■視点が変わること、「映画のカメラワークのよう」など
視点がどんどん変わるので、やっぱり最初は読みづらいんだけど、そういう風に書いていると分かると面白く読めたという声が多かったです。「視点が変わるので読みにくいが、人の思いが錯綜することで何かを表現したかった作品なのかなと」など。
群像劇で「一人称多視点のものが好きなのですごく面白かった」という意見も2人くらいから出て、私もそうなので嬉しかったです。訳者の土屋先生がうまかった、相性がよかった、解説も読み応えがあったという方も。
それと、「視点が自由で、映画のカメラワークのような描き方」という指摘もあり、確かに~と思いました。「車の事故が起きたのはなんだったのか」という問いがありましたが、その事故自体が話にどう関わるかではなく、あるきっかけを起点にしてそれを目撃した、居合わせた人たちの意識を放射状に広げるように描いているというご指摘も興味深かった。
同じものを見ても人それぞれに感じ方は違って、「単なる花屋の店員」に至るまで、丁寧に意識を拾っている。車の事故では始めて精神が病んでいるセプティマスが出てくることもあり、映画の場面転換みたいなという指摘にも納得です。
■おもしろおじさんピーター(53歳)について
クラリッサが、何度も「ピーターと結婚しなくてよかった」と考えているように、やはり結婚しなくて良かったと誰もが感じる人物であり、「昔の恋人としては完璧」とおっしゃる方がいて、なるほど小説のキャラとしてよく出来ているんだなと思いました。
最後の場面で、描かれていないけれど実は「クラリッサをピーターが刺したのでは(ピーターが携帯ナイフをいじるくせがあるため)」という解釈に触れた方もいました。一方で、「ピーターは小物で、そういうことは出来ない」という指摘もありました。私もピーターは殺人のような切実な行動に出るキャラじゃないのではと思いましたが、そういう捉え方もできるのかあとビックリしました。私自身はピーターの面白さを色々とあげつらいました。
■痛ましいセプティマス
この小説内で痛ましさを一手に引き受けてしまったのが、第一次世界大戦の帰還兵であるセプティマスという30歳の男性でした。その妻でイタリア人の若い妻(24歳)のルクレーツィアも夫をなんとかしたいと心を砕く、かなり可哀想な人でしたが。
セプティマスは戦友であるエバンズと同性愛的な関係にあったのでは、という指摘があり、私も同感でした。その関係に抑圧を感じながらエバンズを失ったと考えると、今で言うPTSD、心的外傷は、戦場にいたことで受けた心の傷という以上に複雑で深い精神的ダメージを受けていたことがわかります。皆さんの意見を聞いていて、人物造形の奥行きが深い作品であることを改めて感じました。
■ウルフの俯瞰した視点
娘のエリザベスの家庭教師ミス・キルマンとクラリッサはお互い嫌い合っている(のが面白い)という話題の中で、ミス・キルマンとエリザベスがカフェでお茶するけれど、最終的にはエリザベスがちょっと引いてしまい去っていく場面は可哀想だったという話になりました。そういう人間関係が移ろう描写が非常にリアルですねと。
また単なる母親と家庭教師の対立構造というだけでなく、親と子の距離感、「わかりあえなさ」がちゃんと描かれていて、ウルフの、人に対する俯瞰した見方があるという指摘にも納得です。
■いろいろな資料を持ち寄ってくれるのが楽しい
オンライン読書会はいろんな資料が提示されるのも面白くて、今回は作中で何度も鳴り響く「ビッグベン」の音をネットで探して聞かせてくれる方がいました。ビック・ベンの鐘は15分ごとに鳴るのだそうで、時刻によって鐘の鳴り方が違うとか始めて知りました。で、「大戦中は止めていた鐘なので、日常に回帰していく時期として描いていたのかなと」という考察になるほど!と。
それと、『源氏物語』をウルフが絶賛していたらしいというのが分かる文→この美しい世界 レディ・ムラサキの完璧さ /ヴァージニア・ウルフ(『源氏物語 A・ウェイリー版第4巻』収録)
が紹介されたり。『ダロウェイ夫人』は『源氏物語』の原文に似ている文体だそうです。ただ、アーサー・ウェイリーが源氏物語のすべてを訳し終えるまで、ウルフは生きていなかったので、最終章「浮舟」の終わりを「もしウルフが読んだらどう感じたのか知りたかった」という話もありました。
私は、キンドルアンリミテッドから、別バージョンの『ダロウェイ夫人』(大澤実 訳、三笠書房)の冒頭部分を少し読んでご紹介しました。土屋先生の訳は「お花はわたしが買ってきましょうね、とクラリッサは言った。」と始まるのですが、大澤先生は「ダロウェイ夫人は、お花を買って来よう、と言った。」となっており、作品の解釈や読みやすさを重視するかなどが訳者によって変わるんですねという話に。私は個人的に、最初に読んだほうがいいと思いがちとも言えますが、やはり土屋訳のほうがドラマが始まる感じが出ていていいなと感じましたね。
■とても良い読書(体験)だった
ウルフは初めて読むという人がほとんどでしたが、「映像が頭に豊かに広がる。世界がいいもののように読めた。とてもいい読書ができて良かった」という声もあり、私もそんな感じでした。「初夏のある1日を描いたものではあるが、昔のことを思い出すことでその人の変化や成長が分かる。非常に視野が広い作品」という声にも納得。ウルフのほかの本も読んでみたくなりました。
次回は長嶋有の『もう生まれたくない』です。年末だけど、関係なく楽しく読めるといいですね。
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