開花宣言のあったソメイヨシノとは違って、こちらはヤマザクラの一種だろうが、春本番が巡ってきていることは確かなようである。
鎌倉という土地は3方を山に囲まれているが、その山肌には至る所でサクラが咲く。
名所と言われるほどのまとまったサクラがない代わりに、春の鎌倉の楽しみのひとつは周囲の山々に点在するヤマザクラを遠くから眺めることである。
わが家の周りにもたくさんのヤマザクラがあり、最盛期になると山肌がピンクや白っぽい色で染まるほどで、こんなにもたくさんのサクラが植わっていたのかとびっくりさせられる。
ひときわ目立つような花の塊を見つけて山道を辿って近づいてみると、遠くから眺めるのと違って、とてつもなく大きく枝を広げていることが多く、その下に立つと圧倒される思いである。
人気のない山懐でこうした巨木の枝という枝の、そのまた枝先まで一杯の花がついているところを見上げるのは、底知れない力を見せつけられているような、何か恐ろしささえ感じ、神々しいというのか、身がすくむような思いにさせられる。
周囲にひと気がないから、そうした思いはなおさら募り、ちょっと近づきにくい雰囲気も漂うのだ。
山道だから平坦ではありえず視線を足下に置いて注意しながら進んでゆくと、視線の先に花びらが散っていたりしているのに気付き、思わず立ち止まって頭を上げれば天を覆うように満開のサクラが広がっていて、もう一度びっくりさせられたりもする。
都会のソメイヨシノと違ってヤマザクラは、近づこうとする人間から身を隠すかのようにひっそりと、その存在を消しながら咲くのである。
新しい葉で山全体が覆われる前のほんのひと時、山肌の所々に明かりが灯るかのように、ぽつりぽつり咲いているのを遠くから眺めるのがヤマザクラにふさわしい観賞方法なのかもしれない。
また今日から寒の戻りだそうで、数日は最高気温10度そこそこの日が続くらしい。じれったいが、春というものはそんなもので、それでも足並みを止めずにやってくるものなのだ。
菜の花の近くではツクシも見たし、わが家の庭ではいつの間にかアケビの花がたくさん咲き始め、モッコウバラにはびっしりと花芽がついて膨らみ始めている。
こういう五言絶句があった。
尋胡隠君 胡隠君を尋ぬ
渡水復渡水 水を渡り また水を渡る
看花還看花 花を看(み)また花を看る
春風江上路 春風 江上(こうじょう)の路
不覚至君家 おぼえず 君が家に至る
こちらの小川を行き、あちらの小川を行き、岸辺の花をあちらこちら見る。春風が川沿いの道を吹く中、いつの間にか、あなたの家に着きました。
明の高啓という人の詩。
爛漫の春を楽しめるのも、あと少しである。
菜の花を見下ろしてヤマザクラが咲き始めた
いつもの空き地に顔をのぞかせたツクシ
アケビに沢山の花がついた。実に期待
強せん定をして切り詰めたので花は期待しなかったが、どうやら花芽が残っていたらしい。数が少ないためか、例年より花が一回り大きく感じられる
モッコウバラの花芽が膨らんできた
ベロニカ。この青い小花を敷き詰めると印象深い庭になりそうである
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