労働価値論の可能性ーー贈与としての労働ーーその2
二、労働論の深層化
批判の思想家であるマルクスの労働論には、近代労働者の労働論と、それに対する批判も含まれている。先に見た二つの観点も、マルクス労働論の主要な論点であることは、田畑稔『マルクスのアソシエーション』で掘り起こされている。労働という人間の活動が、価値生産的な活動だけでなく、また、労働が個人の孤立的な行動ではない事は、マルクスにとって基本だった。
問題は、マルクス労働論の核心を突いて、西洋労働観という歪んだ観点の下に築かれたそれを崩し、より正しい労働論の構築にある。マルクス労働論を崩す道具はある。柳田国男と中上健次の労働論だ。まず、中上の労働論を見てみよう。
マルクスは労働論を、自然対人間という観点と、人間対人間という観点の、二つの観点で分析した。しかも、この二つの観点の違いは位相の違いではなく、分析の便宜上のものと思われる。つまり、ここでの人間(労働する人間)は、自然と対等で同等な人間であって、自然も人間も物(ディング)として扱われている。物象(ザッへ)ではない。物としての人間の労働を、マルクスは労働論の根底に据えたと見ることが出来る。
賃金労働などの経済的価値生産労働は、物象としての労働と化しているので、その根底に隠されている物としての労働を見つけなければならない。そのような考察の最高のものに、中上健次の労働論がある。