「華岡青洲の妻」有吉佐和子(新潮文庫/Kindle)
2024年の暮れも押し迫った頃に一気読み。
有吉佐和子は過去に『青い壺』『悪女について』を読んで面白かった。これはいわゆる内助の功の話かと思っていたが、100分de名著で嫁姑の相剋を描いていると初めて知った。
あらすじを全部知っていても面白く、流れるような力強い文章でぐいぐい読ませる。久しぶりに深夜まで読んでしまい寝不足になった。
あらすじ
世界で初めて全身麻酔による外科手術に成功した華岡青洲。妻の加恵と母親の於継は、人体実験の被験者となる。
名家の娘である加恵は美人で有名な於継に請われ、京都に遊学中の長男、雲平(青洲)の嫁として華岡家へ迎えられる。三年のあいだ、憧れの於継に大切にされ「本当の親子のよう」と幸せに暮すが、雲平が帰宅してから於継の態度は一変。表面上は何事もなく接しているかのような二人は、途方もない神経戦とプライドの張り合いを水面下で展開する。
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妻である加恵の思いは医療への貢献よりも夫の仕事の成功のため犠牲になること。もちろん表向きはそうなのだけど、結局は姑と嫁の壮絶バトル、一人の男に対する献身合戦なのだから恐ろしい。また加恵は於継を慕い切っていただけに裏切られた気持ちで憎しみを募らせただろう。
一方で、実験後の嫁との差に悔し涙を流す於継の言葉を、弟子たちが美談のように勝手に「嬉し泣き」と勘違いする様は滑稽で皮肉なものだった。
残念だったのは、於継が急に手のひらを返したように冷たくなった真意が、小説で書かれているのかと思ったけれど結局よく分からなかった(はっきりした敵意で張り合っていることはわかった)点だ。結局、長男を一番に扱い嫁に厳しくするのは、理屈抜きに当たり前ということなのだろうけど。私は同居したことがなく義母に対して悪い感情を持ったことがないが、同居していたらまた違う葛藤や摩擦があったと思う。
終盤はついに未婚で終わった小姑、小陸の「私は嫁に行かなんだことを何よりの幸福やったと思うて死んで行くんやしてよし」がまた痛烈な皮肉として刺さる。これも女同士のマウント合戦と言えなくもない。まことに苛烈な物語で読み応えがあった。