桐野夏生著『燕は戻ってこない』(集英社)オンライン読書会の備忘録のさいごです。だいぶ端折って口調も変えてますが、間違っていたら教えて下さい。
桐野夏生が解析度が高くて面白いっていう話ですが、それはくらさんのお話にも言えることではないかしら、と思ったりしました。
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●くらさん
■ “金がない”ことのしんどさ
確かに共感はできないけれど、 この人たちが何を考えて行動しているかわかるように書いてある。全部その作者の声として聞こえてしまうという感想もあったが、私はあまりそうは思わなくて。というのも、このくらいの生活水準や行動をする人たちでも、みんな結構ちゃんと考えて言語化している。
リキの流されやすさ、意志の弱さみたいなものはお金と直結していて、それが切実にわかって本当に辛い。お金がないっていうのは、お金のこと以外は考えられなくなるということ。
金がなければ子宮でも売りますよというミもフタもない世界のことをよく書いていて唸ってしまった。本当にちょっと行き詰まったら私もこういう感じになるかもしれない。
リキが地方出身であることが大きくて、同じ経済状態でも都内で実家暮らしとは全然違う。一旦家族から切り離されてバックアップがなくなると、すぐにこういう状態になってしまうというきつさがあった。いざとなったら実家に帰るという選択肢もない。
そういうきつさは、おそらく基夫婦にはわからない。「自分で選んだんだから大丈夫でしょ」というスタンスだが、そうではなく自分の意思だけで決まることではない。そのあたりが意識して書かれている。
「自分の意思なんでしょ」という言葉の残酷さは、そういうことを言われなくて済む人だけが言えること。そういう側面が強く表れていた。
■遺伝子を過剰に信じる感じってなんなのか
こういうアスリート系の人たちはわりとこういう感じ。「自分のように努力すればちゃんと成果が出るはず」というのが織り込まれている。
実子であっても同じように才能を発揮できるとは限らないという可能性を排している視野の狭さが(草桶親子には)ある。特殊な世界の見方だが、自分たちでは特殊だと思っていないという面が出ていた。
■子どもが生まれるということは人間を狂わすもの
作中人物の中でぶれていないのは、話をまぜっ返すりりこ。彼女は子どもは持たないし出産しないと決めているのでぶれがない。私としては彼女の言っていることが一番よくわかる。
この話は「他人の子宮を借りてまで子どもが欲しいか」という話ではあるが、子どもが生まれるということが人間を狂わすもの、問答無用の磁場みたいなエネルギーを発していて、それにみんなが巻き込まれてしまう。そもそも子どもが生まれるって事自体が異常なことと感じられる。
なので、そこから距離を取っているりりこが一番理性的なんじゃないか。だから子どもが生まれるってことは奇妙なことだなあという、ミもフタもない感想になってしまうけれど。
ただ作者はすごく理性的に書いていて、その距離感の面白さはある。桐野夏生は混沌とした変な状況をすごく冷静な距離感で書くので、解析度が高くて面白いなとあらためて思いました。
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ありがとうございました~。
確かに“子ども誕生”から生じる諸々の幻想に、みんなが踊らされる様が描かれていたような気がしてきました。
このほか、ドラマについてや「宙に投げっぱなしにするしかないラスト」についてなど、色々話がでましたがこの辺で。
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あと話題がでた本のメモ
『弱者男性1500万人時代』 (扶桑社新書)
次回の読書会の課題本はもうすぐ文庫がでます『百年の孤独』ガブリエル ガルシア=マルケス 著(新潮社)
今回の読書会については以上になります~。
あーたのしかった。
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そうそう、ビブリオバトル(Zoom)の告知もありました。
上半期に出版された翻訳ミステリの紹介だそうです。有料(1000円)ですが、さぞかし面白かろうと思いますので私はチケット購入済みです。
イベント名:読者賞を救え! 読書会有志対抗おススメ本バトル 2024夏
日時:6月22日(土)21:00~22:30 ※アーカイブ配信あり。チケット購入していれば観覧可能。もう、明日でしたね^^;
申込みはこちら→ https://peatix.com/event/3963430