彼女の時間が遡っていく恋愛小説と聞いて、山田太一「飛ぶ夢をしばらく見ない」を思い出し、読みたくなって友人に借りました。「飛ぶ夢~」は、たぶん20代に読んでかなり衝撃だったので今だに手元にあります。
美大に通う20歳の「ぼく」は、電車の中で美少女にひとめぼれし、柄にもなく声を掛けた。意外にもすんなり付き合うようになったものの、彼女はある秘密を抱えており、幸せな日々は長く続かなかった…。
最初から設定を聞いていたので、そのファンタジー要素をどれだけ説得力を持たせて展開するのか確かめたい思いがありました。しかし最初からアラを探すような読み方をしてはつまらないだろうと、なるべく心を純粋に素直に読むようにも心掛け。
で、ピュアな心で読みますと
初めて恋する青年の視点が初々しく、切なさが胸に迫り良かったです。
特に、なにをしていても彼女の事を考えて、彼女と共有したい思いが湧き出してくる、初めて「人を好きになるってこういうことなんだ」と気付く描写が瑞々しく、かつ、懐かしく。
恋するって、自分以外の他人のことを初めて深く考えるってことなんだよな、と思い出しました。急に新鮮な水が自分の中に流れ込んでくるような、あの気持ち。おー恥ずかしい。
しかし大人の汚れた心がどーしても考えるこーゆーこと
ただ、頭が悪いせいか最後まで設定についてはピンとこなかったです。彼と彼女の時間が逆向きに進んでおり、20歳のほんのわずかな時間だけ同じ歳で会っていられるという話なのですが。
理屈は分かったつもりでも、昨日会った彼女は結局なんだったんだ?みたいなモヤモヤを残したまま読んでしまった。これが感覚的に消化できていると、また切なさがひとしおだとは思います。
それと、彼女の造形が、髪が長くて和風の清楚な美人で、怒る時こぶしをぶんぶんふるとか言葉づかいの端々が、男が書く女子だな~と思わせるところがありました。ちゃんと個性的な部分も描いていたので、それほど嫌味には感じませんでしたが。
どんな設定にせよ、恋愛小説において愛し合う二人が、「人生を共にするほどは一緒にいられない」という縛りがあるからこそ、切なさが増すんだよなと思います。
ここで感じたのは、記憶が同時進行でないことが、「初めて」を補う切なさはあるけれど、逆に言うと恋愛の鮮度、盛り上がりをいつまでも(少なくとも会っている間は)維持できる機能を果たしているなと。それだけに、前半の「ぼく」の、彼女に対する初々しい想いがしみじみと美味しかったです。
こんなに愛し合っているのに、一緒に居られない、切ない!とは言え、20年30年一緒にいたら幸せかってわかりませんよ~。って考える時点でもう自分おばさんだなーと。いやオバサンなんだけど。
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