平方録

てぇへんだ てぇへんだ!

「おうおう八、おめぇ聞いたか? てぇへんなことになっちまいそうだぞ」
「なんだよ熊さん、藪から棒に。鼻息荒くしちゃって。いったいどうしたんでぇイ」
「やっぱり知らねぇな。今教えてやるから耳の穴かっぽじってよぉ~っく聞きな」
「あのな、表通りで羽振りを利かしているメリケン屋の45代目がな、とんでもねぇこと言いだしたんだよ」
「とんでもねぇこと? そりゃまた何でぇい? 」
「あのな、45代がな、ちっちぇえピカドン作るって言いだしたんだよ! 」
「それがどうした? 」
「え~ぃ、じれってぇな。てめ~の首の上に乗っかてるのは土手カボチャか。頭の悪りぃ野郎だ」
「あのな、てめぇがカカアと夫婦げんかする時に鍋のふたやオタマが部屋中を飛び交ってるのは知ってるよ。ドンガラドンガラうるせぇったらありゃしねぇ。しかし、オタマや鍋のふたぐらいなら人様んところまで飛んでくる訳じゃないからみんなニヤニヤしながら静かになるのを待ってんだよ。だけどその夫婦げんかにお互いが大砲持ち出してきてぶっ放し出したら、長屋じゅうが吹き飛んじまうだろう。そこまでは分かるか? 」
「ああ、分かるよ。でも、俺んちはそんな物騒なケンカはしねぇぜ」
「当たりめぇだ! それが江戸っ子の分別ってぇもんよ。でな、そこから先が肝心だ。メリケン屋は今代官所みたいなことを勝手にやってるけどな、みんなが黙って従ってるのはピカドンを持ってるからなんだよ。奴ににらまれてピカドンぶち込まれたら一瞬にして消えちゃうからな。で、黙ってるしかないんだよ。ところがな、メリケン屋意外にもな、隣町のボルシチ屋とかそのまた隣町のマージャン屋とかがなピカドン持って張り合ってて、しかも、マージャン屋とボルシチ屋と仲良くしているニンジン屋の小せがれが真似して小さなピカドンを手に入れちまったんだな。それを見せびらかしてメリケン屋にベロベロバァをして挑発するもんだから、メリケン屋の45代はすっかり頭に来てな、ようし、そのケンカ買ってやろうじゃねぇ~の、それには今までのでっかいピカドンじゃ使い勝手が悪いんで、ちっちゃいものを用意すればすぐに使えるぞってぇ寸法よ」
「そりゃぁて~へんだ。メリケン屋はピカドンを本気で使う気だな、熊さん! 」
「おうよ! やっと分かったかぃ八っあん。しかもな、メリケン屋はメリケン屋なりに『ピカドンを使う時は極限的な状況の下で』と使う範囲を絞っていたんだがな、それも『極限的な状況はうちと親戚筋に対するピカドン以外の重大な戦略的攻撃も含む』っていうように変えちまうんだよ」
「ん? 熊さんどういうこと? 」
「あのな、何も相手がピカドン使った攻撃を仕掛けてこなくても、サイバー攻撃なんかをやってきたりしたらこっちはピカドンで報復するからなって言ってんだよ」
「何かぃ、それじゃぁ核戦争じゃァねぇか。いきなり核戦争がオッ始まるってわけかぃ? 」
「そういうことヨ。そういう恐れは十分にあるナ、八っあん」
「ひぇ~! ナンマンダブ、ナンマンダブ」
「おまけにな、俺たち長屋の大家のアベなんちゃら一味のソトゴト担当の番頭がな、メリケン屋の発表後直ちに『高く評価する! 』って歓迎する番頭談話まで出したんだよ。待ってましたって感じなんだな、これが」
「ヒロシマもナガサキもきっと泣いてるね、熊さん」




立春の夜明け


北影の当たらない近所の屋敷では紅梅がこのとおり

コメント一覧

heihoroku
Re:てぇへんなこと
ろこさま

コメントありがとうございます。
下句をお返しします。
「キノコ雲立つ下の人影」 てなところでいかがでしょう。
ろこ
てぇへんなこと
http://blog.goo.ne.jp/rurou_2005
こんちは。
 はっつあん、熊さん。
 ほんに泣いちまいまさ~ぁネ!
 おまけにかわらばんの親分さんたちは、どこ吹く風!

 ・東風ふかば、おもいおこせよぴかどんを(ろこ)
 
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