雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載147)

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韓国ドラマ「病院船」から(連載147)



「病院船」第14話➡友の思い③




★★★


 オンジャはグンヒのことをゴウンに話して聞かせた。
「見かけはきついけど、心根は優しいんです」
 頷くゴウン。
「そのうえ、料理もとても上手で、そこらへんでつんできた野草でも、すてきなごちそうに作り変えるんです」
 船室に入ってきたヒョンはオンジャの話を聞くともなく耳にした。
「自分の母親の具合が悪いからと― 帰郷してから一日も欠かさず、
野山に行っては山菜を採り…」
 特に気にする話でもなさそうと傍を通り過ぎたヒョンは突然足を止めた。
 山菜? 
 突然、気になることがヒョンの脳内を走った。ヒョンはオンジャのそばに歩み寄った。
「山菜ですか?」
 オンジャはヒョンを見た。
「はい…」
「毎日、山菜採りに?」
「はい。それがどうかしましたか?」
 ヒョンの中で気になるものは閃きに変わった。急いで診療室に戻っていく。
「何事ですか?」
 オンジャはゴウンに訊ねた。
 ゴウンも首を傾げた。
 ヒョンは診療室に飛び込んだ。
「高熱の原因が分かったよ」
「それは何?」
「この患者は2週間、毎日、山菜採りに行ってた。秋に流行する感染症だろう」
「もしかして」とアリム。
「ツツガムシ病?」とウンジェ。
 ヒョンは頷いた。
「その可能性が高い?」
 ヒョンは急いで虫が刺した場所のチェックを開始した。
「刺し口はどこかにあるはずだ」


★★★


ヒョンは患者の身体を足から調べ出す。
「虫に咬まれてできた瘡蓋がどこかにあるはずだ」
 あちこち調べ、腹部においてヒョンは虫による瘡蓋を見つけた。
 へその周辺に瘡蓋が二つ出来ている。
 ウンジェは得心した。
「確かにツツガムシ病のようね」
「急いで血液検査をやろう」
 アリムはすぐ薬剤室に走った。
 ウンジェが言った。
「病院船に試薬はないわよ」
「いや、あるんだ」とヒョン。「秋に流行する病気だから備蓄しておいた」
 ヒョンの説明にウンジェは感心したように頷く。
 ヒョンは急いで血液検査を行った。やがてアリムが検査票を持って
きた。ヒョンは検査票に見入った。


「どうだった?」
「ツツガムシ病に間違いなかった」
「治療薬も当然備蓄してるよね?」
 ヒョンは頷く。
「これでひと安心だ」
「さすがだわ、クァク先生」
 感心してるアリムにウンジェは笑みを浮かべる。
「…ユ先生。ドキシサイクリンを200ミリ投与して」
「はい、先生」
 アリムは診療室を出ていく。
 ヒョンとウンジェは満足そうに笑みを交わしあった。




 ヒョンはオンジャにホ・グンヒの病気について説明した。
「ツツガムシ病?」
「はい。抗生剤を投与しましたが、入院が必要です。治療すればよくなります」
「…」
「あなたの顔も分かるようなりますよ。それに話もきっと聞いてくれるはず」
 ヒョンの説明にオンジャは感激した。
「何とお礼を言えば? ありがとう。感謝してもしきれないほどです」
「ご友人はきっとよくなります。心配しないで」


 ウンジェは2人のやりとりに耳を傾けているうち、ヒョンの思いやりを受ける女性と自分が重なるような気分を味わった。




 夫の入院する療養病院にやってきたイ・スギョンは、夫の必要具をカバンの中から取り出してベッドの上に並べながら、ため息をついた。



「医療に尽くして来たのに、その人生は限りなく空しいわ」
 スギョンは出て来た折り畳み式の財布を開いた。家族写真が目に飛び込んできた。スギョンはそれを見て目を潤ませた。
 そこに療養病院のスタッフが顔を出した。
「いかがですか? 何か手がかりは出てきましたか?」
「まだよ。まだ何も…」
 少し迷うような表情をしたからスタッフは切り出した。
「お役に立つかどうかわかりませんが…」
「ええ、どうぞ」
「数日前、先生に捜してほしいものがあると言われました。行くところがあるからと…」
「何を…、何を捜してほしいと?」
「”カッチ”とかおっしゃってました」
「…?」
 スタッフも首をかしげている。
「愛犬の名前かもしれません…少し前に、寝言でも…”カッチ、ここにおいで”とか、”カッチは可愛いな”、”今度…」
「”今度戻ったら」
 背後で女の声がした。
 病室に入ってきたのは娘のジウンだった。ジウンは続けた。
「”必ず約束を果たす”、”クァクジの好きなあの島で”、”シャボン玉遊びをしよう”」
「ジウン…」とスギョン。
「”カッチ”じゃなくて、”クァク・ジ”よ、母さん」
 娘に言われてスギョンは家族で遊んだ日のことを思い出す。ジウンもまた思い出し始める。



「嫌よ! 私は智恩なんか嫌なの。私は智恩じゃない」
「ジウン、何言ってるの」
「嫌だ。嫌だってば! パパは善(ソン)、兄さんは賢(ヒョン)なのに、私の名前だけ長いの」
「そんなことでダダをこねないで」
 スギョンは必死にジウンを説得したのだった。
 あの日、ジウンは泣きながら反発した。
「智恩は嫌、他の名前にする」
「じゃあ、どうすればいい?」
 スギョンの後ろに立っている男が訊ねた。
 ジウンは喜んだ。
「パパだ」
 ジウンはパパの胸に飛び込んだ。クァク・ソンは抱き上げて娘に言った。
「じゃあ、名前を変えればいい。だろ?」
「”クァク・ジ”」
「そうだ、クァク・ジ。パパはクァク・ソンで兄さんはクァク・ヒョン。そしてお前はクァク・ジ。はっははは」
 スギョンは立ち上がって言った。
「あら、よかったわね。クァク・ジになったわ」
「そうだ、お前はクァク・ジだ」
 クァク・ソンはそう言ってジウンのほっぺにキスをした。 
「クァク・ジ…」
 ジウンはふと閃いて母親を見た。
「約束を果たしに…?」
 スギョンは思い当たってため息をついた。


 その頃、クァク・ソンは船に乗って懐かしの島へ向かっていた。


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