雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載25)







 韓国ドラマ「病院船」から(連載25)





「病院船」第3話➡プライドと使命感②



★★★


 事務長はウンジェに病院船での手術を提案した。
「今、何と?」
 ウンジェは問い直した。
「ジョンホの腕の手術をここで」
「できません」
 ウンジェは断った。
「どうして? 赴任早々、2人も救ったじゃないか」
 手術用の器具を整理しながらウンジェは答えた。
「肝胆膵外科が専門なので対処できたんです。整形外科は専門外です」
「しかし、何か方法があるはずだ。この船の中で頼れるのは先生しかいない」
「無理なものは無理です」
「先生…」
「まったくの専門外なんです。しかも手の接合手術は難易度も高い」
「なら整形外科医に連絡を。誰か知り合いがいるはず…」
 事務長の言葉にウンジェは巨済第一病院の院長を思い出した。


―私はこの病院の院長を務めるキム・スグォンです。整形外科の専門医でもあるので私も手術を…。




 ウンジェは椅子に腰をおろした。
「誰か心当たりは? 適任は?」と事務長。「巨済第一病院のキム・スグォン先生がいる」
「手の外科専門医ですよね」とウンジェ。
「知ってるなら迷う必要はないはず」
「状況は変わりません」ウンジェは事務長を睨む。「船に呼べるわけでもない」
「では、電話して相談すればいい。テレビ局の人もいるし、きっといい方法が…」
「待って」
「このまま、何もしないでいると…」
 ウンジェは叫ぶ。
「患者のためです。それに私は危険を冒さない」
 事務長はため息交じりに言う。
「プライドの問題では?」
「事務長…」
「”私は危険を冒さない”? 下手ないいわけだ。キム院長に助けを乞うのが嫌なだけだろ。人に頭を下げられないってことだ」
「…」
「図星では? 先生は患者を救うより、プライドが大事なんだ」
 ウンジェは立ち上がった。黙って部屋を出ていった。


★★★




 廊下を歩いているとジョンホがヒョンに支えられて出てきた。
「先生に手術をお願いできませんか」
「…」
「してもらえませんか。俺が家の大黒柱だし、じきに子供も生まれる。子供を抱きしめたいんです」
「…」
「先生」
「…ごめんなさい」
 ウンジェは暗い顔でジョンホの前を通り過ぎる。
 そのやり取りを聞いていたアリムが言う。
「ソン・ウンジェ先生は手術しないみたい」
「そら、よかった」
 アリムは腰をおろした。
「よかった、って何がいいんですか? 島民は手術するくせにどうして仲間は助けないのよ」
「節操がないぞ。病院船から追い出せと騒いでたくせに」
「ジョンホさんが気の毒だからです。時間はまだあるから、できることは何でもしないと」
「それは確かに。手術できないかな。腕を失うなんて本人は無念だよ」
「しかし、手術して死なせたら誰が責任を? 重い代償を背負ってやるんだぞ。お前が取るか?」


 
 船内の丸窓から外の嵐を感じながら、ウンジェは携帯を握っている。電話しようかどうか迷っていた。事務長に指摘された通り巨済病院の院長に対し、プライドというか、意地が邪魔してる面は確かにあった。しかし、一方でジョンホとその家族のために手を元に戻してやりたい思いも強い。


 事務長は言った。
 
―自分の胸に聞いてみろ。患者を救うよりプライドを守る方が大事なんだ。


 キム・スグォン院長に対し、ウンジェは臆することなく自分の考えを伝えた。しかし、院長の立場はそうではなかった。


―騒ぎを起こして追放されたくせに偉そうに…!




 2人の言葉を思い浮かべる度、携帯に向かう意思は曖昧なところへ戻っていく。




 丸窓の外に目をやっているウンジェのところにヒョンがやってきた。
「クァク先生も私を説得しに?」
「どうして説得の必要が?」
「…」
「専門外なら仕方ないじゃないか。できることがあればすでにしてるはず。君はそういう人だ。だから」
「いいえ。私は違う」
「ソン先生…」
「私はあなたが思ってるような―人間じゃないの」
 ウンジェはそう言って部屋に戻っていく。




 手術をひとつこなしキム・スグォンはオペ室から出てくる。スタッフに慰労の言葉をかけ、歩き出したら携帯が鳴った。
 スタッフを先に行かせ、キム・スグォンは電話に出た。
「ソン・ウンジェです、先生」
「…まだ何か話すことが?」
「助けてください」
「救急の当直なら…」
「その件ではありません。先生と一緒に患者を助けたいんです」
「”患者を助ける”?」
「前腕切断の患者がいますが、嵐で港へ行くことができません」
「…!」
「放置すれば患者は腕を失います。でも、先生の助けがあれば救えます」
「…」
「お願いします」
「…」
「どうか、お力添えを」
「…切断面は?」
「きれいです」
「なら、やってみようじゃないか」
「ありがとうございます、先生」
 電話を終えたウンジェは、重く張り詰めた気分から解放された。




 ウンジェはくーラーボックスを握って手術室に顔を出した。
「やりましょう、手術」
「えっ!」
「先生…」
「急いで準備を」
 ゴウンはすばやく動き出す。
「テレビ局の人を呼んでください」
 ウンジェはスタッフに指示を出す。
「クァク先生は私の補佐で、モニタリングはチャ先生に任せるわ。出来ますよね」
「はい」
 アリムも手をあげた。
「先生、私は何をすれば?」
「ついて来て」
 みんなはウンジェに従う。声をかけられなかったジェゴルだけが部屋に残った。




 手術の態勢は整った。





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