春のワルツ 第9話「失敗に乾杯」
まずはNHKガイドから
チェハのロード・マネージャーとして働き始めたウニョンだったが、イナには冷たく扱われ、チェハからも怒られてばかり。しかし持ち前の明るさで徐々にチェハの心をつかんでいく。そんな二人の姿を見たチェハの母チスクは、気が気ではない。苗字こそ違え、「ウニョン」という名がどうしても気になるのだ。チスクは夫ミョンフンに、幼き日に別れたウニョンが今、どこにいるのか調べて欲しいと頼み込む。一方、大臣の座を目前にしたミョンフンの元にも、「チェハの子供時代について知りたい」と、イナの友人記者ヒジンが訪れていた。
チェハが出演する、トンヨン音楽祭の日がやってきた。イナは会場まで一緒に行こうとするが、チェハは「コンサートの当日は一人で移動する」と、あっさり断ってしまう。イナはウニョンに、チェハを駅まで送ったら会社で資料整理をするよう命じ、一足先に会場へと向かった。初の仕事らしい仕事ができると思っていたウニョンはがっくり。その姿を見たチェハは、会場までウニョンに送ってもらうことにする。ところが事故で道は大渋滞。コンサートの開始時刻は、刻々と迫ってくる・・・。
次に撮影中のエピソード。
さすが、NHK。いいエピソードを集めてくる。これを読むだけでも嬉しくなる。
●1週間で韓国一周!?
チェハのコンサートが行われた美しい海辺の町。ウニョンとチェハがニワトリを積んだトラクターと衝突しそうになり、結局一晩泊まることになった民家・・・。今回は、ソウル以外の町で撮影されたシーンが多く登場しました。
実はこの撮影は、韓国国内を縦横無尽に駆け巡ったという超ハードスケジュール。コンサートが行われた町は、キョンサンナムド(慶尚南道)のトンヨン(統営)市。朝鮮半島の南東の海岸に位置し、ソウルから300キロほど離れたところにあるリゾート地です。その次に撮影隊が向かったのは、ニワトリを追いかけた農家があるチョンラナムド(全羅南道)のスンチョン(順天)市。朝鮮半島の南部に位置します。そして、次週10話に登場する教会があるのは、チュンチョンブックト(忠清北道)のウンソン(陰城)郡。ソウルの南東100キロほどの場所にあります。なんと、1週間の間にこの3箇所の撮影が行われたとか。単純にソウル→トンヨン→スンチョン→ウンソン→ソウル と地図上の直線距離で図ってみたら、なんと移動距離、約750キロ! 見た目にはのどかな風景が多く登場するこのエピソードですが、「制作現場はものすごく大変だった」とユン監督談。皆さんも地図で探してみてくださいね。
※6月2日より掲載していた当コラムで、ニワトリを追いかけた農家の撮影場所を「カンジン(康津)」としておりましたが、その後の調査で「スンチョン(順天)」であることが判明したため、訂正させていただきました。お詫びもうしあげます。
次は感想
このドラマはウニョンがチェハとフィリップ、チェハがウニョンとイナに挟まれて展開する恋のストーリーである。現在進行形として、いろいろのエピソードや行き違いを発生させながら、ウニョンとチェハの心の中の思い出世界にある初恋の姿を洗い出す仕掛け、となっているように僕は思う。それが「春のワルツ」というタイトルで表現されているのだろう。
だから、チェハより先んじてウニョンへの思いを一途にぶつけるフィリップの恋心は、決してチェハより前へ進み出ることはできない。ウニョンはスホへの思いを今も引きずっているし、何となくチェハの存在を気にするのは、彼がスホと重なる、あるいはふと思い出させてしまう部分を持っているからなのではあるまいか(今回でもその場面が出現した)。
チェハはスホの替わりをはたしている、それだけの理由でフィリップよりチェハは存在感が強い。
一方、意味合いは違うが、イナのチェハへの思いもまたウニョンより先んじて進むことは出来ないと思われる。スホが事情でその名を捨て、チェハとして生き始めた時、イナは彼と関わりを持ち出しているようだ。イナがチェハのどのような面に心をときめかせたのかは正確に伝わってはこないが、神童の名をほしいままにしたピアノの才能におんぶされた印象はぬぐいがたい。少年少女時代の恋がこのような打算めいたものを発生させては、インパクトも弱くなる。スホという本体でなく、チェハという分身を愛している彼女の立場はさらに弱くなる。
スホとウニョンの初恋はもっと素朴でもっとストレートだった。お互いの存在以上何も求めなかったし、打算も計算もそこにはなかった。相手を思う気持ちがただあった(ウニョンは特にそうだった。ウニョンの思いが通じ、別れ間際のスホにはウニョンを守りたい気持ちだけが働くようになっていた。ウニョンは死んだと聞かされ、スホはウニョンを忘れるため、チェハとして生きる決心をしたとも言えるのだ)。
第9話は、チェハとウニョンによる(道草・寄り道)がとても気持ちよかった。
チェハがウニョンにあげたコンパクトの件で嫉妬にかられているイナは、スタッフ会議の席でわざとウニョンをシカトする。「ロードマネージャ」として、チェハの側近スタッフとなったのに彼女を紹介せず、ミーティングを推し進めようとしたのである。
何だこの態度は、といった風なフィリップ。チェハのしかめた表情。所在なさそうにするウニョン。たまりかねてフィリップはウニョンの紹介が先では、とイナにうながす。
チェハの前でウニョンの使っているコンパクトを見せてくれというイナもひどい。チェハへのあてつけだろうが、女の嫉妬というのはそんな風に表れるものなのか。これではチェハの心をさらに遠くへやってしまいそうだが、チェハは自分のもの、との主張で、あんたは引っ込んでてよ、の態度が露骨である。
チェハの売り出しをかねてのライブコンサートの実行でも、イナはウニョンを現地に帯同させない。チェハはいつも一人で行くから、あなたはチェハを駅まで送った後、事務所で事務処理でもやってなさい、といった理由によってである。
ロードマネジャーとして最初の仕事を楽しみにしていたのに、と残念がるウニョンをどことなくいたずらっぽく見つめるチェハ。時として反発の態度も見せるウニョンをどういった理由で一緒させようかと考えていたところへ、これはいい理由が飛び込んできたと言いたげな顔になる。そして、一人で行くのはやめた、と切り出す。
ウニョンの運転で二人はコンサート会場に向かった(NHKの撮影エピソードでは300キロの距離となっていた)。しかし、この種の流れの定番というか、とある都市の街中でウニョンらの車は渋滞に巻き込まれる。ウニョンはとっさの機転でスクーターを借り出し、チェハを後ろに乗せて走り出す(どうやら、目的地はそう遠くなかったようだ)。
チェハの到着時間が遅れ、苛立ちを見せるイナ。苛立ちも嵩じたところへスクーターに乗って現れる二人。イナの苛立ちは怒りに変わって、どうして列車に乗せなかったの、とウニョンを責めるのである。
チェハがそれを庇うとイナはそれがますます許せなくなって・・・。
一方、フィリップは単純にウニョンの到着が嬉しくて、チェハそっちのけで乾杯などやってる・・・。
帰りもチェハはウニョンと二人だった。後ろのドアを開けると、チェハはそれを閉め、助手席に乗り込んでくる。嬉しさを表すウニョン。
帰りは順調とおもいきや、とある田舎道で、ウニョンの車は出会いがしらで農耕車とぶつかりかかる。それですめばよかったが、農耕車は農地に突っ込んでしまう。そしたら、その車には鶏がいっぱい積んであって、檻のふたが開いて鶏が逃げ出したから、さあ大変だ。
おじいさんが一人で追いかけ出すのを黙って見ているわけにもいかず、ウニョンらは、「オットケーッ!(どうしよう)」とばかり、外へ飛び出す。ケッコ、ケッコ、もう、ケッコーとばかりに逃げ回る鶏を追いかけだしたのである(この時、僕に去来したのは子供時分の二人の無心さだった)。
鶏回収を手伝って感謝された二人は、おじいさんにぜひ家に寄ってくれ、と言われてやむなくそこに立ち寄ることに。チェハがお腹を鳴らすので、夕食をご馳走になり、子供の面倒を頼まれたりしていろいろあって(その間、イナからかかってきた電話をとっさに切るチェハ。ウニョンとの二人の時間を楽しみたいようである。一方、ウニョンは携帯を車に置き忘れていた)、いよいよ布団が延べられて就寝の場面になる。形ばかり別々だが、部屋を妨げるものはカーテンだけ。
なかなか、寝付けない二人。チェハが身を起こすとウニョンも慌てて身を起こす。眠っていても、互いの存在を意識しあっているのだ。
「絶対、こっちへ来ないでよ」
「僕にも目はある。誰が小娘なんかに」
「何ですって」
「心配しないでいい。頼まれてもそれはないから」
頭にきてかけ布団をあたまからかぶるウニョン。
朝がきて、チェハが髪に結んでくれたハンカチに、スホが結んでくれたリボンの記憶を重ねているウニョン。
車の中で寝ているチェハ。
「眠りもしないで何してたのかしら」
と笑顔のウニョン。
もちろん、ウニョンがそばにいることが気になって仕方なかったはずだ。
その頃、チェハの父はウニョンの戸籍謄本を取り寄せていた。そこには、ソ・ウニョンとの名が・・・。
さらに、ウニョンとイナもいよいよ険悪な関係と化してきて・・・。
本線がどろどろ化してきた分だけ、二人の道草場面が浮き浮き活き活きとして楽しい今話であった。
まさに、庶民派ウニョンの魅力、爆発といったところ。
チェハの言葉は負け惜しみだったとしか言いようがない。