村上春樹の『騎士団長殺し 第2部〜遷ろうメタファー編 下』(新潮文庫)。Audibleにて、朗読は高橋一生。
結局、図書館にうっかり返却してしまった文庫が借り直せないままでした。が、オーディオブックでやっと先週くらいに聴き終わりました。
メタファー(暗喩)とかイデア(観念)が実体を持つという、わけの分からん小説でした。
だけど妙に面白かったです。
語り口自体は静かなのに、どこに向かっていくのか?謎の人物の思惑どおりに行くのか?などなど引き込まれる要素が盛りだくさんでした。
あらすじ> 語り手である肖像画家の「私」は、妻に突然離婚を言い渡され、友人の父で高名な日本画家・雨田具彦の山荘で一人暮らしをすることに。屋根裏に隠されていた「騎士団長殺し」という見事な絵画を発見すると、やがて近くの山林から深夜に鈴の音が響くようになる。
「肖像画を描いてほしい」と依頼してきた免色(めんしき)という白髪の富豪(『長い別れ』のテリー・レノックスを思い出す50代位のイケメン)が、鈴の音が聞こえてきた穴を重機で暴くと、肖像画家のもとには騎士団長の姿を借りた「イデア」が姿を現し……。
人の思いの強さや心残りみたいなものが、具現化して現実の人間に作用してくる様を描き出した物語、なのかなあと感じました。
雨田具彦は、ウィーン留学中の若き日に巻き込まれた事件や中国から帰還した弟の最期について。
「私」は、12歳で亡くなった妹や、最愛の妻に対して。
そして免色は自分の娘かもしれない中学生の少女まりえに、引いてはかつての美しい恋人に対して。
それぞれの強い思いが交錯し、カオス状態になっているんだけどごちゃごちゃして分かりにくいということはなくそれぞれに物語を動かす手札のような機能を果たしていたような。
ちょっと性描写や胸に対するこだわりなどが煩いのでそこだけ残念な気はしましたが、ファンタジーのようでそうでもない巧みな展開に引き込まれました。
あ、それと、高橋一生の語りは最初から最後まで素晴らしかったです。
これだけでまた別ジャンルの芸術!という感じがしましました。
高橋一生が「きしだんちょうごろし」と囁くだけで、なんか鳥肌が立つような感覚がいたします。