はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 67

2012-07-04 04:36:39 | 【Gravity Blue】
「なんてこと・・・。」

善悪、常識、道徳、倫理、
そんな得体の知れない無形の圧力に心が押しつぶされそうだった。
いや、そのまま押しつぶされて、粉々になってしまっても良いと思えた。

「空さんと同じように、海の心の中にも理性では抑えることのできないくらいの嵐が、
今も渦巻いていると思う。でも、必死に、兄と妹という愛情に変えようとしていると思う。」
「そんな・・・彼女が、海・・・」
支離滅裂な単語だけが口をつく。

諦めるなんて。
忘れるなんて。
とてもできそうにない。

でも、事実を知ってしまった以上、それに気づかないふりなどできない。
身動きが、とれない。

「海は、すべてを受け入れて、自分を取り戻すといって、ここを発ちました。
空さんにも、お父さんとお母さんにも、心配しないでと伝言を預かりました。
だから、今は、海を信じて、待ってあげてほしいの。
多分、これ以上の不幸にはならないと思うから。
ううん。こういう時だから、曖昧な言い方はやめるね。
彼女が、死を選ぶことはないと思うから。」
「見えるのね?」
伯母は、娘に対する全幅の信頼とともに聞いた。
「うん。それだけは、最初から感じていたから。それと・・・」
まるで自分にも言い聞かせるように客観の世界で話している内に、
泉の心をいつしか激しい主観が侵食してきていた。

「これだけはいわせてほしいの。」
「いいわよ。なんでも、話してちょうだい。」
伯母は、大きな透明なバリアで包むように優しく応えると、
それに小さく頷き、凛々しく話し始めた。

「私には、愛情の形にタブーがあるかどうかなんて、わからない。
それを決めるのは、きっと、本人同士だと思う。
こんなことを、お父さんやお母さんの前でいうのが不謹慎なのはわかっています。
でも、海と空さんには、何の責任もないはずよ。
だって、お互いに何も知らないで、普通に出会っただけなのだから。
私も、すごく動揺はしている。
けれど、ふたりの出す結論がどんな結論だとしても、それを受け入れたいと思ってる。
それができないのなら、こんな仕打ちを用意するこの世に、神様なんているはずがない。
いいえ、神様がいるとしたら、私は、神を恨みます。」
そう言うと、怒りや悲しみ、非情、無常といったあらゆる意味でマイナスの涙がこぼれた。
母親は、しっかりと伝えきった娘を精一杯に抱きしめた。
そして、黙して聞いた父親を見た。

「空君。
海は、今日、目の前で起きた出来事を受け入れようと、ひとりになって、
必死で自分自身と闘おうとしていると思う。だから、」
伯母の目線に頷くと、伯父は僕に正対して、そう語り始めた。