はな to つき

花鳥風月

世界旅行の世界(28)

2019-08-26 23:22:10 | 【世界旅行の世界】
   ★

 水平線の上にパープルのグラデーションがかかっています。
 真っ青だった海は、眠りの色に変わっていきます。
 キャンドルの灯りに包まれたデッキテラスで、女の子と先生は予定通りの夕食です。
 紫にほんの少しのオレンジが混ざり合った世界に、真っ白の街が溶けていきます。

「先生は、きっと設計士になるよ?」
「設計士?」
「そう、お家を設計するようになると思う。先生、そういうことするの好き?」
「う・・・ん、どうだろう。一度も考えたことがなかった」
「そうなの?図面を書いたりしたことは?」
「ううん、一度もないよ」
「そうなんだ?」
「どうして、設計士だって思ったの?」
「あのね、昨夜、また先生が夢に出て来たの」
「前に教えてくれた、声が大人になっていたわたし?」
「そう。将来の先生」
「そのわたしが、設計士になっていたってこと?」
「設計士になっているという明確な設定ではなかったのだけれど、方眼ノートに、定規を使ってお家の見取り図を書いていたの」
「なるほど。それで、どんな感じの家だったの?」
「海に面した一軒家で、平屋建てだった」
「・・・」
「コの字型をしていて、その真ん中に大きな芝生のお庭があるの。そして、その先は白い柵になっていて、海を見下ろしている感じだった。ちょうど今、こうして見下ろしているみたいに」
「・・・」
「せんせい?」
「・・・」
「先生?」
「え、あ、ごめん」
「どうしたの?大丈夫?」
「あ、いや、なんでもない。大丈夫。それで、そのノートをるみちゃんに見せている夢なのかな?」
「ううん、そこには、また前に出て来た女の人がいて、そのひとにノートを見せながら、ふたりで相談している感じだった」
「そうか。またそのひとと話していたんだ?」
「そう。ふたりとも、とても優しい話し方で、今の先生と私みたいな感じにも思えた」
「そう」
「うん」
「それで、今回はその女の人の顔は見られたの?」
「ううん、今回も見られたのは先生だけ」
「そっか」
「でも、場所は前ときっと同じで、先生のお家だと思うの。ふたりはリビングのソファに座っていて、そこは前回の夢と同じオレンジの灯りに包まれた空間だったの」
「なるほど、それで家だと思ったのか」
「そう」
「そのとき、るみちゃんは、どこにいたの?」
「先生の左隣に座っているの。だから、先生の横顔が見えるの」
「そうか、今度は横にいたんだ」
「うん。それで、その女の人は先生の右側に座っているの。そのひとの膝の上にノートが置かれていて、時々、そのひとは先生に振り返るの。でも、ちょうどそれが先生の頭と重なってしまうから、ぎりぎり、私はショートヘアの女の人ということしかわからないの」
「そうか、それは残念だったね」
「うん、残念。でも、ふたりは本当に穏やかで、とっても仲が良いの。それは、ふたりの声や空気を感じているだけで無条件に分かるくらい」
「そう」
「でも、この夢はなんなんだろう」
「・・・」
「すごく、現実の空間で、現実の時間に思えるこの夢は、本当に予知夢なのかなあ」
「・・・」
「ね、先生」
「ああ。そうだね、なんなんだろうね」
「あっ」
「ん?なに?」
「今、先生の言った、『ああ』って言い方、そっくりだった」
「そう?」
「うん。すごく落ち着いた声の感じ。先生の『ああ』は、もう完成されているんだ」
「完成?」
「そう、大学生のときに、完成されている言い方」
「完成された言い方、か。でも、なんかちょっとずつ謎が解明されていくみたいな夢で面白いかもね。それこそ、いつか完成される夢なのかもしれないよ?」
「そうね。いつか、完成される夢かもしれないね」
「そうだね」
「じゃあ、また見られるかなあ?」
「ああ、きっと、また見られるよ」
「うん、楽しみ。大人の先生を見るのも、いつか女の人が見られることも、楽しみ」

 夢の正体は、いつ女の子と先生に解明されるのでしょう。
 夢が完成されたとき、何かが変わるのでしょうか。
 ふたりそれぞれの楽しみを残して、イアの帳は落ちていきます。

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