雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「30だけど17です」(連載159)





韓国ドラマ「30だけど17です」(連載159)




「30だけど17です」第18話(初めてのキス)⑦


☆主なキャスト&登場人物


○シン・ヘソン➡(ウ・ソリ)
○ヤン・セジョン➡(コン・ウジン)
○アン・ヒュソプ➡(ユ・チャン)
○イエ・ジウォン➡(ジェニファー(ファン・ミジョン)
○チョ・ヒョンシク➡(ハン・ドクス)
○イ・ドヒョン➡(トン・ヘボム)
○チョン・ユジン➡(カン・ヒス)
○ユン・ソヌ➡(キム・ヒョンテ)
○チョ・ユジョン(イ・リアン)
○ワン・ジウォン(リン・キム)
○アン・スギョン(チン・ヒョン)
★★★

 ウ・ソリの引き揚げた後、リン・キムは思案に沈んだ。
 さっきの音響エンジニアへの注文といい、ソリの言葉といい、シム・ミョンファン先生の言葉といい、何かに急き立てられてきた自分の像がふいに見えたような気分に囚われていた。
 その時、携帯が鳴った。
 母親からのメールだった。
「完璧な舞台にしてね。ママはあなたが誇らしいわ」
 彼女はふっと息をついた。 これだったのね〜、自分をいつも追いつめていたものの正体は…。
「あなたが完璧なら―指揮者も一般高校の子に興味を示さない…」
 彼女はシム先生の言葉を思い起こした。


― 私は彼女の演奏が好きだ。それは正確でなくても楽しんでいるからだ。他人と較べる必要はない。


 次にウ・ソリの言葉を思い起こした。


― 監督は完璧な人です。成功を収めて羨むものもない。…何かに追われるみたいに続けたくないんです。私は音楽を楽しみたいので。


 息苦しさを感じて彼女はシャツの胸元のボタンを引きちぎった。
 ふうっ〜と息を吐いた。

★★★


 河沿いの表彰台の上にチャンたちは立った。
 優勝して派手に喜びを表しているのはプンジン高校の部員たちだったが、チャンたちも銅メダルをもらい互いの健闘を讃え合った。
 コーチも彼らを見て満足した。両手を広げるとチャンはその胸に飛び込んだ。
「よくやった!」
 他の部員もコーチを包み込んだ。
 ドクスはひとり、コーチの前で申し訳ない顔をした。
「大丈夫だ。よく頑張った」
 横からチャンも同調した。
「銅メダル取ったんだぞ」
「お前たちが誇らしいよ」
 コーチは皆を促し円陣を組んだ。
「テサン、やったぞ、ファイトーッ!」
 プンジン高校のコーチがチャンたちを見て笑みを浮かべた。
「金メダル並みに喜んでるよ」
 後ろから記念写真の集合がかかる。
 踵を返す時、足首にチクと痛みを覚えた。
 チャンを見てドクスが声をかける。
「どうした?」
 チャンはとっさに弁解した。
「何でもない」
 そう言って記念写真の列に入った。


 音響の調節を懸命に行ったエンジニアはリン・キムに電話を入れた。
「最善を尽くしたけど、これが限界だ」
「…」
「聞いてますか? キム監督」
 少し考え、リン・キムは言った。
「それでやってみましょう」


「…5、4、3、2」
 イベントのカウントが始まった。
「1!」
 その瞬間、いっせいにライトが点った。
 拍手が沸き起こり、ステージからは「ラデツキー行進曲」が流れ出す。
 集まった観客はそれにあわせて手を叩き出す。


 ステージを眺めながらウジンは手を伸ばした。ソリの手を握った。
 ソリはそっとウジンを見やった。手をウジンに預けたまま、笑みを浮かべた。
 
 曲にあわせた背景の映像に観客たちは歓声をあげた。
 リン・キムも和らいだ表情でステージに目を注ぐ。
 そこにスタッフが駆けつける。
「監督、大変です」
「どうしたの?」
「打楽器のメンバーが急病です」
「急病!」
「はい。診察にあたった先生によると食事のアレルギーだそうです」
 リン・キムの表情は曇った。
「次は”おもちゃの交響曲」だったわね?」
「はい。幸い次の曲ではおもちゃを鳴らすだけなので、だれでもできます」
 リン・キムは首を横に振った。渋い顔になった。
「曲を把握してる人じゃないとパーカッションのタイミングを合わせられないわ」
 しばし考え、顔をあげた。
「やっぱりだめだ。私がやるから衣装を」
 話すのを中断した。ふと、思い浮かぶ人がいた。
「ちょっと待って〜」
 彼女は視線を横に走らせた。
(私よりも彼女の方が…)


 リン・キムはウ・ソリのもとに出向いた。
 事情を話し、パーカッションのピンチヒッターを願い出た。
 急のことでソリは返答に窮した。
「私には…」
「無理でしたら、私がやります」
「…」
「でも一度、頼んでみたかったんです。ソリさんが決めてください」
 
―ずっと音楽を好きでいたい


 それはバイオリンであれ、パフォーマンスであれ、同じだ。ソリはリン・キムの依頼を引き受けることにした。


 ソリは演奏のステージに立った。
 最初は緊張気味だったソリも演奏が進むにつれ、昔のカンをどんどん取り戻していった。
 音楽を楽しむ、音楽を楽しむ〜
 演奏のリズムをとらえたソリのパーカッションはステージの流れを掌握し、会場の笑顔まで引っ張り出した。ウジンもテスもヒョンも、音楽の楽しさがソリの笑顔から来ているのをかすかに感じていた。
 リン・キムもステージを見て思った。


― ソリさんの笑顔を見ていて分かる。音楽の楽しさってこれね。彼女に頼んでほんとによかった。
  
 演奏が終わった後、大きな拍手が起こった。
 ウジンやテスやヒョンやリン・キムの拍手の半分は、ウ・ソリに送られたと言ってよかった。


 ステージの花道に腰をおろしてソリは空を眺めた。
「月が見えないわ」
 手指でウサギを作った。これをかざして今夜は月を見ることができない。
 考え込んでいるところにウジンがやってきた。
「ここで何してるの?」
 ソリは顔を上げた。
「別に、何でもないです」
 ウジンも横に腰をおろした。
「寝ないんですか?」
「ソリさんが気になって」
 ソリは目を落とす。
「寝ないの?」
 ソリは顔を上げた。前を見て言った。
「なぜか眠れなくて」
「眠れない時は理由がある」
 ウジンを見て、ソリは考え込む。
「舞台に立った時のことがどうしても―頭から離れないんです」
「…」
「嬉しいような、気まずいような…楽しいような、気恥ずかしいような」
「…」
「ついさっきの出来事なのに、実際に起きたことなのか…実感が湧かないんです。現実ではなく、夢を見ていたような気分というか―いくら考えても、よくわからないんです」
「…」
「果たして、その夢がいい夢だったのか、悪い夢だったのか…」
「いい夢ですよ」
 ソリはウジンを見つめ返した。ウジンは笑顔になる。
 手にした書類を差し出す。手にしてソリはウジンを見つめる。
 どうぞ、とウジンは両手を広げた。
 それは自分の笑顔を鉛筆でスケッチした絵だった。ソリはびっくりした。
 ウジンは言った。
「舞台でステキな表情をしてました」




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