雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載148)

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 韓国ドラマ「病院船」から(連載148)




「病院船」第14話➡友の思い④




★★★


「”今度戻ったら」
 背後で女の声がした。
 病室に入ってきたのは娘のジウンだった。ジウンは続けた。
「”必ず約束を果たす”、”クァクジの好きなあの島で”、”シャボン玉遊びをしよう”」
「ジウン…」とスギョン。
「”カッチ”じゃなくて、”クァク・ジ”よ、母さん」
 娘に言われてスギョンは島で遊んだ日のことを思い出す。ジウンもまた思い出し始める。
「嫌よ! 私は智恩なんか嫌なの。私は智恩じゃない」
「ジウン、何言ってるの」
「嫌だ。嫌だってば! パパは善(ソン)、兄さんは賢(ヒョン)なのに、私の名前だけ長いの」
「そんなことでダダをこねないで」
 スギョンは必死にジウンを説得したのだった。
 あの日、ジウンは泣きながら反発した。
「智恩は嫌、他の名前にする」
「じゃあ、どうすればいい?」
 スギョンの後ろに立っている男が訊ねた。
 ジウンは喜んだ。
「パパだ」
 ジウンはパパの胸に飛び込んだ。クァク・ソンは抱き上げて娘に言った。
「じゃあ、名前を変えればいい。だろ?」
「”クァク・ジ”」
「そうだ、クァク・ジ。パパはクァク・ソンで兄さんはクァク・ヒョン。そしてお前はクァク・ジ。はっははは」
 スギョンは立ち上がって言った。
「あら、よかったわね。クァク・ジになったわ」
「そうだ、お前はクァク・ジだ」
 クァク・ソンはそう言ってジウンのほっぺにキスをした。 
「クァク・ジ…」
 ジウンはふと閃いて母親を見た。
「約束を果たしに…?」
 スギョンは思い当たってため息をついた。


 その頃、クァク・ソンは船に乗って懐かしの島へ向かっていた。


★★★


 スギョンとジウンもクァク・ソンを追って島へやってきた。




 ホ・グンヒを病院に向かわせる段取りがついたところでウンジェは言った。
「お父さんを捜しに行った方がいいわ」
 ヒョンは首を振る。
「まだ患者が…」
「私に任せて。先生は務めを果たしたから、後は私がやる。だからお父さんのもとへ」
「…」
「早く行って」
 ヒョンはウンジェを見た。頷くと駐車場に向かって走った。ヒョンを見送った後、ウンジェは救急車に乗り込んだ。




 スギョンとジウンはクァク・ソンを捜しあてた。
 テトラポットに囲われた灯台のそばだった。石段に腰をおろし、ひとりで何やら楽しそうにしていた。
 ジウンは先に父親のもとに歩いてきた。
 父親はシャボン玉を飛ばして遊んでいた。
 ジウンは訊ねた。
「ここで何をしてるの?」


「ここで何をしてるの?」
 クァク・ソンは娘を見た。
「娘を待ってる」
「娘さんは何歳ですか?」
 クァク・ソンは娘を見つめたまま答える。
「6歳」
 ジウンの目は潤んだ。父親のそばに腰をおろす。
「では…娘さんのお名前は?」
「クァク・ジだ」
 ジウンは言われた名をなぞった。
「クァク・ジ…」
 やっぱりあの日のことは忘れていない。夫の心にとどまっている。
 イ・スギョンは2人のそばには近づかない。夫を詰りだすのが怖かったし、ふいに泣き出してしまいそうなのも怖かった。
「本当はクァク・ジウンだが…娘はクァク・ジの方を気に入ってるんだ」



 ジウンは笑顔を誘われた。
 横に水遊びの赤いおもちゃを置いてある。今まで遊んでいた物と同じ形をしている。6歳の自分のために用意したシャボン玉のピストルだ。機関銃のようにシャボン玉を発射するおもちゃだ。
 そうと分かっていてジウンは訊ねた。
「これは何ですか?」
「これ?:
 クァク・ソンはおもちゃを手にした。
「バブルガンという物だ。娘はシャボン玉遊びが好きだから」
 そう言って二つ握ってシャボン玉を飛ばし始める。6歳の頃の自分を思い起こし、ジウンの表情はどんどんほぐれてくる。


 ジウンは記憶の中にある父を今の父に重ねた。
「私も―一緒に遊んでもいい?」
「いいよ。娘は神経質だから大事に扱ってくれ。傷つけたら―娘にひどい目に遭わされるかも…」
 これを傷つけたら…6歳の自分が今の自分に怒る―ジウンは涙ながらに笑いを返す。
「気をつけます…」
 クァク・ソンは赤いのをジウンに握らせた。
 一緒にシャボン玉を飛ばした。
 クァク・ソンはジウンに言った。 
「銃からシャボン玉が出るとは不思議だな…だろ?」
「そうですね。世の中のすべての銃が…バブルガンだったら、父さんは戦場に行かずにすんだのに」
 涙を浮かべてジウンは言った。
 クァク・ソンは訊ねた。
「父さんは…戦場に行ったのか?」
 ジウンは頷く。
「会いたいか?」



 父親を見て頷いた後、ジウンは大きな声で泣き出した。
 クァク・ソンはそっとジウンの肩を抱く。その手を握ってジウンは泣き続けた。


 2人を見ていたイ・スギョンも涙を誘われて泣いた。
 ヒョンはそこに駆け付けてきた。泣いている母親の手を取る。スギョンはヒョンの腕の中で子供のように泣きじゃくった。


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