じなかった。
そして
バブル崩壊後も環境保護と条例で、景観と温泉を守り高い建物を造らないことに。
それは、
宿に宿泊できる人数が限られてくるが、ココに湯布院の底力があった。
保護した田んぼや農地の米と野菜は、全て湯布院の宿で食材として消費する。
<地産地消>という理想の形を創り上げた。
湯布院はコレで、バブル崩壊後の観光地崩壊を免れた。
長い不況が団体客を遠のかせ、有名な温泉地はゴーストタウンと化した。
一方、
湯布院は、華美な歓楽街なエロエロ系もないため、
女性グループや家族連れにはもってこいの温泉地として人気が出始めた。
町づくりの整備は、樹木の流れに逆らわず造られ、
細くうねった道に建物が添うように立っている。
人力車の先にどんな道があるかは、曲がってみないと分からない。
古の人々が通った道の風情が感じられる。
湯布院の底力は、未来を見据えた人智だった。
バブル崩壊後30年近く経って、こんなにも明暗を分けた。
小さなタンクがあちこちに見かけられた。
一月5000円で、美肌温泉を自宅に引いている。
◇江戸時代の隠れキリシタン 遠藤周作「沈黙」◇
湯布院へ行く初日。
<特急ゆふ号>というレトロ感満載の電車で、博多から二時間。
湯布院に近づくと、山の急斜面に墓地が。
仏教のお墓の間に、白いクロスがくっくり刻まれた多くのお墓が見えた。
とても不思議な光景は、こんな山の中にクリスチャンが多いことを示していた。
そしてその不思議さが薄れた頃に、
人力車は<隠れキリシタン>が駆け込んだ興禅院に案内してくれた。
1614年徳川幕府の切支丹禁令で、踏み絵が行われ、
キリスト教から改宗しない者たちは、
拷問・火あぶり・簀巻きのまま海へ・逆さ吊りなどの非業の死が待っていた。
隠れキリシタンたちは気の遠くなるような獣道を歩き、
山々に囲まれた湯布院へ逃れてきた。
灯篭の猫脚が、キリストが祭られている目印になっていた。
案内された時、山肌の墓地を思い出した。
そして、
二泊した宿の部屋には、一枚の紙が置かれていた。
そこには
「ここに来て感じた、貴方の幸せを書いてください」と書かれてあった。
こんな宿は、初めてだった。
その文言に、宿の当主と隠れキリシタンが妄想として浮かんだのだった。
遠藤周作「沈黙」は、正に<隠れキリシタン>の苦悩に充ちた小説。
原作を基に、
2017年、マーティン・スコセッシ監督の映画「沈黙ーサイレンス」が公開。
生々しく、何が本当で、ナニが正しいのか分からなくなる程、、
観る側に突き付けてくるものがあった。
湯布院の底力に、貴方の感じた幸せはなんですか。。。があるような気がした。
湯布院最後の30分間は、とても価値のある時間だった。
私が見た風景の点と点が、人力車の青年の語りで線として繋がった。
今度は、是非90分に乗車してみたいと思う。
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