平方録

好きっていったの誰ぁ~れだ

「ねぇ、じいじ、内緒のこと教えてあげるから耳貸して」と姫が言う。

何のことかと耳を近づけると「あのね、私のこと好きだといったのだれだ?」と聞く。
「えっ! 男の子に好きだっていわれたの?」
「うん。いわれた」
「へぇ~。クラスの子?」
「そうだよ」
「分かんないよ。誰がクラスにいるか知らないもん」
「『ま』で始まる人」

で、マツイとかマキとかマツモトとか思いつくまま列挙させられ、○○のところで「ピンポーン」という。
苗字に続いて名前も当てさせられた。

「もう1人いるけど、だれだ? 」
「えっ。もう1人いるの? それもクラスの子? 」
「うん、そうだよ」
「う~ん! 」
「『い』が付く人」

「男の子にはどういう風に言われたのさ」
「○○ちゃんが好きって」
「へぇ~! それで何て答えたの? 」
「別に…。『そう』っていっただけ」
「嬉しくないの? 」
「別にぃ~」

と、にべもないのだ。
それにしても、今どきの小学生は1年生から異性への思いを口にするのかねぇ。

振り返ってみれば…、別に振り返るほど豊かな蓄積があるわけでもないが、わが身に置き換えれば確かに好きな子は1年生の時からいたことはいた。
しかし、そういう思いは心の奥底に秘めておくものだと思っていた。
そんなこと口にするのは恥だと思っていたんである。

どうして恥だなどと思ったのか、今となっては見当もつかないが、好きだと思いながらそれを口に出来ない分、思いは強まって行ったと思う。
つまり、恋い焦がれてしまったわけだ。
その好きだった子とは家が近かった。
当時のガキどもは「○○ちゃんは○○ちゃんが好きなんだって~」などと、教室の中でわざとはやし立てて騒いだんである。
そんなことされたらたまったものではない。親に知れるところにもなってしまうし、それだけは避けなければならない。
そう思ったはずである。
雛まつりにも呼んでくれたのに…

しかし、考えて見れば、好きだって告白されても、された方は困っちゃうだろうな。
出来ること? は限られてるし、もし付き合うとするとどういう付き合い方になるんだろう。

いかんいかん、当方は考え方が不純なのである。
幼い恋心はもっと純粋なものなのだ。
忘却の彼方に消えてしまったものを、今の汚れきったフィルターで見ようとするからいけない。

この話からはもう退散である。ジジイの出る幕ではない。
姫だってわざわざじいじの耳に入れたのは、好きだと言われたことを迷惑に思っているのではなく、「別にぃ~」といいながら、すこしは嬉しいはずなのだ。
いいなぁ~、羨ましいゼィ。



波と対峙する姫
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