益虫を退治しちゃった…らしい。
良く晴れた日、ベランダにキャンバス地の折り畳みイスを出して深々と座り、文庫本を読んでいる時だった。
ふと目を上げた先にプランターに植えたナスの苗が大きくなっていて、その葉の上に視線が通過した瞬間、大いなる違和感を感じて視線を止めたのだった。
芋虫や毛虫などの嫌われ者の類ではなく、足が6本…(たぶん)生えていて葉の上をゆっくり動き回っている!
今年の春はバラの花や新芽を食い荒らす憎っくきクロケシツブチョッキリの発生を初期段階で抑え込むことに成功したため、違和感を感じた正体不明のムシを見た途端「成功体験よ再び」というスイッチが入ってしまったらしい。
すぐに椅子から立ち上がり、植物成分由来の殺虫剤を噴霧したところ、株全体に散らばっていた5、6匹のムシは動かなくなり、やがて地面に落下していった。
「我、茄ノ害虫退治ニ成功セリ」…大本営があれば、得意顔でそう打電したいところだった。
そこまでは良かったのだ。
…で、一体ボクは何を退治したんだろうと気になった。
証拠用に撮影しておいた件のムシをグーグルレンズで調べてみると、これが何と「ヒメカメノコテントウ」という、アブラムシを好んで食べるテントウムシであることが分かった。
「……!」
れっきとした益虫ではないか…
こういう時に使うのが「オーマイガー!」だ。ボクの心の内でもこの言葉がガンガン鳴り響いてしばらくやむことがなかった。
ポピュラーなテントウムシは黒い水玉模様が7つ付いた赤い服を着たナナホシテントウで、ヒメカメノコテントウなど初めて聞く名だが、調べてみるとナナホシテントウと一緒の環境に暮らしているそうな。
あまり見かけないのは極端に憶病な性格で、人の気配がするとすぐに逃げ出して姿を隠したり、死んだふりをしてコロッと地面に落下してやり過ごすからだろうという。
我が庭では極力、化学薬品を成分とする殺虫剤の類を使わないようにしている。
面倒でも何でも見つけたら退治する補殺をモットーにし、それで何とかしのいできた。
今年は、例のクロケシツブチョッキリの初期段階でのせん滅作戦が功を奏し、痛く気を良くしていたところでもあっただけに、これは大失態である。
誤爆・誤射による民間人殺戮をしてしまったに等しい。
人間が口にする野菜のナスには絶対に農薬の類は使わない。
樹液を吸うアブラムシを食べてくれるテントウムシは感謝とともに大歓迎しなければならない益虫の中の益虫である。
「2度と過ちは繰り返しません」
どこかで聞いた文言だが、同文をヒメカメノコテントウの霊に誓いたい。