「なんてこと・・・。」
善悪、常識、道徳、倫理、
そんな得体の知れない無形の圧力に心が押しつぶされそうだった。
いや、そのまま押しつぶされて、粉々になってしまっても良いと思えた。
「空さんと同じように、海の心の中にも理性では抑えることのできないくらいの嵐が、
今も渦巻いていると思う。でも、必死に、兄と妹という愛情に変えようとしていると思う。」
「そんな・・・彼女が、海・・・」
支離滅裂な単語だけが口をつく。
諦めるなんて。
忘れるなんて。
とてもできそうにない。
でも、事実を知ってしまった以上、それに気づかないふりなどできない。
身動きが、とれない。
「海は、すべてを受け入れて、自分を取り戻すといって、ここを発ちました。
空さんにも、お父さんとお母さんにも、心配しないでと伝言を預かりました。
だから、今は、海を信じて、待ってあげてほしいの。
多分、これ以上の不幸にはならないと思うから。
ううん。こういう時だから、曖昧な言い方はやめるね。
彼女が、死を選ぶことはないと思うから。」
「見えるのね?」
伯母は、娘に対する全幅の信頼とともに聞いた。
「うん。それだけは、最初から感じていたから。それと・・・」
まるで自分にも言い聞かせるように客観の世界で話している内に、
泉の心をいつしか激しい主観が侵食してきていた。
「これだけはいわせてほしいの。」
「いいわよ。なんでも、話してちょうだい。」
伯母は、大きな透明なバリアで包むように優しく応えると、
それに小さく頷き、凛々しく話し始めた。
「私には、愛情の形にタブーがあるかどうかなんて、わからない。
それを決めるのは、きっと、本人同士だと思う。
こんなことを、お父さんやお母さんの前でいうのが不謹慎なのはわかっています。
でも、海と空さんには、何の責任もないはずよ。
だって、お互いに何も知らないで、普通に出会っただけなのだから。
私も、すごく動揺はしている。
けれど、ふたりの出す結論がどんな結論だとしても、それを受け入れたいと思ってる。
それができないのなら、こんな仕打ちを用意するこの世に、神様なんているはずがない。
いいえ、神様がいるとしたら、私は、神を恨みます。」
そう言うと、怒りや悲しみ、非情、無常といったあらゆる意味でマイナスの涙がこぼれた。
母親は、しっかりと伝えきった娘を精一杯に抱きしめた。
そして、黙して聞いた父親を見た。
「空君。
海は、今日、目の前で起きた出来事を受け入れようと、ひとりになって、
必死で自分自身と闘おうとしていると思う。だから、」
伯母の目線に頷くと、伯父は僕に正対して、そう語り始めた。
善悪、常識、道徳、倫理、
そんな得体の知れない無形の圧力に心が押しつぶされそうだった。
いや、そのまま押しつぶされて、粉々になってしまっても良いと思えた。
「空さんと同じように、海の心の中にも理性では抑えることのできないくらいの嵐が、
今も渦巻いていると思う。でも、必死に、兄と妹という愛情に変えようとしていると思う。」
「そんな・・・彼女が、海・・・」
支離滅裂な単語だけが口をつく。
諦めるなんて。
忘れるなんて。
とてもできそうにない。
でも、事実を知ってしまった以上、それに気づかないふりなどできない。
身動きが、とれない。
「海は、すべてを受け入れて、自分を取り戻すといって、ここを発ちました。
空さんにも、お父さんとお母さんにも、心配しないでと伝言を預かりました。
だから、今は、海を信じて、待ってあげてほしいの。
多分、これ以上の不幸にはならないと思うから。
ううん。こういう時だから、曖昧な言い方はやめるね。
彼女が、死を選ぶことはないと思うから。」
「見えるのね?」
伯母は、娘に対する全幅の信頼とともに聞いた。
「うん。それだけは、最初から感じていたから。それと・・・」
まるで自分にも言い聞かせるように客観の世界で話している内に、
泉の心をいつしか激しい主観が侵食してきていた。
「これだけはいわせてほしいの。」
「いいわよ。なんでも、話してちょうだい。」
伯母は、大きな透明なバリアで包むように優しく応えると、
それに小さく頷き、凛々しく話し始めた。
「私には、愛情の形にタブーがあるかどうかなんて、わからない。
それを決めるのは、きっと、本人同士だと思う。
こんなことを、お父さんやお母さんの前でいうのが不謹慎なのはわかっています。
でも、海と空さんには、何の責任もないはずよ。
だって、お互いに何も知らないで、普通に出会っただけなのだから。
私も、すごく動揺はしている。
けれど、ふたりの出す結論がどんな結論だとしても、それを受け入れたいと思ってる。
それができないのなら、こんな仕打ちを用意するこの世に、神様なんているはずがない。
いいえ、神様がいるとしたら、私は、神を恨みます。」
そう言うと、怒りや悲しみ、非情、無常といったあらゆる意味でマイナスの涙がこぼれた。
母親は、しっかりと伝えきった娘を精一杯に抱きしめた。
そして、黙して聞いた父親を見た。
「空君。
海は、今日、目の前で起きた出来事を受け入れようと、ひとりになって、
必死で自分自身と闘おうとしていると思う。だから、」
伯母の目線に頷くと、伯父は僕に正対して、そう語り始めた。