平方録

雷門前のホテルにて

午前4時06分。白み始めた窓の外には、低く垂れ込めた雲の中に頭を突っ込みそうになっているスカイツリーが、ビルの谷間越しに見えている。

低い雲に加えて下の路面は濡れているから、どうやら予報通り雨が降っているようだ。
浅草雷門から歩いて1分の、得体の知れないようなビジネスホテルの1室である。
今朝はこれから東武特急に乗って日光東照宮へ行くのである。

当初は朝早く鎌倉の我が家から電車を乗り継いで浅草まで出るつもりでいた。
通勤通学ラッシュの最大ピークの電車に1時間超揺られるのも覚悟していたんである。
それが、急に気が変わったのは昨夕のことである。
雨が降るという。
それも家を出る時間帯の降水予報は5ミリである。そこそこの降りではないか。
田んぼ道を荷物を背負って雨の中をとぼとぼ歩く姿を想像したら、とたんに嫌気が刺してきてしまったんである。

急遽、ネットで探したのが1泊片手のホテルである。
来てみて驚いた。
フロントへの通路はとてもホテルのフロントへのアプローチとは思えぬ。
壁際には空と思われるダンボールが積まれているし、細くて雑然としたところは場末のビルの、裏通りへの抜け道のような塩梅なのだ。

ギョッとしたが後の祭りとはこのことで、もう夜の10時を過ぎている。
ほぼ向かいの、あの神谷バーにしたって閉店時間を過ぎていたのである。
これから別を当たるとなると…

前夜に浅草に乗り込むきっかけはラッシュと雨の回避が目的だが、浅草の酒場を少しばかりほっつき歩けると思ったのである。
神谷バーはそのうちの有力候補だったのだが、それにしても早い閉店時間ではないか。
良い子のバーだったなんて、ちっとも知らなかった。
この歳になっても世の中、知らないことばかりである。

政府は観光立国って大号令かけてるが、
こういう観光地のこういうホテルだって宿の有力候補だろう?
大丈夫かいな。つくづく怪しいもんである。やっぱり思いつき政策なんだろうな。
ん、待てよ、だから民泊なんて言ってんのかね。
何れにしてもいい加減なものにしか見えないぜ。

さて、今回の真の目的は大改修を終えたばかりの東照宮見物に非ず。
1年生のときに続いてリレーの選手に選ばれた姫を応援するのが、最大眼目である。
運動会は土曜日である。東照宮は付け足しなのだ。

最初はびっくりしたホテルだが、何とか無事に朝を迎えられたようである。
これからどこかで朝ごはんを食べ、浅草寺にお参りしてから初めての東武特急に乗って出発である。



天井に届きそうなスカイツリー


右側のビルの2階? から東武特急が出ているんである
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