蓮實重彦(はすみ・しげひこ)。80歳。
元東大総長にして映画評論の世界では圧倒的な存在感を放つ重鎮だそうで、本職はフランス文学者だそうな。
映画に熱狂したことがないので、映画評論には縁がないし、フランス文学にも特段のめり込んだわけでもないから、気にかけたことのない名前である。
そのジイさんが22年ぶりに書いた3作目に当たる「伯爵夫人」という小説が、新鋭の作品に贈ると規定される三島由紀夫賞に決まったんだそうである。
で、記者会見をするのだが、何と「まったく喜んでおりません」とにこりともせず記者連中を見返しながら言い放ったんだそうな。
加えて「80歳にこのような賞を与えるとは、日本の文化にとって嘆かわしい」とも。
インターネットに会見の一問一答が掲載されていたので、どんなやり取りがあったのか興味が湧き、のぞいてみた。
すると、会見冒頭で司会者が授賞決定の知らせを受けてのご心境は、と質問すると「ご心境という言葉は私の中に存在していません。ですからお答えしません」とにべもない。
ーどこで受賞決定の知らせを受けたか。その時の感想は?
「個人的なことなので申し上げません」
ー候補になった時、事務局から連絡が行ったと思うが、新人賞である三島賞の候補になることをお受けになったのはなぜ?
「それもお答えしません」
ー伯爵夫人と若い青年との出会いというのが、蓮實さんが読んだり映画でご覧になったものが知らずに来たのか。それとも最初に伯爵夫人のような女性が先にきたのか、あるいは青年が来たのでしょうか
「私を不機嫌にさせる限りの質問ですのでお答えしません」
なにも答えないんである。しかも怒っているんである。で、「日本の文化にとって嘆かわしい」とはどういう文脈の中で出た言葉かと思って読み進めたらあったあった。
「受賞会見の場では通常、おめでとうございますの言葉から質問を始めるが、ためらってしまう。受賞について喜んでいるのですか?」という質問にはきちんと質問に答えているのだ。
ちょっと長いけれども引用する。
「まったく喜んではおりません。はた迷惑なことだと思っています。80歳の人間にこのような賞を与えるという事態が起こってしまったことは、日本の文化にとって非常に嘆かわしいことだ思っております。もっともっと若い方、私は順当であればいしいしんじさんがおとりになるべきだと思っておりましたが、今回の作品が必ずしもそれにふさわしいものではないということで、選考委員の方がいわば、蓮實を選ぶという暴挙に出られたわけであり、その暴挙そのものは非常に迷惑な話であると思っています」
そして、あんな作品はいつでも書けるし、書きたいと思ったこともない。向こうからやってきただけだ、と言い放つ。
「向こうから来たというのは、いくつかのきっかけがあったことはお話していたほうがいいと思います。現在93歳になられる日本の優れたジャズ評論家がおられますけれども、その方が12月8日の夜、あるジャズのレコードを聴きまくっていたという話があるんですね。『今晩だけはジャズのレコードを大きくかけるのはやめてくれ』と両親に言われたという話があり、私はその方に対するおおいなる羨望を抱きまして、結局、1941年12月8日の話を書きたいと思っていたんですが、それが『伯爵夫人』という形で私の元に訪れたのかどうかは、私の中ではっきりしません」
なるほど、1941年12月8日は日本軍によるハワイ真珠湾奇襲攻撃の日ですな。
受賞辞退という手もあったんだろうが、その質問にも答えを拒否している。
照れ隠しにしては念が入りすぎているようでもあるしなぁ。機会があったら本屋で立ち読みでもしてみようかねぇ。
「ラスティング・ラブ」。つまり「永遠の愛」=横浜イングリッシュガーデン
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