その存在を知ったのはgooブログの「みんなのブログ」で、気を魅かれたタイトルを見たことだった。
覗くと、毎朝自分で作って食べる食事を紹介していた。
それも判で押したように麺類で、てんぷらそばやある時はカレーうどんだったりした。
朝からそういう物を食べているのか、という一種の感嘆に近い気持ちと、説明そのものがやけにおいしそうで、作り方を参考にしてボクも昼飯に作って食べたりもした。
でも食事の紹介は導入に過ぎず、続いて世の森羅万象についての考察が綴られ、その視点の確かさと知識の深さに「へぇ~」「ほぉ~」とびっくりしたり、世相に対する強烈な反骨精神を感じて同志的親しみも持った。
さらに、昆虫や鳥たちの営みをやさしい目線で追った映像の新鮮さ、さらに植物、特にキノコについての造詣は深く、いつも感心しながら拝読させてもらっていた。
絵を描くことを生業にしている人らしく県内各地で絵画教室を展開していて、サラリーマンに比べれば自由になる時間が多少多めに取れたようである。
サラリーマンじゃ朝からそばを茹でててんぷらを揚げるなんて、なかなか難しいからね。
そういう、異次元の人の息遣いというものは楽しみでもあった。
ボクがそのブログを知ったのが2017年の年明けあたりだと思う。
それが、今でも鮮明に覚えているのだが、ある冬の朝、「あ…鼻血…」「髪の毛にも赤黒いかさぶたが出来る」という気になる文言を残してプッツリと更新されなくなってしまったのだ。
2018年2月26日のことだった。
それからも更新されていやしないかと時々覗きに行っていたのだが、5か月近く経った7月11日、久しぶりに更新されているのを見つけたのだが…
「久しぶりの更新となりますが残念ながら家族が書いております」という書き出しで「5月19日に永眠しました」と極めて淡々と報告されていた。
心配はしていたのだ。でも、そんなことは的中しないでいいのに。
元より見ず知らずの人である。
単にブログを通して意識した人物で、コメントを交わしたことも無い。いわば通りすがりのような関係性なのだが、それでも気になる人というのはいるものである。
ブログの名は「ほぼ不定期日記」。サブタイトルに「散歩ばかりしている男の嘘日記」とある。
更新こそされずにいるが、まだ残っていて、過去のブログにアクセスできるから、ボクは今でも時々読ませてもらっている。
改めて読ませてもらうと、その視点は優しく温かい。加えて深い教養に裏打ちされた文章を書ける人はそうざらにはいない。そういう意味でも残念でならない。
そしてその人物の名前は林信夫さんというのだが、「林信夫の日本画展」と銘打たれた遺作展が開かれていて、1日の土曜日、円覚寺で夏期講座に参加した後、初めてその作品を見てきた。
一言で言えば好きな絵だった。
とにかく題材からタッチ、色使いも含めて優しい雰囲気にあふれている。
ボクに作品展の開催を教えてくれた「教室・自然いろいろブログ」のおいちゃみさんの記述が的を得ているように思えるのでそれを紹介させてもらう。
曰く「ひとりでみている光景だけどけっしてさみしくない 静かでやさしく澄み切った世界は愛に満ちていて 大きな手に包みこまれているような安心感 林さんの人柄を知っている人はなおさら 作品の美しさ、清々しさに納得、あらためて感動します。」と。
会場に3枚ほど在りし日のポートレートが掲げられていて、そこには人懐っこそうな目をした人が親しみのある笑み湛えてこちらを見ていた。
作品からも人となりが伝わってくるようで、いい日本画を見させてもらった。
足を運んでよかった。


庭のブラッシング・アイスバーグ(見出し写真はバーガンディー・アイスバーグ)