2022年9月3日のまにら新聞から
9月3日のまにら新聞から
CREATE法の衝撃(中) 徐々にVAT免除範囲狭める 恣意的な税務調査にも懸念
VAT廃止が他の登録企業にも広がるのではないかと危機感。税務調査にも不信募る
昨年4月に発効した「企業復興税優遇法(CREATE)」に盛り込まれた投資誘致機関に登録する企業の付加価値税(VAT)インセンティブ改正条項が比進出日系企業に大きな影響を及ぼし始めた。
内国歳入庁は昨年6月11日に公表したBIR規則第9―2021号で「VAT還付2要件が満たされた」と唐突に発表し、比経済区庁(PEZA)登録企業の国内調達に関するVATゼロレートの廃止に踏み切った。
しかし、大手輸出企業や各国商工会議所、比財界団体から反対の声が一斉に上がり、同庁は7月28日に同規則の適用を延期するとした新規則の発令に追い込まれた。
だがBIRはその後も規則改定を繰り返し、昨年12月7日に修正VAT歳入規則を、また今年3月9日には「VATに関するQ&A」(質疑応答形式の解説書)をそれぞれ発令。4月20日にはこの「Q&A」をさらに修正する規則を発表するなど、徐々にVATゼロレートの適用範囲を狭めていく。
しかし、会計会社の専門家でも理解に苦しむ内容となっているほか、すでに物流・商社系PEZA企業に対する国内調達のVATゼロレートが今年6月ごろに消滅。VAT免税撤廃の動きは一部のPEZA登録企業だけでなく、さらに広い範囲の登録企業へも広がる可能性があり、比進出日系企業の間で警戒感が強まっている。
▽来年からVATゼロ証明もなしに
2004年にPEZA登録しラグナテクノパークなどで倉庫とロジスティックス業に従事する日系企業のB社でもVAT免税撤廃の影響を受け始めた。
同社の吉岡聡社長(仮名、30代)は「すでにオフィス用品の購入や倉庫の家賃にVATが課税されるようになった」と話す。ただ、まだPEZAから今年発行されたVATゼロレートの適用資格証明を持っているため、VAT免税撤廃の影響はまだそれほど深刻ではないという。
しかし、先日、PEZAに連絡して聞いたところ「ロジスティックス登録企業は国内市場企業とみなされるため、来年からVATゼロレート資格証明は発行されないだろう」との返事を受けた。 同社は特殊な化学品の輸入・販売なども行っており、VATゼロレートの撤廃が国内調達だけでなく、輸入品に対しても適用されるようになると経営への影響は避けられない。
吉岡社長は「VAT免税撤廃が拡大されれば、比からの撤退を視野に入れなければならない」とした上で、「弊社しか輸入できない化学品もあり、撤退すれば大手メーカーにも大きな影響が出てくるだろう」と予想する。
さらにフィリピンのBIRによる税務調査に関する不信も露わにする。吉岡さんは「以前は3年に1回ぐらい税務調査が入るぐらいだったのが、コロナ禍になってから毎年税務調査が入るようになった」と説明する。しかも毎回、税務調査の結果として「利益よりも大きい法外な追徴課税が提示される」という状況で、「とてもビジネスできる環境にはない」と言い切った。
▽製造業者にもVAT課税の波
一方、2006年にPEZA登録を受けてラグナテクノパークで印刷・包装資材関係の製造販売に従事するY社の加藤肇社長(仮名)は「うちはまだ大きな影響を受けていない」と語る。
PEZAには製造業として登録しているため国内調達などのVATゼロレートがまだ有効なためだ。しかし最近、国内の調達先から「どうして同業他社にVATが課税されているのに、貴社には課税されないのか」という問い合わせが入ったという。
加藤社長は「国内のサプライヤーもVATを乗せて販売しないとBIRからペナルティーを食らう可能性があるため必死だ。『請求書にVATを付加していいですか』というサプライヤーが徐々に増えてきた」と明かす。
また加藤社長はBIRのVAT還付手続きについて「会社立ち上げの時に2年間ほど国内市場企業として活動していた時期があり、1200万ペソほどのVAT還付請求手続きをやったが、5年経っても取り戻せなかった」と振り返る。
加藤さんによると、VAT還付手続きを行うと必ずBIRから税務調査が入ると日系企業の間で噂されており、実際にY社の場合も税務調査が入り、なぜか還付請求額と同額の「1200万ペソの未申告がある」と追徴課税を突き付けられたという。「VAT還付の分と相殺させようか」というメッセージだと理解した。
加藤さんは最近、ある日系企業の幹部から「このままVAT免除が撤廃されれば、フィリピンでの国内調達自体が高くなる。12%VATを1年間支払うお金があれば、ベトナムで新しい子会社が1社作れるよ」と言われたという。
海外から投資誘致を進めるフィリピンだが、その「税務リスク」がVAT取扱いの混乱に乗じて顔を覗かせているようだ。(澤田公伸、続く)
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