平方録

ガーデナーのM子ちゃんの結婚式

横浜イングリッシュガーデン開闢以来初めて、バラのハイシーズンに大勢のお客さんが見守る中で、芝生の広場を占拠してガーデナーのM子ちゃんの結婚式が行われた。

「彼氏は出来たのかい」などというぶしつけな問いかけにも嫌な顔ひとつしないで、むしろよく聞いてくれましたとばかりに状況説明を聞かされて来ていただけに、なかなか成就せず、本人も35歳まで延長戦ですなどと屈託なく話していたのだが、内心はどうだったのか。
30歳の大台に乗っていささか焦り気味だったように見えたM子ちゃんだが、念願かなっての結婚式をバラに囲まれて挙げたのだから、咲きほこる大アーチのツルバラの下を通って芝生広場にしつらえられた式場まで相手の男性に腕をからませて歩いてくる間も、緊張するどころか、ニコニコと満面に笑みをたたえて周囲を見回し、笑顔を振りまく余裕ぶりは堂々たるヒロインであった。
披露宴では出された料理をパクパク食べ、胸がいっぱい、なんてしおらしそうなそぶりも全くなし。こういうのを現代っ子と言わずに“宇宙人”とでもいうのかねぇ。

式に参加した同僚のガーデナーたちも、馬子にも衣装とはこのことで、男組は普段見慣れた作業服姿から一転してりりしいこと。
少し年配のE女史は和服で登場し、えっと思うようなあでやかさで、見直してしまった。

余談だが、ガーデン隣の結婚式場は当初、ここの美しい光景を見て、挙式会場に使えば他の結婚式場にはない特別な売り物になると考えたのだろう、使わせてほしいと申し入れてきたのだが、バラの最盛期には身動きがとれないほど大勢のお客さんが入ってくれる中で、結婚式をやったんでは混乱は必至なので遠慮してもらった経緯がある。
だから、写真撮影程度はあったが、式そのものを挙げるのは初めてなのである。
これも彼女のたっての希望で、それはかなえてあげなければ、ということで実現したのである。
歴史的な日なのである。
それでもお客さんが減り始める午後4時からの挙式という具合に、気は遣ったのだ。

M子ちゃんは血液型がABだそうで、屈託のない性格に加えて物おじもしたことがないように思えるほど明るくて、決してめげず、小柄な魅力的な女性である。
だからこの日、結婚式が行われることを知ったガーデンサポーターの人たちをはじめ、彼女を知る大勢の人が芝生広場の周囲に集まって、挙式の一部始終を見ながら彼女の門出を祝福してくれたのである。
わが妻も、M子ちゃんの晴れ姿を見たいとギャラリーに加わったほどなのだ。

式では河合伸志スーパーバイザーからバラの新しい品種がプレゼントされ、2人に命名権が与えられたのである。
咲き出しはピンクで、日が経つにつれて紫に近い色に変化して行き、しかも香りの良い、お洒落なバラだそうである。
2人がつけた名前は「パフューム デ アモーレ」。訳すと「愛の香り」と言うんだそうな。
ヨーロッパでは新しい品種のバラのお披露目にはシャンパンをかけるんだそうだが、それにならって用意された花束の上に2人でシャンパンをかけた時の表情は、ウエディングケーキにナイフを入れるときより嬉しそうで、誇らしげな表情をしていたのが印象的であった。
さすがはガーデナーの結婚式である。

ちなみに、お相手は関西の一流国立大学出の30台半ばの男性で、某地域新聞社の管理部門で働く男性である。
早速10月に第一子が誕生するそうだ。重ねがさねおめでとう。





ガーデンを訪れたお客さんたちも結婚式を挙げている周りを取り囲み、祝福してくれた
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