6つの短編集。それぞれ関係のない話だけれど、各話タイトル通りのテーマが貫かれている。

読み終わって、これは「喪失感」を色んな形で描いているのだなあと私は思った。
「女のいない男たち」とは、まったく女に縁がない人たちのことではなくて、濃密に愛し、または非常に印象的な形で女性と関わった男たちのことだ。こんな文章があった。
――女のいない男たちになるのはとても簡単なことだ。1人の女性を深く愛し、それから彼女がどこかに去ってしまえばいいのだ。
――そしてひとたび女のいない男たちになってしまえば、その孤独の色はあなたの身体に深く染み込んでいく。
* * *
亡き妻の不倫相手に、そ知らぬふりで近づき親しくするベテラン俳優の話「ドライブ・マイ・カー」は、運転手として雇った不愛想な若い女性にその打ち明け話をするところがいい。お互い過去を淡々と語り、この関係が特別なことではなく、ほんの小さな人生のひとこまだと分かっている態度なのが絶妙だ。
ほかに、好きだったのは「独立器官」と「シェエラザード」かな。ちょっとホラーっぽく結末をはっきり書いていない「木野」もよかった。妻を失った瞬間をちゃんと自分の中で受け止めて消化せず、表面上大人として淡々と処理してしまった精神のひずみが最後にとぐろを巻く。
浪人生の変な友だちとその恋人に翻弄される「イエスタデイ」は、文章が面白かった。ユーモア寄りの村上春樹なんだろうな。
昔は村上春樹があんまり分からなかったけど、短篇だからか、けっこう読みやすかった。どこか俯瞰した視点で冷静に描いている文章が印象的なのだけど、切々と想いを語っているようでもあった。