それにしてもテレビで放送されている旅番組の如何に多いことか。
少なくたって地上波、BSを問わず、各局で最低1日1本は流しているんじゃないか。
それが週末ともなると一つの放送局で再放送を含めて3つも4つもやっている。
つまらないドラマなんか見るよりましなことが多いから、ついつい見てしまうが、ああいう旅番組の基本コンセプトは「ねえねえ皆さん、こんなに美しい所がありますよ、知ってました? こんなに美味しいもの食べたことあります?」って見せびらかして、旅に出ることを推奨してんだろ。
ボクだってそういう番組を見て大いに興味を魅かれて腰が浮きかけるなんてことは日常茶飯事だった。
「だった」と断るのは、今は「ちょっと待てよ」という思いが先に立つから。
全国で東京に次いでコロナ感染者数がダントツに多い神奈川県に住んでいる身にすればクワバラクワバラの毎日を過ごしているわけで、感染リスクの高まるようなことは絶対しない、できないってのが本音なのだ。
ボクは小学校中学年の頃、小児喘息を発症して数年の間苦しまされたことがある。
特に秋になって低気圧が近づいてくると、必ずと言っていいほど気管支がヒューヒュー鳴り始め、夜になって布団に入って体が温まるとそれがさらに強まって、呼吸が出来なくなってしまう。
空気を吸いたいと思って思いっきり吸おうとしたって、肺の中には酸素が入ってこないのだから苦しくて苦しくて……涙がポタリとこぼれ落ちたりするんだ、まだほんの子供だぜ。
ボクは発作が起きて苦しくなるたびに、小さな胸に「ボクはどうなっちゃうんだろう、明日の朝を迎えられるんだろうか」という思いが去来して怖くなったものだ。
横になって寝ていられず、布団の上に起き上がってあえいでいるボクの背中をさすってくれる母親の手のひらの温かさがわずかに救いだったが、あの苦しさ、心細さは今思い返してもゾッとする。
コロナが同じではないだろうけど、自力で呼吸できなくなると聞けば、あのまさに小児喘息以上の苦しさに見舞われるってことじゃないの。
意識を失った挙句にそのまま息絶えてしまうなんて…絶対嫌だね、ボクは。
だから感染のリスクが高まるような行動は極力避ける。気を付けていさえすれば、とりあえずは感染を免れることができるのがコロナってやつなのだから。
今、一体幾つの都道府県に「緊急事態宣言」やそれに準じる「まん延防止等重点措置」が出されているんだ?
両方とも、不要不急の外出は出来る限り避けましょう、やむを得ず外出しなければいけない時は不織布のマスクをしましょう、酒を伴う外での飲食はやめてください、ってのが最低限のお約束だろだろっ!
そんな社会状況がひっ迫している最中に「さあ、こんなに美しい景色が待ってますよ、こんなに美味しい食べ物が今旬を迎えていますよ」って、誘っているのが旅番組だってことにテレビ局もスポンサーも気づかないのかね。
唯々諾々とカネを払って‶裏切りの勧め〟をタレ流し、国民をそそのかしているのがスポンサー企業だってことに気付かないでいるとしたら、とんだノー天気だ。企業の社会的責任を自覚できない企業なんて……株主もぼーっとコロナボケか。
テレビ局だってその罪は重い。
「緊急事態宣言が出されているのに五輪を開くのは国民に誤ったメッセージを伝えることに他ならない」などと報道機関を気取っちゃって政府にかみついていたのはどこの誰さ。
五輪と旅番組の差って、そんなに違いが大きいの?
細かいことを言えば、街中の食べ歩き番組なんてのも目白押しだ。
表現力に難があるようなタレントが大袈裟な表現で食レポってやつをしているなんてのはご愛嬌としたって、これに誘われて出かける奴なんかゼロだとでも思ってんのかね。
この際すっぱりと旅番組や食べ歩き番組なんか休止して、コロナ禍に立ち向かう生活の知恵やら家の中での楽しみ方など発掘してきて紹介したらどうなのさ。
世の中には自分の工夫を発信したがっている連中がわんさかいるはずだよ。
そんな連中を集めて毎週コンテストをしてさ、優勝者にはコロナが終わったらハワイへの旅プレゼントとか…
工夫すれば案外面白い番組が出来るかも。
貧すれば鈍すじゃなくて、ヒョウタンからたくさん駒を出してみたらどうよ ♪