周囲4面と天井が透明になったプラスチック製の箱を大事そうに持った姫が興奮気味にボクを呼ぶ。
「アゲハチョウの子どもなんだよ」という説明に箱の中を覗き込むと、少ししおれかけたサンショの葉に体長3、4ミリの小さな緑色の虫がくっついている。
「学校の帰りに○○君たちと一緒に探したんだよ。サンショの葉っぱにいたんだよ」
「学校の理科の時間に勉強したの。先生がチョウチョが卵を産んで、卵から小ちゃな青虫が生まれて、それがもう少し大きくなって、茶色っぽく色が変わってサナギになって、そこから出て来るときはチョウチョの形をしてるんだよ。でも、すぐに飛べないんだよ。羽を乾かしてから飛ぶんだよ。毛虫からサナギになるチョウチョもいるの。先生が動画を見せてくれたんだよ」
ここでも興奮気味な口調で一気に淀みなく説明する。
よほど印象に残ったんだと見える。
ボクがあげたパンジーが玄関前に2つのプランターに植えられていて、それが、よほど生育環境に恵まれたか、姫と母親の水やりなどの世話がよかったのか、花は少し小ぶりになり、茎も立ち始めてきているが花数がとても多く、夏至をすぎたとはとても思えないくらいによく咲いている。
我が家のパンジーはすでに終わってしまっているので、こちらの盛況ぶりは際立つ。
そのパンジーに黒い体に赤いすじの入った毛虫が何匹も取り付いているのを見つけた姫は「ママぁ〜、退治しちゃダメだよぉ〜」と大声を上げている。
「サナギになってチョウチョになるところを見たいの」というのだが、母親は渋い顔である。
咲き終わった花柄を摘んだりする時に少しばかり注意すればいい話だが、母親は毛虫が苦手である。
困ったことになったと思っているだろう。
小学校も3年生になると理科の教科も加わるから、興味の対象は飛躍的に増えるようだ。
僕の小学校時代の記憶をたどってもチョウチョに興味を持ったことはない。第1、教えられた覚えもない、というか、記憶にないんである。
教科書でさらっとやったんだとは思うが、絵で説明されたってインパクトは弱い。これはやはり動画の力なのかもしれない。
郊外に古びた動物園があり、遊園地も併設しているような、戦後間も無く地方都市に雨後の筍のように誕生した施設である。
そこは懐かしい空気も流れているのだが、幼児や小学校の低学年までは楽しめる所のようで、姫は1袋100円のくず野菜の餌をおっかなびっくりキャーキャー言いながら上げて楽しんでいる。
アドベンチャートレインに乗りたいというので一緒に行くと、真っ暗なトンネルのあちこちから恐竜やら猛獣が襲いかかって来るたびにキャーキャー言いながら僕の腕にしがみついてきて、大騒ぎしている。
1歳半の妹君は動物にも遊具にも興味は示さず、もっぱら坂道と段差の上り下りを繰り返してご機嫌である。まだ十分にみそっかすなのだ。
アドベンチャートレインには2度も乗り、ワーワーキャーキャーに付き合って、しっかりとしがみつかれてきた。
今、一年中で一番日が長いのだ。
キリンの首が伸びてきたと言ってはキャーキャー、舌で手をペロリと舐められたと言ってはキャーキャー大騒ぎしながら、くず野菜を繰り返し繰り返しあげて楽しんでいた
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